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魔女の子、異端審問官になる。  作者: 朔月理音(サツキコトネ)
第2章:異端審問官の学び舎
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41:二つの首をこの手に

 サクァヌエルの好奇の奇蹟で解析された材料を基に調合した解毒剤を投与された被害者たちは、容体が安定し、今は安静に眠っている。


「ふぃ~!!噛まれた全員に薬を飲ませるの完了っと♪」


 先程までの苦しみがなかったようにぐっすり眠っている里の者に、ケネスは感嘆する。


「おお~!お嬢さんのメモ通りに作った薬のおかげで里の者の顔に生気が・・・!」


「半日もすれば起きていつも通りの生活ができると思いますので。」


 ケネスはおもむろにリリーの手をギュッと握った。


「ありがとうありがとう。お嬢さんはミートスを救ってくれた恩人じゃ。」


 右手に伝わるケネスの、しわくちゃだけどすごく温かい手の感触に、リリーの胸の中が少しくすぐったいけどほっこりする。


「どっ、ども・・・。」


 頬を赤らめながらペコリと頭を下げるリリーの頭をマリアはくしゃくしゃと撫でまわす。


「お主の手柄なんじゃだからもっと喜ばんかい!」


「わぁ!?ちょっ、せんせい前が見えなくなっちゃう~!!」


 和気あいあいとした空気がする中、唯一ディアナだけが面白くなさそうだった。


「根本的には全然解決してないのにバカみたい!」


 そう吐き捨てて、ディアナはどこかへ行ってしまった。


「なっ、なにかしてしまったかのぅ・・・。」


 外部の者にこれ以上要らぬ罪悪感を与えぬよう、マリアはケネスに寝ている患者たちの介抱に行かせた。


「りっ、リリーが、、頑張って、みんなを、、治したのに。あっ、あの言い方は、、ないよ。」


「浮かれてしまったのは認めるが、しばしの平穏も過ごしてほしいものじゃわい。」


 アイリスとマリアはディアナに否定的だったが、リリーだけは違った。


「ボクもディアナと同じ気持ちだよ。」


「ん?」


「りっ、、リリー?」


「毒にやられちゃった人達は大丈夫になったけど、里を犬に襲わせてる魔女をやっつけないとまた同じことがぐるぐる起こっちゃう。ディアナはさ、ムカついてるんだよ。事件を起こしてる魔女にさ。」


「いやリリー。それは・・・」


「それは違う。」と言いかけたマリアだったが、膝を拳でドンドン殴ってるリリーを見て止めた。


「大好きな魔法でこんなひどいことして・・・。本当ブッ飛ばしてやりたいよ!」


 愛し、もっと知りたいと思う魔法で人を傷つけることに使う今回の魔女に、リリーは本気で憤りを見せていた。


「そうじゃな。里にまた犬を放つ前に魔女を倒すぞ。それが異端審問官(わしら)の仕事じゃからな。」


「うん!せんせい!!」


「はっ、はい!」


 檄を飛ばすマリアに、リリーとアイリスは大きな声で返事をした。





 ◇◇◇





 一行から離れたディアナは、土産屋の使用されていない一室に籠っていた。


「アイツ・・・なんなのよ?どうしてわたくしより先に、奇蹟を・・・。」


 何も学ばずぶっつけ本番で概装天使の奇蹟を発動させるということは、異端審問官としてのポテンシャルが高い証拠。


 魔女の娘のリリーが、天使の血を引く家系の自分より先に奇蹟を使えたことにディアナは苛立ちと焦りを募らせる。


 そして・・・心の奥底でリリーを認めそうになる自分がいることに気付いた。


 魔女に対する差別から邪険に接し、見下しているにも関わらずリリーは自分のことを友人と、純粋な心で認めている。


 異端審問官としてのスキルも上だ。


 何より・・・本気で自分以外の人を助けようとしていた。


 ディアナは、魔女は激しく利己的で性根が曲がっている生き物だと叩き込まれた。


 魔女の・・・しかも彼らの王のジャンヌの娘であるリリーもその例に漏れないと決めてかかっていた。


 しかし被害にあった里の者を助けようと奔走するリリーの姿に、ディアナの中の偏見は大きく揺らいでしまった。


 しかし自分は物心ついた頃から魔女と魔法の悪評を聞かされて育ち・・・父からリリーを殺すよう命じられている。


 偏見と命令、それに反するリリーへの信頼のせいでディアナは激しく葛藤していた。


「こんなんじゃ・・・こんなんじゃダメなのに・・・!!」


 壁にズルズルともたれながら、ディアナは両手で頭を抱えた。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「どしたのディアナ?」


 ハッと顔を上げるとリリーが心配そうに覗き込んでいた。


「なっ、なんだあなたですか・・・。」


「具合でも悪いの?しんどそうにしてたけど。」


「なっ、なんでもありませんわ。桃色髪とガブリエルは?」


「桃色・・・?ああ!アイリスね!マリアせんせいからここの裏にある公園で飛び方教わってる。ほらボク達のせいで教えてもらえなかったから。詰め込みでやってるけど結構かかりそう~。」


「あっ、あなたは?」


「う~ん見張り?また犬が襲ってきた時にいつでも知らせられるように。長くなりそうだから今のうちにおしっこしにね。」


「そうですか・・・。ガブリエルはあの桃娘に手が離せないと・・・。」


 その時、ディアナの頭に悪魔の考えが浮かんだ。


「ねぇ?今の内にわたくし達で魔女を倒しに行きましょうよ?」


「ええっ!?ボクとディアナだけで!?危ないよ~!」


「さっきの惨状を見て、わたくしはもう我慢できませんわ。この里を苦しめてる魔女を倒して、平和を取り戻したいのです。」


「でっ、でもぉ~・・・。」


 躊躇うリリーの手を、ディアナはギュッと握ってきた。


「わたくしとあなたならできますわ。だって息ピッタリな友達ですもの。」


「息ピッタリな・・・友達・・・。」


 その言葉に絆されたリリーは、ディアナの手を握り返す。


「うん!やっぱりディアナはボクの思った通りの気持ちだったんだ。よぅし!!魔女をやっつけよう!!」


「ありがとうございます!!」


 張り切るリリーを見て、ディアナは「なんて単純で馬鹿なヤツ。」と思った。


 ディアナの目的。


 それは・・・戦いのどさくさに紛れてリリーを殺し、ついでにミートスを苦しめる魔女も殺して、二つの首を手土産に教会にとっての大手柄を立てるというもの。


 学院での立場は危うくなるが、家と教会に認められるのでディアナにとっては些末な心配事だった。


 何故なら『教会にとって不安因子となるジャンヌの娘を排除した。』ことと、『見習いなのに上階異端審問官の補助なしに魔女を討伐した。』という功績が手に入るからだ。


 ディアナは気付いてないが、小さく肩が震える。


 それは武者震いか?


 それとも()()を犯そうとする自分自身への恐れか?

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