15:概装天使契約試験
筆記用具を買い、一行は昼前で賑わいを見せ始めた通りを歩いていた。
「いよいよ最後に必要な物・・・概装天使だね!!」
意気込みを見せるリリーと違って、アイリスは不安そうだった。
「はぁ・・・。大丈夫かなぁ・・・。」
「え、何が?」
「契約・・・。」
「ダイジョ~ブだって!だって学校で使うものでしょ?そぉ~んなに固くなんなくったっていいって!!」
「でもねぇ~?」
「もし契約できなかったから学校に入れないからねぇ~。」
「も~二人とも!!アイリスならともかくボクを騙そうたってそうはいかないよぉ~?」
ライラとルシールだけならまだ良かったのだが、マリアまで神妙な面持ちを見せる。
「せんせい?まっ、まさか・・・!?」
「いや。その、まさかじゃ・・・。」
◇◇◇
「できなかったら学校入れないって聞いてないよせんせい!!」
寝耳に水な事実を聞かせられ、リリーはマリアに抗議した。
「そっ、そう怒るなリリー。本当に万が一じゃ万が一。装飾品を身に付けた状態で嵐を歩き、雷に打たれるほどの低確率じゃ。」
「ギリあり得ることじゃん!!!」
「あん~・・・。」
不安を払拭しようとしたつもりが、逆効果に終わってしまったことにマリアは焦ってそっぽを向く。
そんな彼らが今立っているのは、とある神殿の前。
石柱には花の彫刻が施され、隙間からはバロック調のような天使像が並んでいるのが見えるが、まだ昼前だというのに薄暗く、松明が灯っている。
「とっ、とにかく入ろうぞ!モノは試しだ!!」
「なんかボクまでドキドキしてきた。不安ってうつるんだ・・・。」
大きくなった心臓の鼓動を確かに感じ、リリーは他の皆と一緒に神殿の中へと入った。
松明で微かにオレンジにライトアップされた天使像は美を漂わせているが、どこか恐ろし気にさせる。
奥へと進むと、白い灯りが左右にかかった石の扉がある。
どうやらここが、試験会場のようだ。
「あっ。」
ボレアリスとディアナ父娘が先に着いていた。
互いに目が合うと、リリーはディアナに駆け寄った。
「よっ!ディアナも今から試験なんだ?ドキドキするよね~。」
ディアナはリリーを一瞥すると無視した。
あからさまな邪険な態度だ。
「あり?」
不況を買ったと思っていないリリーが首をかしげる。
「こんにちは。異端審問官の卵たち。」
礼装に身を包んだ物腰穏やかな老人が歩いてきた。
「私はこの神殿の司祭を務めておりますサリマン・ザドキエルでございます。本日は概装天使契約の儀にお越し下さり、ありがとうございます。」
丁寧に頭を下げるサリマンに、ディアナ以外の少女が謙遜した態度でお辞儀をした。
「どっ、どうも。」
「きょっ、今日は、よろしくお願い、します・・・!!」
「フフッ。そう固くならなくても大丈夫ですよ。」
サリマンの声は、思わず眠気を覚えるほどに落ち着いていた。
「あっ、あの・・・これダメだったら入学できないってマジですか!?」
「確かに過去にそうような例もありましたね。」
本当に入学できないことがあるのだと知ったリリーは、口を開けて固まった。
「ですが理由はどうであれ、真に異端審問官を志すのであれば、天使たちは必ず応えて下さるでしょう。」
「はっ、はぁ・・・。」
「サリマン。」
「はいマリア?」
「此度の儀についてはわしも同席してもよいか?特別な子が、おるのでな。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ええ。かまいませんよ。」
マリアの申し出を、サリマンはニコッと笑みを浮かべて了承した。
「では皆様、中へ。」
いよいよ試験が始まる。
「では行ってきます。お父様。」
「お前なら、いい天使を引き当てるだろう。」
「アイリス~!!落ちてもヘコむなよ~!?」
「泣きたいなら今日は一緒に寝てあげるから~。」
「もぅ・・・おねえちゃん達ったらぁ・・・。」
リリー以外は保護者に手厚く送り出され、マリアと三人の七歳の少女たちは、天使と契約を結ぶ部屋へと入っていった。
扉が閉まり、中は静寂な闇だった。
「あっ、あれ?」
辺りを見回し始めたその直後、眩しい白い光ととも、部屋の中が照らし出された。
「きっ、きゃっ・・・!?」
「ウソ、でしょ・・・?」
アイリスは尻餅を付き、ディアナは驚愕して言葉を失った。
部屋はドーム状に壮大に広がっており、天井に所狭しと白い結晶が並び、それが岩肌の壁や地面を純白に照らしている。
そして自分達の前には、巨大な白い結晶が浮かんでいる。
「こりゃ~・・・ぶったまげたねぇ・・・!」
リリーが一歩前に出た瞬間、結晶が光り出した。
『よく来ました。異端審問官を志す少女たちよ。』
結晶が点滅し、男だか女だか分からない機会的な声が部屋中に響き渡る。
『私は概装天使を生み出す存在、アダミエルです。本日あなた達の試験を監督します。』
「よろしくお願いします!!」
リリーが大きな声で返事をすると、アダミエルから試験の内容が語られた。
『これから私とあなた達で問答を行ないます。私を見事納得させられたら、異端審問官の武器であり魔女と戦う心強い友、概装天使をそれぞれにお配りします。』
「それだけ?」
あっさりした試験内容に、リリーは少し拍子抜けだった。
『意外でしたか?こう見えて私はくせ者ですよ?はてさて、唸らすことができますかな?』
「質問ゲームならボク結構得意だよ?何が来ても、多分大丈夫!」
『そうでしたか・・・。ではまず、あなたから行きましょう。ある意味この試験に、最も相応しくない者ですからね。』
「おう?」
アダミエルの発言に、マリアだけが顔を強張らせた。
『魔女の王・ジャンヌの娘。あなたが何故、異端審問官になろうとするのか、私は是非知りたい。』




