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トランキライザー莉理香 最後の事件ー演繹城の殺人ー  作者: Futahiro Tada


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14/22

もう一人の私、もう一人の敵

「一人は死んじゃうってこと?」

 不安な声で茉莉香は言う。

 二人とも生き残れなければ今まで戦ってきた意味がないではないか。多くの探偵と刑事が死にギリギリのところで生き残ったのである。なのに、ここでも篩いにかけられるとは思ってもみなかった。

「どうして…」ルールズが言う。「そんなことを言うのよ。二人とも生かしてここから出して頂戴。あなたじゃ話にならないわ。代表者を呼びなさい」

 黒弥撒はルールズの方向を見て腕を組んだ。なにやら考え込んでいるようだが、詳細は不明である。ただ、頭上からぶら下がっているシャンデリアの明かりが奇妙に黒弥撒のことを照らし出している。どこまでも不気味だ。室内は静まり返りピンと張り詰めた緊張感が漂う。

「僕らはね」黒弥撒が告げる。「ある人物を除きここに集めた探偵や刑事たちを皆殺しにするのが目的さ。だからこうやって君たちを集めた。でも僕は君たちを殺すのは凄くもったいないことだと思っていてそれで反論していたんだ。まぁ僕の意見はなかなか採用されないんだけどね。でも僕は黒弥撒の代表者だからその威厳を保ちたい」

 言っていることがよく判らない。茉莉香は目を大きく見開いて黒弥撒の話を聞く。時より遺体の方向へ目を向けて犠牲になった人物たちを見つめる。黒弥撒は何を言っているのだろうか?彼は自分が今まで出てきた黒弥撒の代表者であるようなことを言っている。こんな小さな少年が黒弥撒の代表者?そんなことがありえるのだろうか?茉莉香もルールズも疑心暗鬼の瞳を浮かべ黒弥撒を見つめる。

「で、でも…」静寂を破るように茉莉香が呟く。「ふたりの内、一人を助けるって言うのはどういうことなの?どうやって助ける人を決めるの?」

「それは簡単だよ」と、黒弥撒。「生き残った君たちは探偵だ。となれば今までの事件を推理してもらうのが一番手っ取り早い。僕は推理小説なんて全然読まないけれどアニメでは見たことがあるよ。どんな難解な事件でも解決に導くのが名探偵なんでしょ?じゃあ君たちにもそれができるはずさ。なんていったって君たちは全国でも有名な探偵なんだからね。今までの事件を解くことくらいわけないはずだよ」

 そうは言うもののこの条件は茉莉香にとって圧倒的に不利である。茉莉香はただの中学生で莉理香のように稀有な推理能力があるわけではない。それに、今までの殺人事件のすべてを把握しているわけではないのだ。記憶は断片的であるし何よりも状況が上手く飲み込めない。

 ただ一つ考えられるのは殺人を犯したのはすべて黒弥撒ということだろう。それ以外は考えられない。となると、最早推理するまでもないのではないか?茉莉香がそう考えていると黒弥撒が再び言う。

「時間はたっぷりあるよ。僕はここに座っているし今まで犠牲になった人々の遺体は置いてあるから自由に見て構わないよ。これだけの条件があれば事件を解くくらいわけないよね」

 あっさりと言う黒弥撒であったが、当然、茉莉香とルールズにとっては不満だらけである。ルールズは物憂げな表情を浮かべながら黒弥撒に尋ねる。

「馬鹿なこと言わないでよ。この状況でどう推理しろって言うのよ。確かに遺体はあるけどここは現場ではない。ルナルナ17さんは首を切り取られたしくそったれ魂さんはズタズタに切き裂かれた。遺体を見ただけじゃ推理の仕様がない。この事件は特異な部屋が殺人のキーポイントになっているはずだから現場の状況が判らない限り推理するのは難しいわ」

「ふ〜ん、君は名探偵の癖に色々とうるさいんだねぇ。まぁ確かに現場の状況を見るのは正しいことかもしれないね。だけど現場を見ても仕方ないよ。もうほとんど片付けちゃったみたいだし」

