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6.墓を暴く仕事

「作業中に川に落ちて。彼、泳げるはずなんですけれど突然のことで混乱したのか、溺れてしまいました。落下の勢いで川底に体を打ったことも災いしたって」


 知らせを受けて駆けつけた彼女が見たのは、夫の遺体。


 たぶんその時に、夫の霊は妻に乗り移った。そして今日までこのまま。今は私に取り憑いている。


「幹部たちから説明と謝罪を受けました。工事の安全対策が万全ではなかったかもしれないこと。そして、不慣れな作業をする夫への訓練が足らなかったこと。でも、そんなことはどうでもいいんです。謝られても夫は帰ってこない! 幹部の方の奥様たちからも慰められましたが、やはり同じでした。彼女たちは辛そうな顔で接してきましたけれど……」


 思い出すのも辛いのだろうか。彼女は少しだけ言葉を途切れさせた。

 けど、ここからが大切なこと。


「内心では夫の死など、どうでも良いと考えていたのでしょう。だから酒場で堂々と飲んでいられる。酔っ払って楽しそうに笑っている」


 ああ。さっきナイフを向けていた女性たちが、業者の幹部たちの奥様たちだったのか。


 自分は夫を無くして意気消沈していたのに、偶然楽しそうな姿を店の外から見てしまった。カッとなって、店に踏み込んで他のテーブルに置いてあったナイフを掴んで向けたというわけだ。


「なるほどなー。気持ちはわかった。復讐したい気持ちはわかる。でも、殺しはするべきじゃない」

「どうして」

「殺したらまた別の恨みが募る。それが良いとは思わない。あの奥さんたちにも夫がいて、子供もいるんだろ。それを悲しませたいのか?」

「でも。わたしは悲しんでいるのに、奴らは楽しんで」

「ムカつくよな。でも、事故があったら永遠に悲しみ続けなきゃいけないのか? 酒場には行くなって? それは違うだろ?」

「レオン。そこまでよ」


 彼の気持ちもわかるわよ。死者を出したくない。それは私のためだ。私に取り憑く霊は少ない方がいい。


 それに、あの奥様がたもその夫の幹部たちも、ただの市民だ。制裁を加えるべき悪人ではない。

 けど、悲しんでる人を追い詰めるのも良くない。彼女の悲しみが本物なのも事実。レオンの言葉は、彼女を傷つけるだけだ。


 レオンもわかっているのか、素直に頭を下げた。


「言い過ぎた。ごめん」

「いえ……」


 子供に謝られて、彼女も気勢を削がれた様子だ。


「一旦お店に戻りましょう。あの人たち、まだいるかしら」

「いたら、直接話し合って和解しよう。冷静にな」


 そう促して立ち上がり、通りを歩く。どれくらい話していたんだろう。大通りを歩く人の姿は少なくなっていて、飲食店と店じまいする所が出てき始める時間になっていた。


「そうだ。旦那さんの未練はやっぱり、復讐? それとも違う? 奥さんに何も言えないまま死んだのが辛くて、ちゃんとお別れしたいって思ってる? それが出来るなら、冥界に行ってくれるか?」

「ぎゃー!?」


 レオンの問いかけに答えるように、私は転ばされた。これが夫の霊の意思表示。わかってるんだけどね。こうするしかないのよね。でも、なんかこう、他にやり方を考えるべきと思うのよ!


「そっかそっか。わかった。喋れはできないけど、奥さんに会わせてやる。ルイ、後は頼むぞ。俺はエドガーとリリアを連れてくる」

「はいはい。わかったわよ。夜道気をつけてね」


 仕事の時間だと、レオンは張り切って駆け出した。リリアは人手が欲しいから呼ぶ理由がわかるけど、エドガーは役に立つのだろうか。まあ一応神父様だしね。死者を送る儀式にいた方がいいか。



 ヘラジカ亭も客足はだいぶ落ち着いていた頃合い。私たちの帰還を見たユーファが、手招きした。店の裏手に彼女を入れて座らせる。私も転ばないように座った。


「彼女たちは帰らせたよ。事情は聞いてる。確かに無神経だったと反省してた」


 ニナが教えてくれた。帰ったのか。確かに、店で鉢合わせしてまたトラブルになるのは、経営陣としては避けたいわよね。


「後日、幹部である夫たちと一緒に家に言って、改めて謝りたいってさ。でも、理解もしてほしいな。あの奥さんたちも、別に彼女が嫌いなわけでも、忘れてるわけでもない。大変な毎日の中で飲みたい時はあるはずでしょう?」


 そうよね。レオンの言ってた通り。別問題だ。


「業者の幹部たちは今日も事故の対策と、増え続ける工事に忙しくて、夜もなかなか帰れないって。それを支える奥様がたも大変。ちょっと息抜きで、交流のあるみんなで飲みに行ったら、これ」

「不幸だったわね。お互いに」

「そうだねー」


 私とニナと会話を、彼女も聞いていた。うなだれて、軽率な行動をしたことを後悔しているらしい。



 やがて本日の営業も終わりに近づき、客が少なくなったタイミングでレオンが帰ってきた。エドガーとリリアも一緒だ。

 五人と今回の依頼者である彼女と共に、街の墓地へ行く。


「あの。夫とまた会わせて貰えるというのは」

「俺はネクロマンサーなんだ。死者を蘇らせる。死体が必要だけどな。そして喋れなくて動きもぎこちない。死んでるから仕方ないけど」


 レオンが魔法陣を書いて説明してる間に、わたしたちで墓を掘り起こして棺を開けて遺体を出す。溺死だから体は膨れているし、生前は肉体労働に従事していただけあって筋肉質な体型だったのだろう。重かった。

 なんで女ばっかりで力仕事しなきゃいけないのかしら。


「まあまあルイーザ様! いいじゃないですか! 死者のためですよ!」

「必要なこと」

「わかってるわよ!」


 なんでリリアもユーファも前向きなのよ。私が悪いみたいじゃない。せめてエドガーが手伝ってくれたらと思うけど、力仕事お断りの怠け者神父は、さっきから死者への祈りを唱えるだけ。


 何度かやってきた仕事だ。慣れている。レオンの描いた魔法陣の真ん中に遺体を置けば、霊が入り込んで復活する。

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