18:懐かしい気弱さ
リリーがサクァヌエルと契約したのを見届けたマリアは、残りの二人に視線を向けた。
ディアナはリリーに懐疑的な目を向けている。
「❝納得がいかん。❞と言いたげじゃな、ディアナ。」
「あっ、当たり前じゃない!!なんで魔女の娘なんかが異端審問官になれるのよ!?」
「リリーの異端審問官を目指す動機がアダミエルに刺さった。故に奴はリリーに天使を授けた・・・。ただそれだけのことよ。」
「そんな理由で納得できると思ってるの!?あのジャンヌの子どものことはお父様に言うからねっ!!」
「一向に構わぬ。元より教会に報告するつまりだったのでな。まぁ、概装天使と契約し奇蹟を授かったリリーに、入学の無効は出来ぬがな。」
「あっ、あんた・・・!!」
ここでディアナはマリアの思惑を知った。
アダミエルは太古の頃より天使の血を引いていない人間に奇蹟を与えていた、最古の概装天使。
教会内では神格化されており、誰もその決定に異を唱えることはできない。
マリアはそれを見越して、リリーのことをあえて契約の試練の後に報告するつもりだった。
リリーがアダミエルに認められ、概装天使が彼女に定着するのは半々であったが、事はマリアの思い通りに運んだ。
目の敵にしていたガブリエル家に出し抜かれたと知り、ディアナは苦虫を噛み潰したような形相でマリアを睨みつけた。
「さて、次は誰が挑戦する?」
敵意を向けるディアナを意に介さず、マリアは試験を進めようとした。
「あっ、、あの、、、いい、、ですか、、、?」
地べたにへたり込みながら、アイリスがゆっくり手を上げた。
「おっ、アイリスか。良いぞ。行ってこい。」
「はっ、はい、、、」
ゆっくりと腰を上げて立ち上がったアイリスは、アダミエルの結晶の前へと歩く。
「頑張ってアイリス!」
すれ違いざまに先に試練をクリアしたリリーが、両手でガッツポーズでアイリスを励ました。
それに対しアイリスは、申し訳なさそうな顔をして俯いた。
『アイリス・ロナウド。』
「はっ、、、はい、、、!!」
『緊張していますね?』
「で、、できるか、、、どうか、、、不安で、、、、」
『大丈夫ですよ。ロナウドの家の者を見るのは六人目ですから。あなたも先の家族と同じように選ばれるでしょう。』
「そ、、そうです、、か、、?」
『あなたは気弱ながら清らかな魂を持っていますから。』
まだ受かってないにも関わらず、合格が約束されたような気がして、アイリスの表情が少しだけ綻んだ。
『それにしても、その気弱な佇まい・・・。』
「えっ、、、!!あっ、あぅ、、、すみませ、、、」
『いえいえ。別に責めたりなどしていません。ただ懐かしさを感じただけです。』
「懐か、しさ、、?」
『ええ。あの時のアメリアと同じです。ですよねマリア?』
「ああ。そうじゃったな・・・。」
マリアは思いを馳せるような笑みを浮かべた。
「おっ、おばあちゃんを、、、知ってるの、、ですか、、、?」
『ええ。彼女があなたと同じ年の、可愛い子どもの頃から。マリアから聞きました。まずはお悔みを。』
アイリスは下を向き、涙を堪えた。
アイリスの祖母、アメリア・ロナウドは二カ月前に亡くなった。
104歳の大往生で、家族たちに看取られながらの穏やかな最期だった。
彼女はロナウド家における最初の異端審問官で、マリアに勝るとも劣らない実力の持ち主だった。
大のおばあちゃん子のアイリスにとってアメリアは、大きな目標となっていた。