「ねぇ、あなたたちは何人いるの?そして、何の目的でこんなことをしているのよ?」

 ルールズの目が細くなりキッとした強い目線で黒弥撒を見つめている。対する黒弥撒は仮面越しにため息をついた後静かに質問に答える。

「僕らが何人いるかか…それは僕にも把握できていないんだ。きっとたくさんいると思うんだけどね。だけど、僕がその代表者だよ。いつもはこんなに出しゃばったりしないんだけど今日は特別だからね。無理言ってこの場に出て来たんだ。同い年の莉理香ちゃんっていう探偵も見たかったしね」

 どこまでも不可解な解答である。

 自分が黒弥撒の代表者であるのに全員の素性を把握していない。こんな馬鹿なことがあるだろうか?第一、こんな小さな少年が事件の首謀者であるとは考えられない。莉理香と同い年ということは十五歳ということになる。そんな少年に何ができるのであろうか?

何か秘密があるのだろうが、茉莉香にはさっぱり判らない。ただし、何となくこの黒弥撒という人間からは自分と同じような匂いがするような感じがしている。

「ふざけないで」ルールズはピシャリと言う。「早く私たちをここから出しなさい。そう他の黒弥撒に言ってよ。…いいえ、他の黒弥撒をここに呼んで。全員を呼ぶの!首謀者なら出来るでしょ」

 すると、黒弥撒はゆっくりと嘆息し両手を挙げて気取ったポーズをとり

「ルールズさんって言ったよね。君、ホントに名探偵なの?僕にはそうは思えないよ。僕はこうして色々ヒントを出しているのに」

 この状況で推理をしろというのも無理な相談であるが、ルールズは侮辱され今にも黒弥撒に飛び掛らんとしている。意外と熱しやすい人なのかも知れない。茉莉香はそんな風に考えそして声を発する。

「あ、あなた、あたしと一緒なのね…」

 突然の茉莉香の言葉に黒弥撒とルールズが視線を注ぐ。

「どういうことなの?茉莉香ちゃん」

 すぐさまルールズから質問が飛ぶ。

 その問いに対し茉莉香は生唾を飲み込みながら

「ルールズさんには言っていなかったんですけど。実はあたし病気なんです」

「病気?どこか体の調子が悪いの?」

 ルールズの表情は仔細ありげなものに変わっている。続けて茉莉香は告白する。

「精神病なんです。解離性同一性障害っていう。…ええと、簡単に言うと多重人格なんです。実は演繹城の地下洞窟で現れていた人格は茉莉香という今のあたしじゃなくて莉理香という別人格なんです」

「た、多重人格。茉莉香ちゃんと莉理香ちゃん。だから同じ人間なのに…喋り方も行動の仕方も違う…え、まさか」

 察しのよいルールズは呟く。

 それを遮るように茉莉香は答える。

「あたしの中に住むもう一人の人格である莉理香は推理の天才なんです。今まであたしが抱えた事件のすべてを解いたのは茉莉香というあたしじゃなくて莉理香という別人格なんです」

 そこまで言うと茉莉香は一旦中休みをし呼吸を整える。黒弥撒は腕を組みなおし茉莉香を見つめている。頭上から降り注ぐシャンデリアの明かりが三人をステージに上がる演者を照らすように輝いている。

「ルールズさんが察したとおり」茉莉香は熱をこめて言う。「黒弥撒も多重人格なんです。実は一人の人間でその中にたくさんの人間が潜んでいるんです。あたしはそうだと思います」

 その言葉を受けルールズは告げる。

「黒弥撒が多重人格というのは判る。だけど不可解なのは容姿や声質までもが変わってしまうということよ。確かに、茉莉香ちゃんと莉理香ちゃんは同じ人間の中に存在する違う人格なのかもしれないけれど不自然に大きくなったり小さくなったりしないし声質も統一していたわ。だけど、黒弥撒は違うわ。背も違えば体型も違う。こんなことってありえるのかしら?」

 そうなのだ。それがまさに不可解なところである。多重人格は人格が交代するだけであり容姿が変身するわけではないのだ。それは茉莉香であっても判っている。しかし、その不可能を黒弥撒は可能にしている。恐らく仮面をかぶっているのも何か意味があるからなのだろう。

