22:屈辱的な助け
概装天使と契約できなければ異端審問官養成学院に入学はできない。
ディアナはアダミエルから、この場で入学試験不合格を言い渡された訳だ。
「ちょっ、、、ちょっと待ちな、、冗談やめさないよぉ~・・・!!」
引きつった笑みを浮かべ、ディアナはアダミエルにフラフラと近づく。
『ここが冗談を言う場に思えますか?』
抑揚が全くないアダミエルの言葉が、ディアナの身体を芯から熱を霧散させる。
藁にも縋る気持ちでディアナはマリアへと駆け寄る。
「あっ、あなたからもなんか言ってやって!!わたくしが入学できないなんて、そんな・・・そんな・・・!!」
ディアナの必死な訴えかけに、マリアは目を閉じ、首を横に振るだけ。
「お父様に言いつけるわよッッッ!!!ここにいる連中全員タダじゃ済まないんだからッッッ!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「そんな脅しがわしに通用すると?」
「え・・・?え・・・?」
目の前のぐらつきが一気にひどくなって、ディアナは頭を抱えながら床に手を付く。
「わた、、、わたく、、、しは・・・。」
『この期に及んでも家の権威を傘に着るなんて。呆れるほど傲慢ですね?』
追い打ちをかけるアダミエルに、ディアナはとうとう耳を塞いでその場に倒れ込んでしまった。
「わたくしは・・・わたくしは・・・。」
塞いだはずの耳から聞こえてくる、家族の侮蔑の言葉。
❝入学すらできないなんて、出来損ないどころじゃないわね。❞
❝ミカエル家の面汚しが。❞
❝お前と家族なんて死んだ方がマシ。❞
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!!」
❝ディアナは、生まれてきたのが無駄だったんだな。❞
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
契約の儀の場に響く絶叫をし、ディアナは泣いて倒れたまま、焦点の合わない目で固まってしまった。
「不憫じゃな・・・。」
『もしかすると、この方がこの子も幸せかもしれませんね。』
「そう、かもな。ではこれで試験を終わろ・・・」
「あの~?ちょっといいですか?」
試験を終了しようとした時、リリーが手を上げて待ったをかけた。
「何じゃリリー?」
「いやぁ~そのぉ~・・・ディアナってそんないいトコないですかね~?」
ディアナから一番邪険な態度を取られていたリリーが助け船を出したことに、その場にいた全員が驚いた。
『あなたはそうは思わないのですか?』
「はい!もう~全っ然!!」
『どうしてですか?』
「だって自分の親を自慢するのって全然おかしいことじゃないですよ?ボクだってママのこと超大好きだし、きっと自慢しちゃうと思うんですよね~!」
『あなた、彼女に散々ひどい扱いを受けていたのに怒らないのですか?普通であれば見て見ぬフリをし、悪ければ清々するはずでしょう?』
「え?ボクなんかひどいことされました?」
素で聞いてくるリリーに、アダミエルは目を疑った。
『だってあなた、身分のことで下に見られていたじゃないですか?しかも魔女の子どもだと知られた途端人とは思ってくれなくて・・・。』
「ボクとディアナは同じ人ですよ?フツ~の、身体が肌色で血が赤い。」
『悔しくはなかったのですか?』
「悔しい!?いやいや!!なんでそうなるんですか!?おかしいとは思いましたね。なんで同じ人間なのに違うように接してくるんだろうって。怒らせるようなことしたワケでもなかったのに。」
『怒らないのですか?』
「怒る!?むしろ面白いって思いましたね!!同じ人間なのに丸っきり別物みたく見てくる。ってことは、ボクとディアナとの間には生き物としてではなく、また何か違うトコがあるってことですよ!!ボクはそれが何なのか知りたい!これだけでもディアナはボクにとって光るダイヤと一緒で、ピッカピカに光ってますッッッ!!!」
目をキラキラさせて訴えるリリーからは、ディアナへの悪意は微塵も感じられなかった。
「だからボクは、アダミエルさんがディアナを不合格にしたかちっとも分かりません。」
アダミエルはマリアに視線を移した。
マリアは「言っても分からないさ。」とでも言いたげに、苦笑いを浮かべた。
『目を覚まさせるには崖から突き落とすのも必要・・・か。』
「なんか言いました?」
『いいえ。魂を垣間見たからと言ってその者の心の在り様を断ずるのは早計かもしれませんね。リリー、あなたに免じてディアナに天使を授けましょう。』
「本当ですか!?」
『くれぐれも、彼女のことを頼みましたよ。』
「まっかせてください!!」
リリーは胸をポンと叩くと、ルンルン気分で戻っていった。
『ディアナ・ミカエル。』
在りもしない声に怯えるのを止めて、ディアナは横たえたままゆっくりと顔を上げた。
『先程の不合格は無効にします。お友達に感謝するのですね。』
アダミエルの結晶から、四つの光る玉が現れ、ディアナはその内の青白い玉を力無く掴んだ。
玉は眩く光り出し、丸刈りの目にくまがある痩せた少年に姿を変えた。
『おれ、レガリエル。傷返しの奇蹟の、概装天使。おまえに付いた傷、跳ね返すのが、役目。』
ボソボソと暗い口調で言うと、レガリエルは三本のかぎ爪が付いたハンドクローになってディアナの右手に収まった。
泣いた目をゴシゴシと拭って、ディアナはリリーのもとへと向かった。
「ディアナ良かったね!試験受かって・・・あいだ!?」
リリーと向かい合うや否や、ディアナは彼女を壁に押さえつけて、ハンドクローを眉間ギリギリまで近づけた。
「ジャンヌの娘に助けられるなんて・・・!!ミカエル家の人間としてこれほどの屈辱はないわ!!ここで・・・今すぐにでも殺してやりたい・・・!!!」
血走った目を向けるディアナの心には、ひとかけらの感謝もなかった。
あるのはリリーに対する、身勝手なまでの、怒り。
「ホントに殺したいならとっくにやってる。ママは狩りの時すぐやってたよ?」
荒い息を吐くディアナの頬を、リリーはゆっくり撫でた。
「ディアナは優しいね?もうボクと友達になってくれてる。」
微笑みながら撫でるリリーの手を、ディアナはバシッと跳ね除け去っていった。
「あっ、、あれは、、、ないよね。せっかく、、リリー、助けた、、のに。」
「面白いじゃん。あそこまで心と体が合ってないのを見るのは初めてだよ。」
「リリーったら・・・。」
どこまでもきれいに受け流すリリーに、アイリスは呆れつつも感心した。
「さて!これでみんな合格できたけど・・・。いや~面白い学校生活になりそうだ!森で知らなかったことが、いっぱい勉強できそうで♡♡♡」




