60:お菓子魔窟
昼休みになり、マリアのいる学院長室へと着いた三人。
しかし彼らは、部屋のドアを前にしてある問題に当たっていた。
入り方が分からないのである。
正確に言うと、ドアに留め金式のカギがかかっていて、それを上げようとしたが、どういうことかビクともしなかったのである。
「これどうやって開けんの?」
「わたくしに聞かないで下さる?あなたこの間入ったことあるなら分かるでしょう?」
「いや~ボクのこないだのは入ったっていうよりは飛び込んだっていうか・・・。」
覚えていないかもしれないが、基礎飛行学の最初の授業の時にリリーはこの部屋に入ったことがある。
天井をブチ破って・・・。
「こっ、このハトの、カギが、、怪しいと、、思う。」
実は例の留め金には、飛び立つハトを象ったレリーフが彫られていた。
「もう一回ドア、ノックしたら?」
リリーに打診され、ディアナはドアをノックしたが、中から何も反応はない。
「やっぱりダメですわ。応答は返ってきませんわ。」
中々入ることのできない現状にリリーは「う~ん・・・。」と腕を組んで悩んだ。
その時、後ろから「何、やってんだ?」と聞き覚えのある声がして振り返ると、お菓子の袋を手に持ったマリアが立っていた。
「せんせい!」
「マリア先生!」
「ガブリエル!」
驚きつつ待ち侘びたような三人の反応を見て、マリアは状況を把握した。
「お主ら勝手に入ろうとしておったなぁ~?」
「え?せんせい中にいなかったの?」
「ああ。ちょっと菓子の買い出しにな。せっかくの茶会なんじゃからつまむものはいるだろう?ちょっと失礼。」
三人をかき分けて、マリアはドアノブに手をかけた。
「友よ、風になれ。」
マリアが唱えると、留め金のレリーフが生きているかのようにはためき、カギが開いた。
「すごい!!ねね今のどうやってやったの!?」
「かかっ。やはりリリーは食いついてきおったか。この扉はの、学院の長が認めた者がドアに手をかけ、学長の長の定めた合言葉を言わんと開かないようになっておるのじゃ。」
要するにこのドアには、指紋認証と声紋認証の両方を兼ね備えたセキュリティが施されているのだ。
「へぇ~!!バチやばだね!」
「かかっ!じゃろじゃろ?バチやばじゃろう~!?」
リリーお得意の口癖を引き出すことができて、マリアはご満悦のご様子だ。
「さっきの合言葉はあなたが定めたのよね?どういう意味が込められているのですか?」
「・・・・・・・。なんてことはない、古い友との思い出じゃよ。」
マリアはどこか物思いにふけるかのような悲しい笑みを浮かべた。
「ままっ。遠慮せずに入るがよい。」
「はぁ~い!お邪魔しま・・・。」
部屋に入った途端、三人は唖然とした。
何と部屋中にお菓子の箱や包みが乱雑に敷き詰めれていたのだ。
それはもうギッチギチに。
「ちょっと狭いが、ゆっくりくつろいでくれ。」
「せんせい・・・これは?」
「ん?ああこれか?ちょっと大人買いしてのぅ。これくらいないと落ち着かないのじゃ。」
「まっ、前にボクが飛び込んできた時はこんなんじゃなかったよね?」
「あの時は貯蔵前じゃったからの。切れかけの時だったのが不幸中の幸いじゃった。もし今ブチ入ってこようもんなら・・・グーパンしてたじゃろうな!かかっ!」
あっけらかんと笑うマリアをよそに、三人は足元や肩に注意しながら入室する。
床には銀紙で包まれたチョコボールや棒付きキャンディーが散乱し、部屋のそこかしこに菓子の箱がうず高く積まれていた。
それらをどうにかかわしながら、三人はマリアが紅茶を入れるテーブルに辿り着けた。
テーブルにも菓子がいっぱい乗っていたが、それでも他よりスペースが空いていた。
逆を言えば、この部屋で一番安全なのは、この一角のみだ。
「さぁ~どうぞ。冷めないうちに。」
優しい声で紅茶とケーキを配るマリアに、アイリスが手を挙げた。
「何かねアイリス?」
「先生?このお菓子・・・。」
「二月もすればなくなる。その時はまた買いだめしなくちゃの。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
まるでドングリを集めるリス。
そう思ったが、三人は口に出さず、ただ紅茶をカップから『ズズッ・・・。すすった。




