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魔女の子、異端審問官になる。  作者: 朔月理音(サツキコトネ)
第2章:異端審問官の学び舎
58/77

57:奇跡の景色

「りっ、リリー・・・!!」


 手首の筋を切られて手を離してしまったリリーに、ディアナは手を伸ばした。


「おおっとリリー選手!!第二コーナー直前でディアナ選手の手を離してしまったぁ!!!」


 フィリップの実況を合図に、観覧席にも動揺が走る。


 このままリリーは出血多量で死に、ディアナはコーナーに激突して大ケガ。


 家の方針に逆らった報いだと、ボレアリスは清々した気持ちになった。


「悪く思うなディアナ。全て、お前のためだ。」


 ボレアリスの策略を見通したディアナは、父親の思い通りにいくかと、リリーに向かって懸命に手を伸ばす。


「お願い・・・届いて!!!」


 心の中で必死に祈って手を伸ばすが、指が微かに届かない。


(ああっ・・・。そん、な・・・。)


 後一歩のところで届かないことを直視してディアナはひどく絶望した。


 このまま、父親の卑劣な罠の餌食になってしまうのか・・・。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「冗談じゃないわッッッ!!!」


 ディアナは本当に紙一重のタイミングでリリーの手を掴むことができた。


「あっ、ありがとうディアナ!!おかげで・・・え!?」


 喜ぶのも束の間、リリーの視界が反り繰り返る。


「ちょっ!?なにしてんのディアナ!?」


「わたくしに考え・・・がッッッ!!!」


 ディアナはなんとリリーをぶん投げて、自分も空中で回転し始めた。


 スローモーションに感じながら一回転した後、ディアナはリリーの手を掴んで、一気にコーナーに入った。


 その瞬間・・・会場が歓声に沸いた。


「くっ、クローバー寮!!!コーナー直前でまさかの手を離しての一回転!!これは今までにないパフォーマンスだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 突然のことに驚いているリリーにディアナは言った。


「ぶち抜きますわよ。」


 リリーは大きく頷いて、二人はラストスパートをかけ、ぶっちぎりで一着になった。


「ゴールインンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!一着はクローバー寮でしたぁ!!!続いてオリーブ寮、イベリス寮ゴールしました!!果たして、優勝するのは~・・・。」


 芝の地面に着地して、リリーとディアナは祈る。


「得点でました!!クローバー寮!!クローバー寮が今回の優勝ペアです!!2ラップ目のまさかの演技が大きかったようです!!一回生の異色コンビがまさかの優勝だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 得点板を見て、フィリップの発表を聞いた次の瞬間、リリーはディアナを抱きしめながらジャンプした。


「やっ・・・やったよディアナ!!優勝だよ!!!優勝!!!」


 優勝した喜びが大きいリリーだったが、ディアナはそれ以外のことに感動していた。


「クローバーさんミカエルさんおめでとう~!!」


「最後のパフォーマンスすごかったぜ~!!」


「これからも応援してるよ~!!」


 自分だけでなく、リリーにも変わらないエールを送っている。


 ディアナにはそれが、魔女の子と異端審問官の名家の娘という身分や人種の格差に大きな風穴を開けたような気がして、涙を浮かべる。





 ◇◇◇





「ばっ、馬鹿な・・・。確かに殺したはず、なのに・・・。」


 手首を貫かれて動脈が傷ついたはずのリリーが生きていることに、ボレアリスは膝を付いて混乱していた。


「誰を殺したと?」


 ハッと後ろを見ると、マリアが今までに見たことのない鬼の形相で立っていた。


「がっ、ガブリエル・・・!!」


「お主が何をやったか知らんが、リリーにはお優しい母がくれた()()()()()がある。殺せると思うな。」


「プレ、ゼント・・・。まっ、まさかジャンヌの不死の力・・・ぐふっ!?」


 マリアはボレアリスの顔を掴んで、自分の前まで近づけた。


 暫くの沈黙。


 そして・・・。


「今度わしの教え子に手を出してみろ。殺すぞ?」


 ボレアリスは恐怖から情けない声を出してその場から退散した。


「ふぅ・・・。やれやれ。」





 ◇◇◇





 優勝トロフィーを持って控え室に戻ってきたリリーとディアナを、ヴィキが抱きしめてきた。


「うぇっ!?」


「ヴィキさん!?」


「お前らはウチ等の最っ高の弟子だちだぁ~!!!」


 おいおい泣いているヴィキを、カイは何も言わずに引き剥がす。


「優勝おめでとう。最後のパフォーマンスすごかったよ。」


 まさか父親がリリーを殺そうとして起こったハプニングだとは言えないディアナは気まずくなる。


「いや~ボク自身ディアナの突然のひらめきはバチやばだと思ったね!!でもどっから飛んできたんだろ?あのナイフ。」


「ナイフ?」


「ああっ、いや!!きっと何かの見間違いですよ!!忘れて下さい忘れて下さい!!」


 慌てふためくディアナに、アイリスがそっと近づいてきた。


「アイリス。どうしましたか?」


「ええっと・・・その・・・。」


 もじもじしていたアイリスだったが、意を決したようにバッと前を向いた。


「あっ、あなたいい人!!なっ、仲良くしたいから、これまでのこと、、ごめんなさい!!」


 頭を下げるアイリスの手にディアナはそっと触れる。


「わたくしの方こそごめんなさい。ひどいことたくさん言ってしまいましたね。あなたもあなたと仲良くしたいです、アイリス。」


 握手しながら謝るディアナに、アイリスはおんおん泣いて抱きついてきた。


「ちょっと・・・?!あなたもですか。」


「ああズルい!ボクもボクも!!」


「ええっ、三人も・・・ああっ・・・!!」


 リリーまで抱きついてきたので、三人は仰向けに倒れてしまった。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「ぷっ・・・!!あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」


「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ・・・!!!」


「くすっ・・・!んふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」


 何だかおかしくなった三人は、天井を見上げて大笑いした。


 第2章 異端審問官の学び舎

 ー完ー

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