67:幸せの形
「さぁ。入って」
エタラバナに招かれ、廃聖堂に入ったリリー。
そこで彼女は「うっわ・・・」と声を出した。
聖堂の席に呆けた笑顔の人々が間接に赤い、見えない糸が巻き付いている人形と楽しそう話している。
行方不明になった人達は、やはり全員ここにいたのだ。
「どうしたの?いらっしゃい」
エタラバナに呼ばれて、リリーはそそくさと彼女においつく。
席の列を歩きながら、リリーは魔法にかかった失踪者に目をやる。
「麻痺タイプの毒魔法か・・・」
リリーが失踪者にかけられた魔法の思案を口にした瞬間、エタラバナが首を『ぐりん!』と後ろに向けてきた。
「あなた・・・魔法について詳しいの!?」
「え!?えっ~とそれは・・・」
ここで自分がジャンヌの娘と気取られるのはまずいと思ったリリーは咄嗟の嘘を考える。
「ちょっ、ちょっと魔法に興味があって色々本を読み漁ったモンですから!えへへ~」
「ふふっ。悪い子。その年で魔法に興味があるなんて」
どうにか誤魔化すことができたみたいだ。
「そう。これが私の固有魔法『酔いの綿毛』。私の綿毛を吸った人はこうして、飲まず食わず、寝ずにずっとず~っと亡くなった人とお話することができるの」
私の綿毛ということは、エタラバナは『混血型』。
悪魔と人間の間に生まれた魔女なのだろう。
今リリーが見ている彼女の姿は、本当の姿ではない。
どんな容姿をしているのか、リリーは怖いながらも興味が湧いた。
「でも~この人達、幸せなんですかね~?美味しいものも食べれず、友達とも遊べずここにず~っといたりして・・・」
「幸せに決まってるじゃない。だってもう二度と会えないと思っていた人と、またこうして私のおかげで会うことができたのですもの。何物にも代えがたい幸せだわ」
「そういうもんですか?」
「すぐに分かるようになるわ」
リリーは一つ空いた席に座るよう促され、そのまま座った。
「それで~?あなたは誰に会いたいの?」
「えっと・・・お母さんなんです。二ヶ月前に死んじゃって・・・。ずっと母娘二人で暮らしてきたものですから」
「まぁそれは可哀相ね~。だけど安心なさい私が会わしてあげるから。ちょっと奥で準備するから待っててね」
エタラバナは礼拝堂の奥へと入っていった。
「さてと・・・」
席に足を投げ出し、リリーは聖堂で亡くなった人と戯れる失踪者を見渡した。
焦点の合ってない目で亡くなった家族に精巧に似せた人形と談笑する光景は、まさしく「異常」だった。
「・・・これは幸せとは言えないなぁ~」
七年しか生きていないリリーに、幸せの形が何たるかなんて正直なところ分からない。
人にはその数によって幸せの形というのは異なってくる。
映画を見ること、音楽を聴くこと、高級レストランで食事すること、etc.
幸福を感じる瞬間は人それぞれだ。
じゃあ死んでしまった大切な人と、また会えた時は?
もちろんYESだ。
それが幸福に感じる人もいるだろう。
いや、大多数の人がそうだと感じるだろう。
だけどそれは束の間に限ってだ。
今はもういない、天に旅立ってしまった人と再会し、会えないだけで今も健やかにしていると知った時に人は大切な人の死というものを受け入れ、前に進むことができる。
魔法で作った人形と麻痺で縛り付け、前に進ませることを認めない目の前で起きていることは、『幸福』の名を借りた、ただの偽善行為。
エタラバナの自己満足だ。
それを、七年間という浅い経験ながらもリリーは理解していた。
でも今は幸福論について思案を巡らせている場合ではない。
この仮初めの幸福に囚われている人を、全員助け出さなくていけない。
エタラバナを倒して。
リリーが決意を固めたその時、礼拝堂の奥から等身大のマリオネットが出てきた。
木でできた間接を『カチカチ』と鳴らしながら、それはリリーに近づいてくる。
「ナニナニナニナニ!?」
異様な姿にたじろぐリリーだが、マリオネットの胸にある文字が彫られているのが見えた。
『触れて』
リリーはおそるおそる、指先でマリオネットの胸に『ちょん・・・』と触れた。
次の瞬間、マリオネットの簡素な身体に目が生え、耳が生え、鼻が生え、口が生え、髪が生え・・・
『ぽん!』と服まで勝手に出てきた。
「・・・マ、マ?」
リリーは息を飲んだ。
さっきまで何もかも丸坊主だったマリオネットが、リリーがずっと焦がれていた母、ジャンヌに変身したからだ。
細部に至るまで完璧に、まるで本物みたいな。
「リリー、会いたかったぞ」
優しい声音で、ジャンヌの人形は驚くリリーにそっと語り掛けた。




