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魔女の子、異端審問官になる。  作者: 朔月理音(サツキコトネ)
第1章:魔女の王と娘
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3:没頭とひらめきの少女

 家で昼食を食べ、ジャンヌとリリーは再び森に入った。


 ここは標高が比較的高く、それにより尾根から冷気が差し込む中腹。


「さっむ・・・!」


 毛皮のコートを羽織ったリリーがブルっと身体を震わせた。


「では、これより魔法で暖を取る方法を教える。その前に、魔法の基礎をおさらいしよう。リリー、そもそも()()とは何か?」


「まっ、魔法っていうのは、この世界にある属性を操る方法で、一般的に火・水・雷・土・風・時間・空間・生命の8つで、そこから氷とか精神とか色んなものに応用・・・できる?」


 腕を組んで寒風に耐えながらリリーは説明した。


「そうだ。暖を取るためには言わずもがな火を起こす必要がある。だが見ての通り、ここは森の中。更に冬季の末だ。空気は乾燥し、草木に燃え移れば山火事の恐れがある。だから火を付けず、暖かい空気だけを作る必要がある。」


「そっ、そんなのできるの・・・?」


「簡単だ。私ならな。」


 ジャンヌは右手を広げ、意識を手の平に集中させる。


「フレム・ディリソス。」


 呪文を唱えると、ジャンヌの手の平から暖気が生まれ、彼女とリリーを包んだ。


「あっ、あったかい・・・!?」


「ほらな?」


「どうやったの!?」


「魔法で手の平に火を作り、瞬きする間もなく()()()()()()のさ。生じた熱をある種の空間と捉え、それを私の手の平から私とリリーの周囲に広げた・・・といったところだ。本当は無詠唱でできるが、それでは教えられない。詠唱はイメージ構築のために不可欠だからな?」


「ぐっ、ぐぬぬ・・・。」


 これほどまで高度な火魔法の派生を瞬時に実行でき、自分に教えるために敢えて片手間加えたことに、リリーは歯がゆく思った。


 これが彼女の母であり、魔法の師の力なのだ。


「そう悔しがるな。お前には才がある。どれ、やってみろ。」


「うっ、うんっ」


 両手を軽く上げ、手と手の間に火をイメージする。


「フレム!」


 上げた両手の中心に、こぶし大ほどの火の玉が生じた。


「次に火だけ消失!」


「でぃ、ディリソス・・・!!」


 リリーが力んで詠唱すると、火だけでなく発生した暖気まで消えてしまった。


「あっ!あ~・・・。」


「肩に力を入れ過ぎて派生のイメージが掴めなかったか・・・。私は森の観察を続ける。しばらく続けろ。」


「うっ、うん!」


 ジャンヌが離れた後、リリーはその場で自主練を繰り返した。


 詠唱しては失敗して、詠唱しては失敗して・・・。


 チャレンジすること310回目。


「フレム・ディリソス!!」


 詠唱して火を作るところまではいくが、どうしても暖気まで消してしまう。


「だぁ~!!ダメだぁ・・・!」


 繰り返しの失敗にウンザリしてしまったリリーはその場にしゃがみ込んだ。


「う~んどうしてもあったかい空気まで消してしまう~。どうしたものかなぁ~・・・。」


 頭をぽりぽりかいてリリーは考える。


「もっといい方法もっといい方法もっといい方法・・・んん?」


 アイディアを閃いたリリーは、両手をかざし念じた。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


 暖気が生じそのままリリーの両手を包むように拡張した。


「やったできた!!」


 歓喜の声を上げていると、ちょうどジャンヌが帰ってきた。


「おお、できたか。ん?」


 かざしたリリーの両手を見て、ジャンヌは訝しんだ。


()()()()()()()()()()ようだが?」


「そうだよ。だって火魔法じゃないもん。」


「何?火を使わずに暖気を発生させただと?一体どうやった?」


「生命魔法でボクの中の温度を外に逃がしたんだよ。」


「生命魔法だと?」


「ママってさ、ご飯を食べた後に体がポカポカしたことってない?あれってね、食べたものを消化するために体温が熱くなってるんだよ。消化ってね、気付いてないだけで意外とエネルギー使ってるんだよ。だからご飯を食べた後って眠くなっちゃうんだ。ボクは思ったね。❝アレこれ魔法に使えるんじゃないか?❞ってさ~。やり方は簡単だったよ?まずボクの体の中で温度が上がってるところを魔法で探すでしょ?そしたらやっぱお腹の真ん中辺りが熱くなってたんだ!消化の時の熱って結構長持ちするんだから驚いちゃったよ~。後はこれを生命魔法で体の中に出すんだけどね、出し方をどうやるかが肝心なんだ。片手だけにするか両手に分けて出すか。最初は片手だけにしようと思ったよ。だってその方がさっきのママみたいでカッコイイからね。でもいざ片手だけに出そうとしたら熱いのなんのって!体温37℃だから当たり前だよね?だから両手に分けて出したら暖炉であったまった部屋とおんなじ熱さになったんだ!あっ、どうやって体の中の温度を魔法で出すかっていうと、まず体の中心の温度をボールみたいに・・・。」


 そこからリリーはジャンヌに自分のオリジナルの方法を熱弁した。


 これがリリーの強みだ。


 彼女は所謂、()()()()()


 それも独創性タイプ。


 既存ではなく、自分の考えた新しい方法で実践しないと気が済まない性格だった。


 煮詰まれば煮詰まるほど、そこに至りやすい。


 そして何より、誰かに教えたくなって、ウズウズするタイプ。


「・・・・・・・っていうワケ♪」


「なるほど。着眼点としては悪くない。あとは体外に逃がした体温を拡張・維持してゆくことが課題だな。」


「そこをもうちょっと頑張んないとね~。じゃあもうちょっと練習してく・・・」


「おいおい待て。お前気付いてないのか?」


「へ?何が?」


「もう日暮れだぞ?」


「え、わ!?」


 辺りを見ると森はすっかり薄暗くなっており、ジャンヌの輪郭もぼんやりとしていた。


「ちょっ、待っ・・・!!バチヤバ、バチヤバ!!」


 リリーは慌てるとこの単語を連呼するのが癖だ。


「私が戻ってきた時には太陽が沈みかかっていたが、お前が熱く語る内にどんどん暗くなっていって、今はこうだ。」


 自分の世界に入ると周りが見えなくなってしまう。


 これが魔法オタクであるリリーの最大の弱点だ。


「誕生日会・・・!!早く帰って準備しないと!!も~本っ当バチヤバっっっ!!!」


「おいおいそんなに慌てて森を走るとケガするぞ?」

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