2.工事をする人
作業員はその多くが、筋肉質で力持ちって感じの頼れそうな男性たち。肉体労働が好きで仕方ないって人もいる。たぶん性格もワイルドだったり気が強かったりするんだろうな。
もちろん全員がそうではない。あまり運動は得意ではないけれど、この仕事以外出来ないって感じの男もいた。細かったり逆に太っていたり。あまり筋肉はついてなさそうな体型。肌寒い季節なのに、顔にはびっしりと汗をかいていた。
「大変な仕事ね」
「だなー。これが土の道に新規で石畳を敷設する工事だと、もっと大変だぞ。石を埋めるだけの溝を掘って、大量の石を設置して、掘った分の土をどこかに運ぶ」
「それは大変そうねー。王都の端の方でやってるのよね」
「中心部でも、一部細い道はまだ土が残ってたと思う。そこでもやるはず。あとは、金持ちの屋敷の庭園とか」
「あー……」
貴族の屋敷の庭は確かに、草花で彩られた空間の中に、正門から屋敷に繋がる道を石で舗装してるイメージはある。
そうか。庭園作りも、こういう作業者たちがやってるのか。
「街が儲かったということは、貴族たちも儲かったってことだ。今頃それぞれの屋敷で、センスを競い合うように美しい庭園を作ってるだろうさ」
レオンの口調は気持ちよくはなさそうで。お金持ちが嫌いなのは相変わらずだ。
それでも、美しい庭園を作る、少しむさ苦しい男性たちへの敬意はあるのだろうな。
なるほど。今、街中で工事がされている。
でも、なんかおかしくないかしら。
「ねえレオン」
「なんだ?」
「工事をする業者って、普段からこんな数いるの? お金があるから工事が多いのはわかるわ。でも、お金があっても作業員は急に増えないでしょ? どこから来たの?」
あちこちで見る工事員の数が多すぎる。
「んー……。普段は暇な時もある業者をフル活用してるとか。近隣の街からも業者を呼んでるとは思う。後は臨時で作業員を募集しているとか。冒険者ギルドでも人員を募集してるのはあるかも」
「なるほど……」
筋肉質な作業員を見れば確かに、土木工事よりは冒険者してる方が似合ってるって感じの人が多い。本当に冒険者なのも混ざってるのだろう。
「あとは、いるかどうかわからないんだけどさ」
続けるレオンの顔はなぜか気まずそうで。
「裏社会の組織が絡んでる可能性がある」
「裏社会?」
「ギャングとかマフィアとか呼び方は色々あるけど。とにかく、非合法な商売で大金を稼ぐ連中だよ。もちろん犯罪者だ」
「それが、工事になんの関係が?」
「金さえ稼げれば何でもいいんだから、合法の仕事でもチャンスがあれば参入しようとするだろ? 早急に組織を立ち上げて、国から仕事を受けて作業をする」
「なるほど。でも、合法的に仕事をするならいいんじゃないの?」
「良くない。仕事内容は合法でも、やり方は違法かもしれない。借金の返済が滞った債務者たちを集めて、奴隷のように働かせたりする。普通の作業員の倍働かせて、給金は借金返済の名目で全部取り上げる」
「それは酷いわね」
でもまあ、借金なんてする人の自業自得だし。裏社会は問題だけど、かわいそうとは思わないかな。
「親が病気で薬代のために借金をした挙げ句に若くして亡くなって、借金だけ背負わされた子供が働かされたりする」
「酷い! かわいそうすぎる! 許せないわ!」
あっさりと手のひらを返す私。いいのよ。頭のいい人間ほど、柔軟に意見を変えられるものなの。
「そういう人たち、なんとかならないの?」
「さあなー。俺たちの仕事じゃないし」
「そうかもしれないけど。そんな悪い人たちは今すぐに死ぬべきよ」
「すぐに死ぬのは困る。未練が残って現世に留まり、俺が説得して冥界に行かせなきゃいけないから。悪人を説得なんかしたくない」
「それはそうだけど!」
「ルイも、そんな奴に取り憑かれたくないだろ?」
「そうなんだけど! なんかこう! 納得いかないじゃない!」
「ルイのそういう素直なところ、俺はいいと思う」
「そ、そう? ありがとう……じゃなくて!」
「ほら。市場に着いたぞ。ニナの買い物メモにはなんて書いてある?」
「話を逸らさないでよ!」
レオンの言うとおり、私たちですぐに解決できる問題じゃない。でもなんというか、そう。共感。怒りに共感してほしいのよ!
このクソガキは、そんなことも察せられないんだから!
市場の近くでも工事は行われていた。あれが正規の業者なのか、裏社会と繋がりがあるかは、私にはわからない。少なくとも子供は働いていなかった。
働いているのは、覇気のなさそうな男性たち。重労働に辟易しながら、なんとか働いてるって感じだ。
ひとりの太った男性が特にしんどそうだ。動きが遅く、とうとう座り込んでしまった。
「こら! ナベプタ! 休むな働け! 給料分くらいは体を動かせデブ!」
工事の監督者といった男性が厳しい声をかけている。デブは酷いわよね。
言われているのは四十代の半ばくらいの、太った男。まあ確かに、デブと言われかねない体型だけど、事実であっても罵倒として言うべきではないわ。
「ルイ行くぞ」
「ええ」
でも、私たちが口出しすることでもない。レオンに連れられ、市場の店に行く。
馴染みの肉屋さんと野菜屋さんと酒屋さん。量があるから荷車で店まで届けてもらうように頼む。いつものことだから、向こうも慣れた感じで対応してしてくれる。私とレオンとで持って帰れる量は直接店まで持って帰る。
野菜が入った布の袋を抱えて、もと来た道を戻っていく。工事はやはりあちこちで行われていた。
「帰り、カフェで休憩するか?」
「いいの?」
「まだ時間は早いし、開店準備そんなに急がなくてもいいだろ」
「そうね。レオンが言うなら付き合ってあげるわ!」
「なんで上から目線なんだよ。ものすごく嬉しいって顔してるくせに」
「ふふっ」
カフェの近くでも工事はしていた。おしゃれな店にふさわしい、綺麗な石畳を作るのは立派な仕事だ。感謝しないと。