61:起こり得なかった事件
「あむっ・・・。ん~おいひ~♪」
膨らんだ頬袋に手を添えて、リリーは満足げにケーキを頬張る。
さすがはテカーノヴァ街で老舗のケーキ職人が作ったケーキだ。
普通とモノが違う。
「遠慮せずにたんとお食べよ。クッキーもあるのでな。」
お優しい顔してリリー達をもてなすマリア。
しかしどうにも胡散臭いとディアナは睨んだ。
「ガブリエル。そろそろ本題に入ってもいいんじゃなくて?どうしてわたくし達をお呼びになったのかしら?」
「何って、一緒に正午の茶会をしようと・・・。」
「はぐらかさないで下さい。」
ディアナにビシッと言われてしまい、マリアは観念したみたいで持っていたカップをソーサーに置いた。
「お主ら・・・テカーノヴァ街の事件について知っておるな?」
「あの行方不明のこほ?」
ケーキをもりもり食べながらリリーが聞いてきた。
彼女の態度にアイリスとディアナは「行儀悪い。」と思った。
「巷ではあれを、魔女に誘われたとウワサする者もいるではないかの?」
「怖がった市民のただのウワサ話でしょ?もしかしてあなたもそう思っているのじゃないでしょうね?」
「思っているのではなく、その通りなのじゃ。」
マリアの言葉を聞いた途端、ディアナは飲んでいた紅茶を吹き出した。
「わ!?きったないなぁ~!」
「ゲホゲホ!!リリーがそれを言いますか!?それよりどういうことですか!?本当に魔女の仕業なんですか!?」
「おっ、、落ち着きなよ。」
矢継ぎ早に聞いてくるディアナはアイリスが宥めて、マリアは詳細を話し始める。
「教会から連絡があった。此度の失踪事件は魔女によるものと見て間違いないと。すでに上も動き出しておる。由々しき事態じゃからの。」
「当たり前じゃない!!だって起こると思ってなかった事件がこの街で起こってるんだもの!!」
ディアナは声を荒げながらイスから立った。
教会がマリアに報告を入れたということは、今更になって街に張られた結界の綻びを見つけた意味に繋がる。
実に看過できない怠慢だ。
「でぃっ、ディアナ!!ちょっ、ちょっと冷静に・・・!!」
アイリスに宥められ、ディアナはゆっくりとテーブルに着き直した。
「それでせんせい。その事件が魔女のものだと分かってなんでボク達にそれを話すのさ?」
「今回街で悪事を働いている魔女は強さはそこまでなかろう。じゃが二千年前に張られた結界をくぐり抜けられるほどの手練れ。もしかすると・・・。」
マリアはリリーの方を向いて、告げる。
「ジャンヌへの足がかりになるやも。」
リリーは大きく目を見開く。
そして、テーブルを離れ部屋を出ようとする。
「待ってリリーどこ行くの!?」
ディアナが止めた。
「ママへの手がかりになるかもしれない魔女が街にいるんだよ?だったら早く探しに行かないと・・・!!」
ディアナは手を振りほどこうとするリリーを必死に制止する。
「あなた一人で行ったってどうにもならないでしょう!?」
「だからってほっとくわけにはいかないでしょ!?やっとママに会えるかもしれないんだよ!?」
「リリー!!席に着くのじゃッッッ!!!」
「っっっ・・・!!!」
冷静さを欠いたリリーに語気を強めるマリア。
それに押されてリリーはシュンとしてテーブルへと戻っていった。
「ごめんなさい・・・。ボク、取り乱しちゃった・・・。」
「いや良い。お主の気持ちを考えれば向こう見ずになるのも分かる。」
先程のことを詫びるかのような口調でマリアはリリーに穏やかな声色で言う。
「本題じゃ。主らにこの魔女の調査をお願いしたい。」
「つまりテカーノヴァ街で審問実習学の授業をすると?」
ディアナの質問にマリアは頷いた。
「でっ、でも・・・にっ、二ヶ月も、この街で見つからなかった、、魔女を、、私達で、見つけ、られる、かなぁ・・・。」
「その点は心配せんでいい。優秀な外部講師を呼んだでな。」
「外部、、講師・・・?」
ドアが開く音がした。
「おお。ウワサをすれば来たようじゃ。」
ガサゴソとお菓子の山をかき分ける音がして、箱の影から誰か出てきた。
「相変わらず菓子が好きなんですね。」
「年寄りの唯一の楽しみなんじゃ。」
「病気になりますよ。」
サラサラとしたウェーブが特徴の痩せ男はマリアと親しげに握手を交わす。
「紹介しよう。こちらフィンリー・キングストン。教会庁異端祓い局の捜査官。五階異端審問官じゃ。」
「異端祓い局!?」
フィンリーのプロフィールを聞いた瞬間、ディアナは驚いた。
「どういう人なの?」
「教会お抱えの・・・魔女殺しのプロよ・・・。」




