38:病的好奇心の賜物
リリーが❝バフォメルマウス❞という、犬や山羊と話せる能力を生まれつき持っていることを聞かされたアイリスとディアナ。
「バフォ、メル、、マウス・・・?」
代々異端審問官を輩出してきたミカエル家の出身のディアナと違って、祖母の代から異端審問官の家系になったアイリスにとっては初めて聞く単語だったらしく首を傾げた。
「ガブリエル。あなたいつ気付いていましたの?あいつがバフォメルマウスを使えるって・・・。」
「リリーがゴンドルの森を旅立つ時に動物たちが見送りに来てな?その中にいたダイツノヤギと明らかに会話をしている素振りを見せていて、❝これはもしや・・・❞と思っておったが、どうもアタリだったらしい。」
「いくらあいつがジャンヌの娘だからって・・・!!あっ、あんな・・・!!!」
優しく犬を介抱するリリーをディアナは、歯を剥き、息を荒くしながら睨みつける。
「でぃ、ディアナ・・・。リリーの、その、、バフォメルマウスって、なん、なの・・・?」
「ガブリエル、こいつにも説明してやりますの。あいつが使っているのは、悪魔の言葉だって!!」
「悪魔の、、言葉・・・?」
マリアはバフォメルマウスについてアイリスに説明することにした。
「アイリスは犬や山羊が悪魔の象徴とされているのは知っておるな?」
「はっ、、はい。」
「どうしてか分かるか?」
アイリスはマリアの質問に、首を横に振った。
「悪魔と話せる動物だからじゃ。」
マリアの言葉の意図を瞬時に理解し、アイリスは悪寒を覚える。
「そう。悪魔が犬や山羊と話せるように、混血型の魔女の中からも同じ能力を持った魔女が生まれることがある。総じてそのような魔女は、強大かつ恐ろしい力を持っておる。何せバフォメルマウスが使えるほど悪魔の血が濃く混じっておるのじゃからな。」
「でっ、でも、リリーは・・・。」
「魔女の子であって悪魔の子ではない。なぜリリーが、魔女の中でも特異とされる言語を扱えるのか・・・。それは分からぬ。」
マリアは仮定として、ジャンヌも同じ力を持っていて、それがリリーに遺伝したと考えているが、そうではなかった。
ジャンヌは犬や山羊と話すことができないからだ。
では何故、人間の悪魔のクォーターのリリーが悪魔の力を持つのか?
果たして・・・。
「ちょっとみんな!!そろそろこっち来てよ!!」
リリーに呼ばれて、三人は隠れるのをやめて出てきた。
「もぅ!いつまで隠れてんのさ?」
「急に飛び出したのはリリーじゃろう?」
「それはそれだって。とにかく誰かこの子押さえてくんない?ちょっと痛いことするかもだから。」
マリアはアイリスとディアナ、それぞれに目配せを送る。
「アイリス、リリーを手伝ってやりなされ。」
「わっ、わた、し・・・?」
「わしとディアナはこっちを。」
「えっ、ええ。」
マリアとディアナは未だ動揺が収まりきらない兄妹を落ち着かせる方に回った。
「じゃあアイリス。こっち代わって。」
「うっ、うん・・・。」
アイリスはリリーに言われるがまま犬を介抱する役割を代わった。
「どったの?なんか顔色悪いけど。」
「え?いっ、いや・・・。」
アイリスはリリーの方からサッと目を逸らした。
リリーが悪魔の能力を持っていると知ったアイリスは、今まで心を許していたリリーのことが急に恐ろしく感じてしまっていた。
リリーを一方的に軽蔑していたディアナと同じ立場に回ってしまったことにアイリスは、所詮は自分を棚に上げていただけだと自分を恥じた。
「ワンちゃん触るのはじめて?」
「ふぇ?」
「じゃあ仕方ないか。それに普通じゃないもんねこの子。だけどなりたくてなったワケじゃない。無理やりこうさせられたんだ。」
赤いよだれを垂れて、舌を出しながら苦しそうに呼吸する犬のことを、リリーは懸命に触診する。
「なっ、治せる、、の?」
「これは生命魔法の派生の混獣術だ。前に同じものを見たから分かる。」
「混、獣術?」
「一匹の動物に別の動物の特徴を混ぜて強くするんだ。この子はロッキードッグ。岩山に住んでる山犬の仲間。頭がいいけどその分ビビりだから、自分から人を襲うようなことはしない。そして何より、牙はこんな長くない。」
「じゃっ、じゃあ・・・。」
「魔法でいじられたんだ。誰かに。」
リリーのいう誰かとは、今回標的となっている魔女のことを指している。
人を襲っていた狂暴な山犬も、魔女による被害者だと知り、アイリスは心を痛めた。
「ボク達がやっつけに来た魔女、意外とちょろいかもよ?」
「なっ、なん、で・・・?」
「普通だったらこんなに苦しまない。しかも中途半端に混ざってる。魔法が全っ然なってない。ママと大違いだ。」
犬の首あたりをさすって、リリーは「あっ!」と声を上げた。
「りっ、リリー・・・?」
「見つけた!やっぱり痛くなりそうだから一瞬だけウンときつく押さえてて!」
「わっ、分かった・・・!」
リリーに指示され、アイリスは犬の脇腹に触れる手に力を入れる。
「セパラ・クリート!」
リリーが解呪の詠唱を唱えた瞬間、犬が聞いたことないような声で吠え、横になりながら暴れ出した。
「りっ、リリー・・・!!」
「アイリス踏ん張って!!う~りゃ!!!」
リリーがロッキードッグの首からクギのような物を抜いた瞬間、さっきまで暴れていたのが嘘のように落ち着き、そのままぐったりと眠る。
「りっ、リリー・・・!!」
ヘビのような牙がどんどん短くなり、元のイヌ科本来の犬歯に戻り唇の下に隠れた。
「ほらアイリス。」
リリーが犬の首から抜いたものをアイリスに投げて渡した。
「何、これ?楔?」
リリーが渡したのは他の動物の牙がくくりつけられた楔だった。
「混ぜたい動物の身体の一部をこれに付けて打ち込むと魔法が発動するんだ。混獣術の初歩だよ。やっぱまだまだ未熟だわ!これ仕込んだ魔女!」
「リリーは、やったこと、、あるの?」
「あるよ。」
即答するリリーに、アイリスの思考が一瞬停止した。
「ウサギの毛を結んだのを足に打った。原っぱで思いっきり走りたくて。」
「そっ、それ、で・・・?」
「ママに見つかって解き方の練習だっつって両手以外サケに変えられた。❝野原で走り回るより滝登りでもてろ!❞って。楔を打ち込まず詠唱だけであんなにできるなんてやっぱママは違うわ~!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ぷっ、ははっ・・・!!」
「え?なんで笑うの?」
「ごっ、ごめんごめん!サケにされて、必死に滝登りしてるリリーを、思い、浮かべたら・・・あははははははははははははははははははははははははははは!!」
「いやめっちゃしんどかったんだよ!?滝ゴウゴウ流れる中泳ぎながら教えてもらった解き方やんの!魚の目ってまん丸だけどもっと、こぉ~んなに丸くしたんだよ!?手なんかもこう、やって・・・!!ばったばったばった!!」
当時の動きを再現が、アイリスの笑いを余計に誘う。
「あははははははははははははははははは!!ひっ・・・!!ひっ・・・!!いっ、イメージしやすくしないで!息できなくなっちゃう~!!」
「アイリスひっど~!!」
先程までリリーを怖がっていたのが嘘のように、アイリスは腹を抱えて大笑いした。