 これが茉莉香の推理の限界である。茉莉香が辛うじて判ったのは黒弥撒が多重人格であるということだけ。それ以外は判らない。しいて言えば探偵や刑事に恨みを持っているということしか判らない。詳しい動機や殺害方法などは全く見当もつかない。

 そうこうしていると黒弥撒が口を開く。

「当たり!僕は多重人格なんだ。つまり、君と一緒ってことだよ、茉莉香ちゃん」

 黒弥撒が多重人格だということが判っても特に状況が好転するわけではない。むしろ話は余計に厄介になる。解離性同一性障害は精神疾患であり神経症である。黒弥撒を捕らえられても心神喪失で刑事責任を免れてしまうかもしれない。それ以上に大きな問題は黒弥撒が十五歳であるということである。日本の法律では十五歳には一応殺人罪が適用される。しかし死刑は別だ。少年法は第五十一条(死刑と無期刑の緩和)にて犯行時十八歳未満の者について「死刑をもって処断すべき時は無期刑を科する」と規定しているのだ。つまり黒弥撒はこれだけの殺人を犯しても死刑にはならない。

また黒弥撒の中にはたくさんの人格が潜んでおりその中には大人の人格が多数存在している。

 にもかかわらず彼は罪を受けることなく恐らく少年院行きあるいは心神喪失から全く何の責任も負わないまま解放される可能性だってあるのだ。それは決して許されない。何とかして黒弥撒を捕らえしかるべき罪を償わせなければならないだろう。

「あ、あたしはあなたと一緒じゃない!」

 はっきりとした口調で茉莉香は言う。そう、とてもではないが一緒にされたくはない。如何に解離性同一性障害という神経症に侵されているとしてもこんな殺人鬼とは一緒になるのは御免である。

「つれないなぁ。僕は君と友達になってもいいと思ってるのに」

「あたしは友達になんかなりたくない。早くここから出してよ。そしてキチンと罪を償わなければ駄目。そのくらい判ってるでしょ」

「罪を償うねえ…日本の法律じゃ僕のことは死刑にはできない…すべてがギリギリの事件なんだよ」

「裁けないわけないわ。あなたはたくさんの人間を殺したんだから必ず捕まえられる。もう逃げ場はない!」

 しかし、黒弥撒は全く悪びれる素振りを見せない。これだけの大罪を犯したというのに平然としている。完全に狂っている。頭のネジが飛んだ異常者であると思える。こんな人間と一緒にされたら堪らない。茉莉香は奥歯をがっちりとかみ締めながら黒弥撒を睨みつける。

 ルールズはというと黒弥撒と茉莉香のやり取りを黙って聞いている。二人が解離性同一性障害という厄介な神経症を患っているのは判る。ルールズは精神科医ではないのでその病気がいかなるものなのか把握するのは難しかったが、自分の中に別の人格がいてそれぞれが意志を持って行動するのは恐ろしいことだと思える。茉莉香も黒弥撒も若年ではあるものの深い闇を抱えているのだろう。ルールズはそんな風に考えている。

「それで…」黒弥撒は言う。「推理を展開するのはどっちなの?一人は生かしてあげると言っているんだから早く答えてよ。それとも何、二人ともここで死んでもいいと思ってるの?」

「ここで死ぬなんて御免よ。だからといって一人が死ぬ選択肢を取らないわ」

 ルールズは強く声を出す。どこかしら決意を固めたような声質である。ルールズはゆっくりと黒弥撒に近づいて行く。黒弥撒は近づいてくるルールズに対し何の警戒もせずに仮面をかぶったまま状況を見つめている。

 やがてルールズは黒弥撒の目の前に立つ。まさに目と鼻の距離である。ルールズは何をするのであろうか?推理をするのであればこんなに距離は詰める意味はない。茉莉香は何かよくないことが起こりそうな気がして全身に冷たい汗を掻く。

「あなたはここで死ぬ。許すわけにはいかないわ」

 と、ルールズが言うと対面に立つ黒弥撒が

「僕が死ぬ?僕は死なないよ。少なくとも今はね。…ルールズさん、何か不穏なことを考えているようだね。すごく怖い顔をしているよ」

「私がどんな顔をしているかなんていいの。いい、質問に答えなさい」

「質問?おやおや立場が逆転してしまったね」

 黒弥撒はあくまで冷静である。そんな態度に嫌気が差したのかルールズは上着の中から刃渡り二〇㎝ほどのナイフを取り出す。銀色に輝く鋭利なナイフ。どうしてこんな物騒な物を持ち歩いているのだろうか?

