71:戦いで一番大切なもの
「う~ん・・・。う~ん・・・」
リリーがおとり捜査に出てから二時間が経過した。
ディアナはリリーを心配して、頭を掻き毟りながら辺りをウロウロしている。
「大丈夫かしらリリー・・・。何かあったんじゃ・・・」
二時間が経った今現在、何も連絡を寄越してこないリリーに、ディアナの心配はピークに達していた。
「やっぱりわたくしも行きますわ!!」
待機所から飛び出そうとしたディアナを、アイリスが手を『ぐいっ』引っ張って止めた。
「だっ、、ダメだよディアナ。今動いたら、、目立っちゃう!」
「放して下さい!!あなたリリーが心配じゃないのですか!?」
「もちろん、、心配だよ!だけど、向こう見ずに、動くのは、、よくないよ」
「じゃあこのまま手をこまねいて、ここでじっとしていろと!?」
「そっ、そんなことじゃないよ。ただ・・・」
「「合図があればいつでも動けるようにしておけ」ってことだ」
フィンリーはそう言いながらタバコを箱から出して「ぷは~」と吹かした。
それを見て、腹立たしく思ったディアナは、今度はフィンリーに突っかかりだした。
「大体あなたがこんな無茶な作戦を考え出さなかったらリリーは危険な目に遭うリスクはなかったのですよ?自分から危ない道に走らせたのに、よくもまぁ~呑気に構えていられますね!?」
「危険な目に遭わせてなんかいないさ。俺はただアイツに似合う役目を与えただけ」
「あなたはリリーを知らないんですよ!!あの子にあんな危険な役割なんか務まるはずがない。あの子は優しくて、だけど未熟で・・・まだか弱い子なんです!!それを危険な役目に任せて・・・あなたそれでも大人ですか!?」
「でぃ、ディアナ。おっ、、落ち着いて・・・」
「ぷは~・・・。ディアナ。お前、そんなに仲間が信用できないか?」
「え?」
予想外のことを言われ、ディアナは固まる。
「一つ質問だ。『魔女と戦う上で何が一番大事だと思う?』」
タバコで差されたディアナは、奥歯を噛みながら思考を巡らせる。
「たっ、『倒すための力とそれを鍛えるための鍛練』でしょう?」
「10点だ」
低い点数を与えられ、ディアナはたじろぐ。
「アイリス。お前は何だと思う?」
「えっ・・・?」
今度は自分が当てられると思ってもみなかったアイリスは面食らった。
「おっ、『お互いの連携プレー』ですか?」
「10点だ」
「じゅっ、10点・・・」
ディアナと同じく、低い配点を言われ、アイリスはげんなりした。
「正解は、『仲間を信じて自分のできることをとことんまで不屈の精神』」だ。
「不屈の・・・精神・・・」
「俺が思うに、魔女っていうのは並みの人間じゃ敵いっこない本物の化け物だ。何年も異端祓い局で働いたから分かる。単純な力勝負だけじゃない。搦め手を使うヤツだってたくさんいる。そんな連中を相手にするのに、誰かを心配している余裕なんかない。自分がしくじっただけで仲間全員が犠牲になることだってある。だったら、仲間を信じて、自分にできるベストな選択を捻り出して、最後まで諦めないことしかしてやることはない」
タバコを吹かしてアイリスとディアナに説くフィンリーの目はどこか物憂げだった。
「俺は信じてる。リリーは絶対無事にやり遂げる。大好きなジャンヌに会うまで何があっても絶対に諦めない。アイツはそういうタマさ」
タバコの始末をするフィンリーの哀愁漂う姿に、アイリスとディアナは感傷に浸ったような気分になった。
すると、ディアナに預けていたリリーのダガーナイフが光り、中からサクァヌエルが出てきた。
「サクァヌエル!」
『みんな。リリーが件の下手人である『人形使いの魔女』、エタラバナと接敵したよ』
「本当!?それでリリーは?リリーは!?」
焦るディアナと対照的にサクァヌエルは。
『ジャンヌの精神が宿った人形と一緒に、エタラバナと交戦中だよ』
「ジャンヌの精神が、宿った・・・?」
「報告助かる。また何かあったら知らせてくれ」
『了解。リリーがいる場所へは僕が案内するよ。なるべく早く来てあげてね』
フィンリーは持参してきたマスケットライフルを持って立ち上がった。
「どうやらなかなかにややこしい状況になってるみたいだな。だが一緒に戦ってるヤツがいるならリリーは無事だろう」
「そう・・・。良かったぁ~・・・」
リリーの無事を確信したディアナは安心してへたれ込んだ。
「あっ、安心するのは、まだ、早いよ。リリーを、、助けに行かなくちゃ!」
「えっ、ええっ!言われなくても分かってます!!」
元気を取り戻したディアナは、アイリスに手を引かれ立ち上がった。
「行くぞお前ら。魔女退治の時間だ」
翼を展開したアイリス、ディアナ、そしてフィンリーの三人はリリーがいる廃聖堂にサクァヌエルの案内のもと飛び立った。