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魔女の子、異端審問官になる。  作者: 朔月理音(サツキコトネ)
第3章:禁じられた魔女たち
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69:人形使い VS 人形

 予期せぬイレギュラーで本物のジャンヌの精神が宿ってしまったエタラバナのジャンヌ人形。


 自分で作ったものが勝手に動くという前代未聞の事態にエタラバナは奥歯を噛み締める。


「クソっ!私の仕事はこんなはずじゃなかったのに・・・!!」


()()?」


「・・・っっっ!」


 迂闊なことを口に出してしまい、エタラバナは口を塞いだ。


「そういえばクモ。お前()()()()とか言っていたな?テカーノヴァ街で騒ぎを起こすよう誰かに言われていたのか?」


「そっ、それは・・・」


 言い逃れの言葉を必死に考えるエタラバナにジャンヌが詰め寄る。


「誰の指示で動いた?素直に話せば命だけは助けてくれるかもしれないぞ」


 含みのある言葉を話すジャンヌ。


 自分はあくまでもジャンヌの精神が宿った人形。


 魔法は使えない。


 勿論のこと、エタラバナを倒す力も。


 彼女の処遇はリリーが呼んだ異端審問官のフィンリーに任せる。


「じっ・・・!!自分に作った人形に話すわけないでしょ!!」


 エタラバナは近くで失踪者を虜にしていた別の人形の糸を引っ張って、ジャンヌに投げつける。


 ジャンヌはバックステップで投げつけられた人形を避けた。


「ああっ・・・テレシー・・・」


 人形のモデルとなった女性の旦那と思しき人が、虚ろな目で床に手を付いて嘆く。


「お前が幸せにしてやったのだろう?このような仕打ちは良くないのではないか?」


「うるさい!!私が幸せにしてあげたんだ。どう扱おうが私の自由でしょ?」


「全く。自分本位も甚だしいな」


「人形のくせに偉そうに・・・」


 エタラバナのあばら骨辺りから、もう一対の三本指の腕が『ばきっ!』と生えてきて、天井にジャンプした。


「どうやら注意を引けたみたいだな!」


 重力無視の機動力で床を登って聖堂の天井に迫ってくるジャンヌに、エタラバナは天井の桟をもいだり操っている人形を糸を引っ張って投げつけた。


「ぐっ・・・!!」


 その内の一つがジャンヌの腹に命中し、彼女は天井から真っ逆さまに落ちていった。


「くふふ・・・。大丈夫?」


 嘲るエタラバナを、ジャンヌは落ちた衝撃でひびが入ってしまった顔で睨む。


「ママ大丈夫!!って、うひゃっ!!」


 斜めにひび割れしたジャンヌの顔を見てリリーはびっくりした声を上げた。


「気にするな。今の私はただの人形だ。どこも痛くない」


「でも!あ~あ!!ママの無駄に可愛い顔がこんなに・・・!!」


「無駄には余計だ。」


 むくれたジャンヌはリリーの頬を両手で挟んで『むにゅむにゅ』と強めに揉んだ。


「それよりサクァヌエルにフィンリーを呼ぶように頼んだのか?」


「え!?いや、まだ・・・」


「早くしてくれよ。いつまで時間を引き延ばせるか分からんからな」


 ジャンヌは未だ天井に張り付いているエタラバナに目をやる。


「何をごちゃごちゃ相談しているのか知らないけど、どうせあなたは私が壊すのだから無駄だよ」


 エタラバナがジャンヌとリリーに向かって落ちてきた。


「それはどうかな?」


 ジャンヌはリリーを突き飛ばし、落下してくるエタラバナと激突した。


「ママ!!」


「私のことは気にせず早く知ろ!!」


 エタラバナとの組手に移行したジャンヌが、鬼気迫る表情でリリーに指示を飛ばす。


「うっ、うん分かった!!もうちょっと我慢してねママ!!」


「我慢、ね・・・」


 エタラバナとの戦いながら、ジャンヌはニヒルな笑みを浮かべた。


「サクァヌエル聞こえる!!」


『ああ。聞こえる」


「今すぐフィンリーせんせいに来るように伝えて!!」


『それは構わないけど、いいのかい?あの人形がどうなるか分からないよ?』


 リリーはエタラバナと戦ってるジャンヌに目をやった。


 フィンリーが来てエタラバナを倒せば、彼女の被造物であるジャンヌも機能停止になってしまう。


 その事実がリリーの脳裏をかすめ、彼女は一瞬言葉を詰まらせる。


「・・・大丈夫!だってあれはママのくれたプレゼントの精霊だから!本物はここ・・・ボクの心の中にある。ずっと一緒だから寂しくないよ!!」


 魔女の置き土産に()()なんてずいぶんと可愛らしい表現をする。リリーらしいなとサクァヌエルは思った。


『分かったよ。周りの被害者のこともある。なるはやで来るように言っておくよ』


「ありがとう。サクァヌエル!」


 サクァヌエルとの通信を終えたリリーは、ジャンヌとエタラバナの戦闘を見守ることにした。


 ふとリリーは自分の手の平を見つめ、グッと握る。


 実は天使を所持していない状態で魔女と戦えるようにマリアとマンツーマンで鍛練して『ある技』を身に付けていた。


 実戦では一回も使用していないので上手くできるか分からないが、いざとなればそれでジャンヌを助けようと決めた。


 場面は変わり、ジャンヌとエタラバナの戦い。


 二本腕と四本腕。


 手数はエタラバナが勝っていたが、ジャンヌはそれを物ともせず、戦いをリードさせていた。


「この程度か?私の()()()()()は」


 エタラバナのパンチを滑らかに避けつつ、ジャンヌは彼女の顔面と腹に打撃を与えていく。


「ぐふっ・・・!ごふっ・・・!」と言いながら苦しそうに悶えるエタラバナ。


 だがどういうわけか、彼女の表情に余裕が感じられる。


「はっ!」


 ジャンヌが横蹴りでエタラバナの足元を崩し、渾身の一撃をがら空きになった腹に入れようとした。


「やった!これでママの勝ち・・・」


「ふっ。甘いわね」


 エタラバナの腰の付け根から、蜘蛛のような巨大なもう一つの腹が生え、そこから伸びる槍のような毒針でジャンヌの胴体を貫いた。


「切り札は最後の最後までとっておくものよ。魔女の王様♪」


 頬杖を付いて、エタラバナはジャンヌに勝ち誇った顔を見せびらかす。

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