35:天使と魔女の子チーム
「お゛ま゛え゛ら゛ぁ~!!!」
エリオットに連れ戻されたリリーとディアナは、正座させられてみっちり説教されていた。
「授業ほっぽってケンカやるヤツなんて受け持った生徒の中で初めてだわッッッ!!!覚悟できてんだろ~なぁ~!?」
「覚悟って、ナンデスカ?」
「生活指導だよ生活指導ッッッ!!!」
遅刻した生徒や行き過ぎた校則違反を犯した生徒が受ける生活指導。
罰則のレベルは反省文の提出や迷惑を被った教員の雑用の手伝いまで多岐にわたる。
「あ、あの、、二人には、、どんな罰が・・・?」
アイリスが恐る恐る聞くと、エリオットは「はあ~!!!」と大きなため息を吐きながら頭をくしゃくしゃした。
「授業中の乱闘騒ぎじゃ最悪・・・小指縛って生活指導室に一日宙づりだわな!」
小指を縛って丸一日部屋に監禁と聞かされてアイリスはゾッとした。
「そっ、そんな体罰名家出身の人間に許されると!?!?」
「おめぇ~がお嬢様でも一切甘くしないからな。この学院の一番のモットーは公平だからな!」
「履き違えてるわよそんなの・・・。」
不服極まりないディアナと比べて、リリーは平気そうだった。
「あんまり大したことなさそうだね?」
「なっ、何言ってるんですの!?小指を縛られて宙づりなんて拷問じゃないの!!」
「それっくらいのお仕置き森で暮らしてた時にいっぱいされたけどね。一番きつかったのは一週間ヤギの群れと崖で暮らすってのかな?いや~あれには参った!」
「お前よくそれで七年間生きてこれたな・・・?」
罰の次元が違い過ぎて教師であるエリオットですら引いた。
「かかっ!ジャンヌとの暮らしは、こことは比べもんにならぬほど刺激的だったのだな?」
「まっ、マリア先生!!」
いきなり学長がやってきたことにエリオットは慌てた。
「どっ、どうしたのですか突然!?!?」
「リリーがわしの部屋の屋根から飛び込んできおったのでな。流れはあらかた見させてもらった。」
「・・・・・・は?」
乱闘騒ぎを起こしただけじゃ飽き足らず、学長室まで損壊したと知り、エリオットは一気に血の気が引いた。
「終わった・・・。オレの教師生活・・・。」
学長にまで迷惑をかけたとなれば、問題を起こした生徒だけでなく授業を受け持った教師にも責任が乗っかるのは必至なので、エリオットが絶望した。
「そう落ち込むでない。結構見応えのあるモノが見えたからの。」
マリアはリリーとディアナの方へと視線を移した。
「お主ら、ツインハイトに出場しないか?」
「つっ、ツインハイトですって!?」
ツインハイト。
それは学園のコロシアムで月一回の休日に開催される、寮対抗のスポーツの試合だ。
各寮から代表者二人を選び、二人三脚ならぬ二人二翼で挑むレース試合だ。
卓越した飛行技術と洗練されたパフォーマンス、そして何より、抜群なコンビネーションが要求される。
「でっ、ですが先生!!例年通りなら一回生は秋に出場します!!上級生の動きを見る必要がありますから。入学したてのぶっつけでやるなんて聞いたことがありません!!」
「わしが生徒の頃は入学してすぐにエントリーしたがの。」
「それいつの話なんですか?」
「百十年前じゃ。」
マリアの長寿の秘密を知るエリオットは今更驚かなかった。
それよりスパンが大幅に空いてしまっていることに、難色を示した。
「わたくし、出ませんわよ!!こんなヤツと組んだところでいい結果なんて残せるはずありませんから!!」
ツインハイトはゴール順位だけでなく、タイムとどれだけ息が合っているかも点数に加味される。
言ってしまえば、短距離走とシンクロナイズドスイミングが合体したような競技だ。
ただ単純に速ければいいというものではない。
魔女の娘のリリーと天使の血脈のディアナは水と油。
相性がいいとはとても思えなかった。
「ディアナやろやろ!!ボク達なら絶対勝てるよ!!だってさっきの練習試合イイ線いってたし♪」
「どうやらリリーはやる気のようじゃな?」
「こっ、コイツ・・・。」
子犬みたいに目をキラキラさせて飛び跳ねるリリーを、ディアナは恨めしそうに見た。
そんなディアナに、マリアはそっと耳打ちする。
「お主も気付いておるのじゃろう?リリーを魔女の娘と見れなくなっておることに。」
図星を突かれ、ディアナの心臓がドキっと飛び跳ねた。
「アイツは・・・魔女の、娘よ・・・。わたくし達の、同級生じゃない・・・。」
「じゃったらそれを証明してみせよ。お主の言うように良い結果が残せぬようじゃったら、お主とリリーは相容れぬ者同士じゃということ。わしは一切、お主らの仲に口出しせぬ。何じゃったら、別々の寮に分けてやってもよいが?」
ディアナは拳を強く握り、マリアの方をキッと睨む。
「約束よ。わたくしとアイツが違うと証明されたら、わたくしの物言いに二度と口出ししないで。」
「ああ。生徒の意見を聞いてやるのも、学長の仕事だしな。」
マリアはスタスタと、笑みを湛えながらディアナの傍から離れた。
「釣り針に食らい付きおった。糸が切れぬかどうか、あとは運任せじゃな。」
まんまと挑発にディアナが引っかかり、マリアはしてやったりと思った。
こうして百十年ぶりに、入学から間もない春の季節に一回生のツインハイト代表チームが組まれた。
天使と魔女の子という異色のコンビという形で。




