25:寮母の品定め
食堂の女主人に凝視されて、アイリスは硬直した。
しかしリリーは丸い目をぱちくりさせて視線を返す。
「この人はクララ・サントス。ここの料理番で寮母さんもやってるの。」
「作るご飯美味しんだよ~。起きる時間と寝る時間にはうるさいけどね。」
「遅寝と遅起きは若者には毒なんだ。文句言う前に時間を守れってんだ!」
クララは片膝を付いて、リリーとアイリスに更に顔を近づける。
「ライラとルシールの妹だね?」
「あっ、、アイリス、、ロナウド、でしゅ・・・。」
クララのゴールドの瞳に見つめられ、人見知りが激しいアイリスはいつも以上に緊張する。
「性根は悪くないが、ちとモヤシだね。」
「すっ、、すみま、せん・・・。」
「まぁいい。姉ちゃん達と違って手がかからなそうだ。」
妹を通してディスられたことにライラとルシールはツッコんだが、クララは無視してリリーに顔を向けた。
「お前さんは?」
「リリーです!初めまして!」
「元気がいいね。だけど底が見えない。」
「底が見えない?」
「何考えてるか分からないってことさね。」
「えへへ。ママにもたまに言われました。❝リリーって何考えてるか分からん。❞って。」
頭をポリポリかいて謙遜するリリーを、クララはじ~っと見つめる。
「クララさん?」
「おっと。ウチとしたことが。いいツラぁ見てついボーっとしちまった。」
「え!?ボクってそんなにカワイイですか!?」
「そんなとこだ。」
「やだもう~♡♡♡初めてボクの良さに気付く人が来たってことなんだねぃ~♡♡♡」
頬っぺたに手をやってくねくね照れるリリーに、クララは「フッ・・・。」微笑んだ。
「夕飯作ってやっから、ちょっと待ってろ。」
四人はテーブルを適当に選んで、リリーとアイリス、ライラとルシールのペアで隣り合う形で座った。
「いい人そうだね。クララさん。」
「どっ、、ドキドキしたぁ・・・。」
「ああやって新入生を品定めするんだよ。あたしらの時もめっちゃ見られたなぁ~!」
「アイリス越しにディスられたことについては心外ぃ~。」
「それあたしも思った!!だけど、な~んか意外だったなぁ~。」
「なっ、、何、が?」
「おばちゃんリリーのことめっちゃ見てたじゃん?一分以上眺めるのはすごく珍しいんだよ?」
「そっ、、そうなんだ・・・。」
「やっぱボクの美貌?ってのが分かる人なんだってぇ~!」
「リリーって天然だけど自己肯定感は高めなんだね?」
「じここ〜て〜かん?」
「ポジティブだってこと~。」
「ボクって明るさ8と好奇心2くらいで出来てるからさ♪」
「逆、、だと思うよ・・・?」
「へ?何が?」
「お待ちど~さん。」
会話を弾ませていると、ペンネボロネーゼと玉ねぎのスープ、鶏肉とニンジンのチーズグラタンが四人分運ばれてきた。
「ガッツリ作ってんじゃん!!」
「これ多めなんじゃないの~?」
「若いモンはこれっくらい腹おさめないとダメなんだ。二人とも!分かってると思うが・・・。」
「残すのゼッタイ禁止・・・でしょ?」
「いいじゃないか。」
「とりまこんな感じですんごい量作ってくるけど、味はめちゃイケてるから食べてみ?」
「い、、いただき、、ます・・・。」
玉ねぎのスープに口を付けたアイリスは、ポッと顔を赤くしてまったりした表情を見せた。
「おっ、、おいしい・・・。」
「身体の芯からあったまるだろ?この時期はまだ少し冷えるからさ。」
続いてリリーも、フォークでペンネを刺して口に運んだ。
「あれ?」
フォークを握るリリーの手が固まる。
「どした?」
「口に合わなかったかい?」
「いえいえすごくおいしいです!!だけど、そうですね~・・・。なんか食べたことがある気がするんですよ~。」
「こりゃあたしのオリジナルのレシピで作ったんだ!簡単に真似できるはずがあるかい!」
自信満々にクララが豪語すると、リリーは「あっ!!」と声を出した。
「思い出した!!これママが作ってくれたご飯に似てる!!」
「あんたの・・・母ちゃん?」
「ちょっとトマトの味が濃い~んですよ!こういう系のご飯作る時のママの癖なんです!あ~でも、こっちの方が美味しいかな?」
納得がいってもりもり食べるリリーを、クララは感慨深そうに眺める。
「料理上手かったんだね?あんたの母ちゃん。」
「そりゃ~もちろん!!あっ、クララさんも同じくらい上手ですよ。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ありがと。良く噛んで食べな。」
クララはリリーに一瞥を送ると、厨房の奥に戻っていった。
「やっぱりなんかいつもと違う~。」
「だよな!?あんなおばちゃん初めて見たわ!!新鮮だった~。」
「そんなに不思議なこと?ご飯美味しくて、優しくて、いい人ならいいよ~♪」
細かいことを気にせず、夕食を満喫するリリーを見て、ライラとルシールはこれ以上気にするのを止めて、久しぶりの学び舎でのご飯を味わうことにした。




