37:霧の里の狂犬
❝霧の里・ミートス❞。
ウィクトリア王国北東部にある国内有数の登山スポット、ハットブルー山への出発地点になる場所だ。
マリアの言っているのが本当なら、リリー達はエンデから列車で一日はかかる地点にたったの2、3秒で到着したことになる。
「ゔぇっ・・・。なっ、なんだったのよさっきのは・・・。」
腹の物を全て道路に出し切ったディアナが、口元を拭きながら聞いてきた。
「わしの天使の奇蹟で作った使い魔じゃ。戦闘向けではないがどんなに離れた場所でもひとっとびっで行ける。呼び出す笛は一回きりで壊れてしまうがの。また作ってもたせてやる。」
「まっぴらごめんよッッッ!!!」
「およよ。つれんのぅ~・・・。」
アイリスは霧がほんのり立ち込める里を見て、とある違和感に気付いた。
「なんか、、いないですね。人・・・。」
上記したようにミートスは、有名な登山スポットの出発ポイントであり、ここでしか味わえぬ郷土料理もある観光スポットだ。
にも関わらず、里には登山客はおろか住人も一人もおらず、閑散としている。
「ここって観光地として有名なはずでしたわよね?どうして誰も出歩いていないのかしら?」
「少し、面倒事が起きていてな。今のミートスでは外出自粛令が出ており、その影響でブルーハットへの入山も禁止されておる。」
「面倒事?」
「それはな・・・」
リリーの質問にマリアが答えようとしたその時、近くで悲鳴が聞こえ、四人は急いで出処へと走った。
「おっ、お兄ちゃん・・・。」
「くそっ・・・!来るな!!」
四人が向かった現場では、地元民と思しき兄妹が一頭の犬に追い詰められている最中だった。
だが、明らかに二人を襲っている犬の様子がおかしい。
上の犬歯が蛇の牙みたいに異常発達しており、そこから赤い液体が滴り落ちている。
「なっ、何よアレ・・・?」
「犬・・・なの・・・?」
「早速出おったか。」
犬の正体についてマリアは知っているみたいだった。
今すぐにでも事情を聞きたいところだが、こうしている間にも兄妹を襲っている犬は唸りながらジリジリと距離を詰めている。
「あっ、あなた!!異端審問官なんだから早くあの二人を助けなさいよ!!」
「そっ、、そうですよぅ先生・・・。この、ままじゃ・・・。」
「そう狼狽えるな。わしよりもこの手合いに向いておるのがもう飛び出したじゃろうて。」
「向いているって・・・ああっ!!」
先程まで一緒だったリリーがいつの間にか兄妹と犬の間に飛び出していた。
「りっ、リリー・・・。」
「アイツ・・・!どういうつもり!?死にたいの?」
「まぁ落ち着け。見れば分かる。」
アイリスとディアナに、この状況を見守るようにマリアは諭した。
「きっ、君は・・・?」
突然割って入ってきたリリーに、兄は驚きを隠せなかった。
彼は今から、それより更に理解できないモノを、見ることになる。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「*******。」
『グルルルルルルルルルルルル・・・!!』
「*******。」
『グルル・・・!!グルルル・・・!』
「*******。」
『グゥゥ・・・。ウウウウウウウウウウ・・・。』
リリーが犬の鳴き声を無理やり言語化したような声で話し続けると、犬は唸るのを止めて苦しそうに横たわった。
「え・・・?え・・・?」
「もう大丈夫です。まだ話が通じるみたいで良かった。」
まだ少し怯える兄妹を励ましながら、リリーは犬の腹を優しく撫でる。
「誰がこんなひどいことを・・・。」
犬を介抱するリリーは怒りの表情を見せていた。
「やはりリリーが適役であったか。」
「せっ、、せん、せい・・・リリー、、さっ、さっき・・・。」
犬と話していた。
にわかには信じられないが、リリーは確かに牙を剥く狂犬に語りかけ、鎮めていた。
「がっ、ガブリエル・・・!!あっ、アイツ・・・!!」
「ミカエルの人間ならば知っておったか。リリーの力について。」
困惑するアイリスと動揺するディアナにマリアは、先程見せたリリーの能力を話した。
「リリーは❝バフォメルマウス❞。生まれつき犬やヤギと話せるのじゃ。」