「ナイフとは穏やかじゃない。それにかなり本格的だね…」

 黒弥撒は言う。状況は確かに穏やかではない。しかし、黒弥撒は特に慌てた素振りを見せない。今までと変わらない態度でルールズのことを真っ直ぐに見つめている。背丈はルールズのほうが高いので黒弥撒は首を上げる姿勢をとっている。首元から仮面が浮き僅かならが白い肌が見えている。

「黒弥撒、私たちをここから解放しなさい。そうしなければどうなるか判るでしょ?」

「うん、なんとなく君の言いたいことは判るよ。ここから解放しなければその物騒なもので僕を刺そうっていうんだろ。恐ろしい探偵だ。いつもそんなものを持ってるの?」

「護身用にね。探偵の仕事っていうのはあなたが思っているほどやわなものじゃないから。常に危険と隣り合わせなの」

「危険と隣り合わせねぇ。一ついいことを教えてあげようか」

 ナイフを向けられたまま黒弥撒は言う。そして、一瞬顔をナイフから外し茉莉香を見つめる。どこまでも余裕綽々の態度。仮面をかぶっているのに決して慌てふためいたりはしていない。茉莉香と同い年であるのにもかかわらずかなりの修羅場をくぐっているのではないかと推測出来る。

 茉莉香が黙り込んでいるとルールズがナイフを持ったまま黒弥撒に言う。

「いいことって何かしら?ようやくここから出してくれる気になったの?だとしたら殊勝な心がけね」

「違うよ。君たち探偵がどうして危険な目に遭うかって教えてあげようと思ってね」

「どういうこと?」

 ルールズの目が一層細まる。

「いいかい。そもそも探偵なんていうものは事件に必要ないものなんだよ。名探偵なんていうものは小説やゲーム、ドラマやアニメの中に登場すればいいんだ。現実世界に現れると厄介になる」

「言いたいことは何となく判るわ。探偵がいるとその存在によって事件が悪戯にかき回され、二次、三次の事件が引き起こされる可能性があるということね。だけどね、それは犯罪者側の意見なのよ。何があったとしても罪を犯す人間が悪いに決まっている。私たち探偵は犯人を見つけ罪を償わせるために存在しているんだから…」

「そうかな?僕はそう思えないよ。トランキライザー莉理香ちゃんという探偵が登場してから数多くの殺人事件で探偵が現れた。陰惨な事件を華麗に解決する探偵は確かにニュースのネタになるよね?カッコいいし人の食いつきも違う。でも僕はそう思ってない。むしろ探偵が現れることによってよくない事件が起きていると考えている」

 と、黒弥撒はそこまで言うと一旦言葉を区切る。室内はしんと静まり返っている。居心地の悪い空気が流れている。耐え難いと言えばいいのであろうか。ルールズと茉莉香が懸命に沈黙に耐えていると黒弥撒が再び口を開く。

「トランキライザー莉理香ちゃんが現れて二年半。殺人事件が減ったと思う?」

 茉莉香には答えが判らない。普段ほとんどニュースは見ないしPCやスマートフォンなどの情報機器を全く持っていない茉莉香はなかなか社会のニュースを知る機会がない。莉理香が事件を解決した時の新聞をスクラップにしているくらいだ。

 ルールズはというと訝しそうな顔をしながらも考えを巡らせ

「探偵登場後、事件が陰惨化していることを言いたいのね」

「その通り。探偵に挑戦しようという不届き者や探偵に追い詰められて更なる事件を起こしたりする輩が増えたんだ。殺人事件も減ってはいない。むしろ増加しているといっても過言ではないよ。探偵が増えて華麗に事件を解決するほど状況は悪化している。これを歴戦の探偵である君たちはどう考えているの?」

