表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/46

31.親の愛

 彼の両親は事業で失敗して、借金を抱えて失意の内に亡くなった。

 元は金持ちとか、そんなのではないのだろう。けど貧乏人でもない。それなりに生活に余裕があり、子供にもしっかり向き合って子育てしていた。


 リフの口調から、それは読み取れた。彼の言動は全体的に丁寧だ。オレっていう一人称は、荒くれ者揃いの現場作業者の中で身につけたのだろうけれど、それ以外の口調は変えられなかった。

 レオンなんかより、ずっといい。あいつ、あれでも聖職者で、金持ちの子息なのに。


 リフの両親の教育の賜物だ。


 事業に手を出したのも、今より裕福な暮らしをリフにさせたいから。つまり愛ゆえだ。悪どい組織の正体を見抜けずに金を借りたのが迂闊だっただけ。


 そういうわけで、リフの性根は真面目で優しい子。誰かを恨むことはあっても、それを表に出すのは躊躇われる。良心が邪魔をするから。

 優しさは美点ね。素晴らしい。けど、今は忘れなさい。


「いいのよ。好きなだけ文句を言いなさい。恨み言、全部口に出して」

「え……」


 驚いた顔でこっちを見た。私は笑いかけて、頷く。


「いいのよ。やっちゃいなさい」

「でも。あの男の子……レオンは、駄目だって。死んだ人を悲しませることは出来ないって」

「あいつ、何もわかってないのよね。確かに、死者を満足させるのが仕事で、霊が文句を言われたら傷つくし未練も深まるって理屈もわかる。でも、違うのよ。愛する子供から言われるのは、きっと別」


 ちらりと上を見た。レオンは霊の目的を、リフの今後の安心とか、ビョルドンの組織への復讐だと推測していた。でも、それだけじゃない。

 迷惑をかけたリフに謝りたかったんだ。


「霊になって謝ることも出来ないなら、せめて息子の気持ちを受け止めてあげて。それでリフの気持ちに整理がつくなら、それが親としての最後の仕事にしなさい。それが終わったら冥界に行くこと。わかったわね?」


 ドンと背中を押された気がした。座っているから転ばなかったけどね。


 これが親の愛だ。

 私の両親はろくでなしだった。他にも、関係が上手く行ってない親子はいくつも見てきた。でも、ちゃんと愛情がある親子も大勢いることは、私も知っている。

 息子からの本心を、親は受け止めるもの。それが必要ならばする。これが愛だ。


「だからリフ。親に本心を言いなさい。そして、ちゃんとお別れもすること」

「う、うん。あのね。父さん、母さん。オレ……じゃない。僕、すごく寂しかった。僕のためにお店を建てるって言っていたの、僕は本当に不安だったんだ。仕事がうまく行かなくて、ずっと働き続けているのも。お金なんていらなかったんだ。家族で過ごせたら、他に何もいらない。なんでそれがわからなかったんだ。馬鹿。ええっと。本当に僕のことを考えていたなら、僕のこともっと見てよ。なんで、家族でいられなくなるんだよ。……もっと考えなかったの……それで、それで……馬鹿。馬鹿」


 こういうこと、言い慣れてないんだろうな。


 俯いて、ただ馬鹿だと繰り返した。


 そんなリフの頭を撫でてあげた。泣きかけて、しゃくりあげるリフは、なんとか言葉を紡いで。


「わかって、たんだ。僕のためって、ことは。僕のためにならなくても、父さんも母さんも、ちゃんと愛情はあったって。だから……ありがとう。そしてさようなら。僕は、きっと大丈夫だから。行くべき場所に行って」


 それきり口を閉ざすリフ。泣くのを必死にこらえている。


「よく頑張ったわね。偉いわ」


 そんな彼の頭を撫でれば、堪えきれずに大声で泣き出した。



――――



 霊の説得をルイーザに任せる。その方針にレオンは納得行かない様子だったけど、それでもルイーザの好きにさせた。

 そんな彼はといえば、ユーファと一緒に教会に向かっている。リフに兵士の前で証言させて、ナベプタを捕えるのにエドガーの力が必要だから。


「あいつ。大丈夫かな。下手なこと言って霊を怒らせたりしないかな」


 ユーファの隣でレオンは何度も繰り返していた。本気で不安なんだろうな。


 霊に関する心配だけではないと思う。本心は別にある。


 ルイーザと離れるのが嫌なんだ。だいたいいつも一緒にいるから。仕事場は別だけど、すぐ会いに行ける距離だし。寝る部屋も別だけど同じ建物。休日も、いつも一緒にいる。

 だからこうして別行動を取ると、落ち着かなくなる。


「大丈夫。ルイーザは、大人」

「それは……わかってるんだけど」


 こう見えて、レオンも心配性だな。


 教会には灯りがついていた。


「エドガーいるか? ちょっとリリアの所に来てくれ」

「レオンはいつも突然ですね。なにかありました?」

「昨日の、勇敢なるイビルスレイヤーのことだ。あいつ人を殺した。あと正体がわかった。詳しく説明するから来てくれ」

「おやおや。夕飯を食べようかと思っていたのですけど」

「どうせ信者の手料理だろ。リリアがもっと良いのを作ってくれるから」

「レオン。信者の好意をそんな風に言うものではないですよ」

「じゃあ皿ごと持っていくから向こうで食え」

「いえ。そこまではしませんが」


 レオンは本当に聖職者なのかな。所々、言うことが雑なんだよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