74:禁じられた位階
「『異端祓い局』・・・。異端審問官・・・!!!」
フィンリーが異端審問官だということに気付き、エタラバナは激怒する。
それと同時に恐れを抱いた。
自分を滅ぼしにきた存在と対峙したのだから。
「リリー!!大丈夫!!ケガな・・・っ!」
リリーの身を一番案じていたディアナは、リリーの切断された腕を見て、口を手で覆って驚愕した。
「りっ、リリー!!そっ、その腕・・・!!」
「え?ああこれ。ドジっちゃって。」
赤ん坊みたいな小さい腕が生えかけの、切断された右腕を『ひらひら』させて呑気に笑うリリーの下へ、ディアナは急いで駆け寄った。
「どうしよ・・・どうして・・・。リリーの手が・・・!!!」
「大丈夫だってぇ~。ほらこの通り生えかけてるし。」
安心させるため生えかけの腕を見せるリリーだったが、パニックになったディアナの目には入っていない。
「どうしよ・・・どうしよ・・・どうしよ・・・!!!」
両手を頬に当てて恐慌状態にあるディアナをどう落ち着かせたらいいか、リリーは手をこまねいていた。
と、その時『ぱちん!!』と大きく軽い音が響き、気付くとアイリスがディアナに平手打ちをしていた。
「おっ、落ち着いて!!生えてる、、でしょ!?ほらっ!!」
ディアナを叱り飛ばして、アイリスはリリーの腕を引っ張って、これでもかとディアナに見せつけた。
「うっ、うん・・・ごめんなさい。わたくしとしたことが・・・取り乱してしまって・・・。」
平静を取り戻したディアナの頭を、リリーは生えかけの手で優しく撫でた。
「ごめんね心配かけちゃって。でもボクならへっちゃらだよ!!」
胸を『ぽん!』と叩くリリーに、ディアナは安心したような、それとも呆れたような笑いを浮かべた。
「アイリスは中々に芯の強い子ヤツだな。」
目の前のことに夢中になっていたアイリスとディアナは、傍にいた見知らぬ女性のことをすっかり忘れていた。
「りっ、リリー。こっ、、の人は?」
「ああそうだったね。紹介するよ!ボクのママで~す♪」
「え・・・?」
「は・・・?」
ニコニコで紹介するリリーとは正反対にアイリスとディアナは『さぁ~!!』と一気に青ざめた顔になった。
「って、、ことは・・・この人が・・・。」
「じゃっ、ジャンヌ・・・!!」
目の前にいるのがかの有名な魔女の王・ジャンヌだと知ったアイリスとディアナは急いで後ろに下がった。
「おいおいちょっと待て。私は正確にはジャンヌじゃない。その精神が宿った人形だ。」
「にっ、人形・・・?」
「サクァヌエルから聞いてなかったか?」
「・・・あ。」
サクァヌエルからの報告を思い出したアイリスとディアナは、恐る恐るジャンヌの人形と見合った。
「ほっ、本物じゃ、、ない?」
「もっと近くで見てみろ。全く怖くなんかないだろう?」
確かに今自分達の前にいるジャンヌからは、それほど威圧感を感じなかった。
それこそ目の前のジャンヌが、あくまでも紛い物である証拠である。
「この人が、リリーのお母様・・・。」
「おっ、思ったより、、優しそう、だね。」
人形とはいえ、魔女の王を間近で見られる機会などまず来ないので、アイリスとディアナはまじまじとジャンヌを眺める。
「アイリスとディアナも、二人揃って何故か私を恐れてなんかいないか?こう見えてリリーの友には寛容だぞ?」
「こう見えてって・・・っ!ちょっと待って!!どうしてわたくしとアイリスの名前を知っているのですか!?」
「それについては少々ややこしいので話すのはよそう。それよりまず片付けなければならない問題があるだろう?」
ジャンヌの目を追って、三人はフィンリーと対峙するエタラバナを見た。
「フィンリーせんせいごめんなさい!!ボク、無茶しちゃって・・・。」
「いや。お前は自分の役目をしっかり果たしてくれた。謝る必要なんかない。」
「え・・・?」
てっきり怒られると思っていたが、意外にも労をねぎらうような物言いをされてリリーの胸の奥が少しジーンとした。
「こんな手強い相手によく二時間も辛抱できたな。俺だったらまず死人なしに事を運ぶことなどできなかっただろう。」
フィンリーほどの手練れが「手強い」と評したことで、リリーの中に一抹の疑念が生まれる。
「せんせい!!まさかその魔女、エタラバナって・・・!!」
リリーの中に生まれた疑念は、フィンリーがこの後口にする言葉によって不安へと変わってゆくのだった。
「『禁位』。お前の母親と同じく、最も位が高い、存在するだけで厄災と見なされる最悪の魔女だ。」




