33:ピジョンファイト
背中から平和の象徴として知られる純白の鳩のような翼が生えてリリーはすごく驚いた。
意識すると広げたり畳んだりできて、身体の一部であると実感できる。
「んんっ・・・?あだっ!?」
試しに一枚羽根を引っこ抜くと、束ねた髪をいきなり抜かれたようなヒリヒリした痛みが走った。
「いっつ~・・・。」
「あんま粗末に扱うなよ。それ借りモンなんだからな!」
注意するエリオットをよそに、リリーは抜いた羽根をまじまじと眺める。
「サクァヌエルの羽根なのに引っこ抜いたらボクの方に痛みがくる・・・。ほんとに身体の一部として借り出されてるのかぁ・・・!!いや~バチヤバだぁ~♪どういう原理なのか、ひっじょ~にそそられる!」
マリアの言っていた通り、未知のモノに目がないことにエリオットはため息をつく。
「さて~他の二人は・・・。」
アイリスは問題なく翼を出せており、固まった表情でずっとさすっている。
しかし、ディアナが問題だった。
「レガリエル、広がれ。広がれ。広がれっ!!」
ディアナの背中の翼は、『ビチ・・・ビチ・・・!』と少しずつ伸びるだけで、中々完全に顕現しない。
「そんなに力んだら天使が嫌がっちまう。休み休みやった方が・・・」
「うるさいッッッ!!!」
生徒に思いきり怒鳴られ、エリオットは情けなくも委縮してしまった。
ディアナが背中に翼を出すのに、およそ五分もかかってしまった。
三人の中では一番遅いタイムだ。
「はぁ・・・!はぁ・・・!役立たず!あんたはわたくしの概装天使でしょレガリエル!!翼くらい早く出しなさいよッッッ!!!」
「こりゃ、信頼関係築くの大変そうだなぁ~。」
異端審問官と概装天使との絆は魔女と戦う上でなくてはならない絶対条件。
信頼を上手く築けなければ、返り討ちで命を落としてしまうからだ。
魔女は・・・一番戦いができない異端審問官を、狙う。
「でもここまで概装天使が言うこと聞かないってことは、あの金色アタマの嬢ちゃん・・・あるいは・・・。」
怒りと疲労でヘトヘトになったディアナに、リリーが寄ってきた。
「なにディアナ翼出せなかったの?」
「おっ、お前は・・・!?」
「一・発・合・格!!背中に翼があるのってなんかヘンな感じだけど鳥の気持ちがちょっとは分かるかな~えへへ♪ディアナも無理すんなよ!スランプは誰でもあるさ!」
「・・・・・・れ。」
「ん?」
「黙れ・・・。」
「え、ちょっ、どったの?」
「その魔女臭い口を閉じろっつってんだよぉぉぉ!!!」
ディアナはリリーに馬乗りになってハンドクローの切っ先を喉に突き刺そうとした。
「いっ!?マジ!?!?」
リリーは急いでディアナを突き飛ばして、足をバタつかせて慣れない翼で飛ぼうとした。
「うわっ!これ・・・!!使いにく!!」
翼は不規則に左右バラバラに動いて、少しつま先が浮く程度で浮上しない。
「ロクに扱えてない!!やっぱりお前は、魔女の子だッッッ!!!」
動きが取れないリリーにチャンスと見たディアナがハンドクローを構えて飛んでくる。
顕現には苦労したが、ディアナはレガリエルから借りた翼を、もう身体の一部として使いこなしている。
「サクァヌエル!!飛んで飛んでッッッ!!!」
リリーが必死で念じると、胸の中で何かがバチっと繋がったような感じがしてリリーは空に向かって急上昇した。
「ちぃ・・・!!逃がすかッッッ!!!」
ディアナもリリーを追いかけて急上昇した。
勝手に翼を使って空を飛ぶ二人にエリオットが気付いたのは、二人が上空500mに到達した時点だった。
「マズっ!早く止めなきゃマリア先生にボコられるッッッ!!!」
エリオットまで空を飛んだのでアイリスはグラウンドでポツンと取り残されてしまった。
「えっ・・・と・・・どうしよ、、かな・・・。」
◇◇◇
「うっぷ・・・!!雲冷たっ!!前・・・見にく!!」
顔面に冷たい空気と強風をまともに受けて、リリーの翠髪は乱れて、目も僅かにしか開けられなかった。
振り向くとディアナはまだ怒り狂いながら追いかけてくる。
「お父様に・・・一族に・・・大きな成果を出さなきゃ・・・。」
ディアナのリリーへの怒りは入学前夜に言われた父からの命令と、それを成し遂げられない恐怖に塗りつぶされ始めた。
「落ちろッッッ!!!ジャンヌの娘ッッッ!!!」
ディアナが右手に付けたハンドクローでリリーの心臓を一刺ししようと一気に距離を詰めてきた。
リリーは空中で身をひねることで、どうにかそれを回避する。
「くっ・・・!!逃げるな!!わたくしと正々堂々戦えッッッ!!!」
激昂するディアナを見て、リリーはその理由がいま一つ分からない。
「なんであんな怒ってるんだろ?ボクなんか悪いことしたぁ?」
両手の人差し指で左右の眉間をこすって、リリーは考える。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あっ!分かった!!ディアナ自分を追い込むためにボクと練習試合がやりたいんだ!!」
全く的外れな結論だった。
「ボクが話しかけた時、ディアナ相当悔しそうにしてたからな~。多分アイリスが声かけてたらアイリスと勝負しようとしてただろうし・・・。」
理由は間違ってはいたが、ディアナが自分と戦いたがっていると知り、リリーは難色を示した。
「ぶっちゃけボク、ディアナと戦いたくないんだよな~。せっかく友達になったし、ケガさせたくないしな~。」
大人しく降参しようと決めたリリーはスピードを徐々に落とす。
しかしその時、ゴンドルの森でジャンヌと閃光魔法の打ち合いをしている時に、ためらって返り討ちにあったことを思い出した。
「わっ・・・!?なっ、何すんだよママ!!顔に雷のボール当てるなんて・・・!!」
「どうして私に魔法を放たなかった?リリー。」
「だって、ママが眩しがるの、ヤダなって・・・。」
リリーが躊躇した理由を聞いて、ジャンヌはしかめっ面をしながら腰に手を当てた。
「お前の気遣いは受け取っておこう。しかしだリリー。これはお前が夜に獣と出くわした時用に、身を守る魔法を知りたいと言った上で始めた模擬戦だ。私はお前に自分を守れる術というのを学んでほしい。」
リリーの傍まで寄ったジャンヌは、その目線と同じになるようにしゃがみ込んだ。
「親しい間柄においても、やらねばならない時というのは来る。逃げず、思いっきりぶつかってやれ。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「オッケー、ママ。」
リリーは身を翻し、腰からダガーナイフを抜いてディアナに突進した。
「なっ・・・!?」
ディアナはリリーのダガーを、咄嗟にクロウで受け止める。
「そこまでの根性か!?ディアナ!!いいだろう!全力で受け止めるから思いっきりボクにぶつかって来いッッッ!!!」
「はっ、はぁ?」
勢いとは裏腹の芝居ががったリリーの口調に、ディアナの目の前がグニャっとなった。




