10:母をたずねて旅立て幼子
「そうか、ジャンヌと・・・。」
目を覚ましたリリーは夢の中?であったことを話した。
「それで、お主はどうしたいのじゃ?」
「と~ぜんママを追いかけますよ!!最後の誕生日プレゼントとか一緒にいない方がいいとか言われても全ッ然良くないですから!!追いついたボクを見せて、わ!?!?って驚いてくれなきゃ!」
パン!!っと右手に左手の拳をぶつけて意気込むリリーだったが、マリアは「う~ん・・・。」と首を捻った。
「お前さんの意思は固い。それは重々分かっておる。じゃが血が繋がっておるとはいえ、一介の子供が魔女の王・ジャンヌに辿り着けるとは思えんなぁ~・・・。」
「やってみないと分からないじゃないですか?」
「そうは言うても、わしらも奴の居所を知るのに100年以上はかかったのじゃぞ?ジャンヌの手がかり、それこそ目撃証言一つ見つける頃には、お前さんはベッドで見罷られる寸前やもしれん。」
「みまかられる?」
「天国に行くという意味じゃ。」
「そっ、そんなかかるの?バチヤバだぁ~・・・。」
途方もない時間がかかると知ったリリーは露骨に地面に手を付いて落ち込んだ。
ちょっと気の毒に思ったマリアは、眉間をポリポリかいてある提案をした。
「リリー、お前さん・・・異端審問官にならないかの?」
「ふぇ!?!?」
唐突な提案に、リリーは四つん這いで顔だけガバっと起こした。
「異端審問官になれば否応なしに魔女と関わることになる。さすれば見罷られる前から立って歩ける内にジャンヌの手がかりを見つけ、辿り着けるやもしれん。」
「ほっ、ホントですか・・・!?!?」
「断言はできぬが・・・今はそれが最善じゃろうて。」
生きている間にジャンヌに会えるかもしれないチャンスに、リリーは飛びつこうとしたが、急に勢い冷めてしまった。
「どうした?急に黙ったりしおって。」
「ボクなんかが、なれますか?異端審問官に。第一どうやってなるんですか?」
「それを案じておったのか。安心なされ。異端審問官になるための学び舎に入れてあげよう。」
「学び舎?学校ってことですか!?」
「おお。実はわしはそこの学長をしておってな。ちょうど今年度の新入生にひとつ空きがある。じゃが、年がのう・・・。」
「年?」
「お前さん、いくつになる?」
「7歳です。今日が誕生日でした!」
リリーの年齢を聞いて、マリアは快活に笑った。
「ほっほっほっ!!これは実に妙なめぐり合わせ!入学できるのは7歳からじゃ。お前さんは運がよい。」
「じゃあ・・・入学できるんですか!?!?」
「ああ。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「う~~~!!やったぁ~!!!」
異端審問官になるための学校に入れると分かった途端、リリーは喜びを爆発させた。
「じゃが喜んでばかりではおれんぞ?」
「はい?」
「入学した時点で、お前さんは見習い異端審問官になる。勉学に励む傍ら、わしのような現役の異端審問官に同行し、その身で魔女と戦う術を習うこともある。」
マリアはしゃがみ、リリーにゆっくり迫った。
「全ての魔女がお前さんの母のように寛大ではない。命の保障は出来かねん。それでも良いか?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「怖がってちゃママに付いてけないです。❝やってみろ。❞って言われたからには、一生懸命やんないと。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「フッ。そうか・・・。なら、わしにも見せてくれんか?お前さんの頑固さを。」
「ええ!!退屈はさせませんよ♪」
◇◇◇
マリアの落雷で燃えた家から、僅かに残った荷物をリュックに入れて、リリーは出発の準備をした。
「準備できました!マリアさ・・・せんせい!」
「結構結構。じゃあ、行くかの?」
「はい!」
マリアの後ろを付いて行くリリー。
視線を感じて、後ろを振り返るとダイツノヤギの群れを中心に、多くの動物がこちらを見ていた。
「あれは?」
「ボクの友達です。」
どの動物も見るだけで動かなかったが、ダイツノヤギの群れから若いオスが一頭躍り出てリリーに向かって鳴いた。
「うん!!留守は任せたぞ!!皆の者!」
動物たちに大きく手を振って、リリーはマリアの傍に戻った。
「何か言っておったのか?」
「❝寄り道しないで早く帰ってこい。❞って。」
「そうかそうか。早く帰って森を直し、楽させてやらんとな。」
「はい!それが連れて帰ったママとやる、最初の仕事ですね!」
必ずジャンヌと帰る。
リリーにとってそれは決意以上に、既に予定として組み込まれていたものだった。
こうして森から一歩も出たことのない魔女の王の娘は、その母である魔女の王に再び会うべく、初めて森の外の世界に踏み出したのだった。
第1章 魔女の王と娘
ー完ー




