49:ご飯の温かみ
「ただいまで~す♪」
学院がある空間から寮に繋がる扉を大きく開け放って、リリー達は寮に帰って来た。
「おかえり。もうご飯できてるよ。」
食堂のドアからひょこっと顔を出して、クララが帰って来たリリーを出迎える。
「今日の夕ご飯はなにクララさん?」
「生ハムサラダ、ツナとコーンのミニピザだよ。」
「なんかヘルシーですねぇ~。んじゃ早速・・・。」
「こら。まだ手ぇ洗ってないだろ?冷めない内に済ませちゃいな。」
クララに注意され、リリーとアイリスは慌てて洗面所に向かった。
「あっ・・・んん・・・。」
ディアナは初めての寮に慣れないのか、下を向いてソワソワしている。
「おや?今日はミカエル家の令嬢さんも一緒かい?」
「はっ、はいそうですわ、よ・・・。」
恥ずかしそうに答えるディアナに、クララは「フッ・・・。」と笑った。
「なんだい思ってたほどおとなしい子じゃないかい。あ~たも早く手ぇ洗ってきな。」
リリーやアイリスと同じように接してきたクララに驚きつつ、ディアナは二人がいる洗面所に顔を赤らめてそそくさ向かった。
「可愛い子だね・・・。」
◇◇◇
手荒いを済ませリリー、アイリス、ディアナの三人はクララが用意した夕食が並ぶテーブルに着いた。
目の前には砕いた乾パンが添えられて上にオリーブオイルがかかった生ハムサラダと、コーンとツナ、チーズとマヨネーズが乗った手の平サイズのピザが一人四枚用意されていた。
「いっただきま~す。」
まず最初に手を付けたのはリリーだ。
淵のところが『サクッ!』と鳴って、チーズをびよ~んとさせてミニピザを堪能する。
「ん~おいひ~♪このために生きてんだな~♪」
ミニピザをパクっと頬張って、バタービールで流しながらリリーは至福の時を迎える。
「リリー、おじさん、、みたい。」
アイリスは小皿に生ハムサラダをよそって、ハムでレタスをくるんで口の中に入れる。
「おっ、おいしい。やっぱり、いい」
「だしょ~?やっぱイケるのよここのご飯は!」
「あ~たが作ったワケじゃないだろ?」
指をアイリスにピンっと向けてドヤ顔するリリーにクララがツッコんで、ドッと笑いが起こる。
一方ディアナは、自分用に置かれた料理をただジッと見るだけで、一切手を付けようとしない。
「ディアナどしたの?食べないの?」
「えっ?あっ、いや・・・その・・・。」
「やっぱりいいトコのお嬢様には抵抗あったかね~?」
「そっ、そんなことは・・・!!ただ・・・。」
奥歯に物が挟まったような言い方をして、ディアナは料理に手を付けない理由を答えようとしない。
「もしかして食べ方分かんないの?」
「ッッッ!!!そっ、そんなはずあるわけないでしょう!!」
不意に出てきたリリーの問いかけに、ディアナは慌てて否定する。
ただどういうワケか、何やら恥ずかしそうだ。
「じゃあ食べてみたら?おいしいよ~♪」
「いっ、いいですわよ!!喜んで、いただきますわ!!」
ディアナはミニピザを持って、上に乗った具だけ食べる形でいただく。
その姿はネコが手に乗るエサを食べるのに似ていた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「おっ・・・おいしい・・・温かい・・・。」
クララの料理を食べたディアナは、目に涙を浮かべる。
家で食べる料理は確かに美味だった。
だけど作り手の愛情が感じられず、『ただ出されているモノを食べている。』だけに思えてしまえて、どうにも味気なかった。
クララの料理にはそれがある。
作り手の温もりが。
感動したディアナは、礼儀作法なんて一切気にせず、生地の上の具をガツガツいって、残った生地もボリボリ平らげた。
「いい食べっぷりだね~!おばちゃん嬉しいよ。そんなに元気よく食べてくれて・・・。」
クララに褒められて、ディアナの胸の中がまたジーンとする。
左横のアイリスを見ると、ディアナのことを「見直した。」と言いたげに見てくる。
「けっ、結構、、ガッツリいくんだね・・・?」
お高く留まった態度を見せずにクララの料理をガツガツ食べるディアナに、アイリスは親近感を覚えていた。
「きょっ、今日はお腹が、空く大変な日でしたから、ね・・・。」
ディアナはまた顔を赤くして、アイリスからゆっくり視線をずらす。
「すっ、素直じゃ、ない、なぁ・・・。」
ディアナの態度に、アイリスは苦笑いした。
「ほら~やっぱ食べ方分からなかったじゃ~ん。ボクが手伝ってあげるよっ。」
ディアナの手に自分の手を添えて、リリーはディアナの小皿にサラダをよそう。
「いっ、いいですわよ!!わたくしもう小さくありませんし!」
「遠慮しないでよろしい。ほらほら。」
「おぼっ・・・!?そっ、そんな・・・強引に・・・!!」
二人羽織りでディアナにサラダを食べさせるリリーに、アイリスとクララは見合って互いにクスっと笑った。
夕食を温かくするのは、作り手の愛情だけではないようだ。




