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魔女の子、異端審問官になる。  作者: 朔月理音(サツキコトネ)
第2章:異端審問官の学び舎
11/77

11:素晴らしきかな大都会

 窓から差し込む陽の光を眩しく感じ、マリアはゆっくり目を開けた。


 車窓に流れる景色は夜の田園風景から朝焼けのレンガ造りのビル群に変わっていた。


「おお・・・もう着いたのかの・・・。」


 終点の駅までもうすぐだと知って、マリアはリクライニングを起こす。


 と、今更になって気付いたのだが向かい合わせで座っていたリリーが窓の淵に手を付いて景色を眺めている。


 一見すると微笑ましい光景のように思えるが、マリアは困惑した。


 ()()()()()()姿()()()()()()()()()のだ。


 つまり一晩中寝ずに、窓の外を眺めていたということになる。


 リリーの笑顔はキラキラしているように見えて、目の下には濃い()()ができあがっており、半開きになった口から涎が垂れている。


「ぅおいリリー・・・ちょっと・・・。」


 めちゃくちゃ心配になったマリアが話しかけた直後、電車は駅に到着した。


 荷物をまとめてリリーとマリアは下車した。


「んっん~!!ったは~!!いや~列車ってすごいですね~!!景色をビュンビュン追い越しってって~!!ボク一晩中見ちゃいましたよ~!」


「さっ、さよか・・・。まぁずっと山育ちだったお前さんには、とても物珍しい代物だったじゃろう。」


「ねぇせんせい!」


「どうした?」


「すっごく気持ち悪いんでトイレ付いてってもりゃっていいれすか♪」


 笑顔で聞くリリーの目は焦点が合っておらず顔面蒼白。


 口からだらぁ~っとヨダレを垂らしていた。





 ◇◇◇





「大丈夫か?」


「ヴォエぇ・・・あい゛・・・。」


 駅のトイレでひとしきり出すもの出して、リリーはすっきりした。


 初めての列車旅行、寝不足、乗り物酔い。


 その三つがまともに襲い掛かって昨夜家で食べた夕ご飯と誕生日ケーキを全部便器にぶちまけてしまった。


「寝ればよいものを。なしてそう無理をするのかぇ~?」


「だって、初めて見るもんばっかで、めっちゃワクワクしたんですよぅ~・・・。」


「あれくらいで興奮しているようでは、身が持たんぞこの先。」


「なっ、なんでですか?」


 マリアに手を引かれて駅から出た瞬間、リリーはその言葉の意味が分かった。


 建ち並ぶレンガ造りの建物。


 薪で動く車。


 そして行き交う、見たことのないおしゃれな服を着た人々。


 駅から出た瞬間に、リリーの活力は一気に戻った。


「ここが❝ウィクトリア王国・中央王都エンデ❞じゃ。」


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「すっ・・・すっご~いッッッ!!!」


 元気爆発状態になったリリーは、マリアの傍を離れ駆け出していった。


「せんせいあの箱みたいな乗り物なんですか!?何で動いてるんですか!?付いてる筒から煙が出てるってことは火魔法ですか!?あんなおっきな家どうやって建てたんですか!?なんか四角い茶色い石が積み重なってるってことは土魔法ですか!?めちゃくちゃキレ~イに立ってますね!!あっ!あそこに服屋さんありますよ!!あんな細かい織物ママですらも作ったことないですよ!!ぅわ~い!!バチやばぁ~!!!」


 街中を子犬のように駆け回ろうとするリリーを、マリアは急いで捕まえた。


「これこれそうはしゃぐな!街中周るつもりか!?」


 マリアに制されてリリーは落ち着きを取り戻す。


「おっと!いけねいけね。危なくボクの好奇心が暴れるトコだったぜぃ~。」


「いや十分暴れておったと思うが?」


「はぁ・・・。」と疲れ切ったため息をし、マリアはリリーの手を繋いで歩き出した。


「子守りというものは骨が折れるのぅ~。ジャンヌは如何にかような子ネズミを御していたのじゃ?」


「物心ついた時はママもせんせいみたいに困ってましたよ?でもなんか急にニコニコして合わせてくれてました!」


 ❝解脱の境地に至ったのではないか?❞


 そうマリアは言いかけたがそっと止めた。


「まぁ~なんにせよ、今日はやることがたくさんある。まずは朝げじゃ。済んだら必要品を買わなくてはの。」


「必要品?なにを?どこで?」


「すぐに分かることじゃわい。」


 マリアはリリーを連れ裏路地へ入った。


 建物で囲われた階段は、蹴上が低いながらもジグザグで、結構長めに思える。


 それを下りながら、マリアとリリーは先を進んだ。


「せんせい、これどこに?」


異端審問官(わしら)御用達の場所じゃ。」


 やがてアーチ状の石の門が見えて、そこから光が漏れていた。


「着いたぞ。❝テカーノヴァ街❞じゃ。」


 マリアがリリーを連れて来たのは、白を基調とした建物が並ぶ、()()という言葉が相応しい街だった。

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