「どう考えている?ふざけたことを言わないで。事件を解く者と犯す者。そんなのどちらが悪いか判りきっているじゃない」

「つまりルールズさんは事件なんだから探偵がバンバン事件を解決すればいいと考えているわけだね。その際に発生する二次的、三次的な事件はどうでもいいわけだ。何より大切なのは事件を解決するということなんだね。ふ〜ん探偵の鑑だね。感服するよ」

 とはいうものの黒弥撒は決してルールズを認めたようには見えない。むしろ状況は悪くなっている。ナイフを持つルールズを見上げているではないか。

「それに」再び黒弥撒は言う。「今回の事件だって探偵や刑事たちが悪戯に動いたから発生したとも言えるよ。仮に演繹城に来て何もしなかったからこんな事件は起きなかったかもしれないしね」

「違うわ」ルールズは叫ぶ。「あなたは後期クイーン的問題を言いたいのだろうけど事件を起こす方が絶対に悪よ。私たちこそ正義なの」

「そうかな?僕は探偵や刑事なんてつまらないものはいなくなってもいいと思っているよ」

「ここでこれ以上そのことで議論するつもりはない。それでまだあなたの答えを聞いてないわ。ここから私たちを出すの?それともまだ強情を張り私たちをここに閉じ込めておくの?」

「ここから君たちを出せないなぁ…僕らは君を殺すためにここに集めたんだから」

 空気は相変わらず悪い。一触即発のムードが漂っている。一体どうすればこの窮地を解決出来るのであろうか。茉莉香は自分の考えている推理を伝えることで状況を解決しようと試みる。といよりもそれしか思いつかなかったのである。

「あなたは探偵によって誰かを殺されたのね…だからあたしたち探偵に恨みを持っている」

 茉莉香の言葉に黒弥撒は反応する。猫のように素早く顔を向ける。不気味な仮面がどこか哀愁を帯びた気がする。


 これは最早解離性同一性障害という枠組みを完全に超えている。人智を超えた異能の力。

「さて、そろそろ局面は最終段階に入るよ。早く莉理香ちゃんに会いたいな。でもそのためには僕が力を貸してあげなければならないみたいだね」

 そう呟くと黒弥撒はナイフを床に放つ。「ガチャン」ナイフが床を跳ねる。その刹那、突然黒弥撒は指をパチンと鳴らす。するとどうだろう?今まで明かりを放っていたシャンデリアが突然消え辺りは深い闇に包まれる。目の前数十㎝先も見えない完全な暗闇が茉莉香を襲う。茉莉香は慌てふためいたがそれを黒弥撒が制する。

「君もこの空間に見覚えがあるだろ?知ってるはずだよ」

「な、何を言ってるのよ。は、早く電気をつけてよ」

 とは言うものの確かに茉莉香もこの真っ暗闇には見覚えがある。否、日常的に経験しているのだ。これは自分の心の中だ。人生の闇が心の中に映されたかとでもいうような深い闇。ここで茉莉香は色んな人格を生み出してきたのだ。それがこうして人工的に造られる。

「君が莉理香ちゃんを呼び出せないのなら僕が手伝ってあげるよ」

 黒弥撒の声が闇から飛んでくる。声を聞く限り近くにいるようであるが、正確な位置までは判らない。もう目を開けていても閉じていても同じである。茉莉香はしゃがみ込みこの状況が早く終われと念仏のように唱え始める。しかしいつまで経っても状況は変わらない。

 一体どうすればいいのか?そんな時黒弥撒の囁く声が聞える。

「莉理香ちゃん、出て来るんだ。早くこっちへおいで」

 心に染み渡るような不可思議な感覚が茉莉香を襲う。心の中に冷たい腕を無理矢理突き通されたとでも言えばいいのだろうか?胸の中をぐちゃぐちゃにかき回される耐え難い感覚である。自分の心が乗っ取られていくような…


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