1506年 お値段以上の寝具
「これが未来の寝具か……純白かつ絹のような肌触り……」
まず敷き布団コーナーに向かうと早速松寿丸様がサンプルの寝具を触っていた。
「寝具にも質が色々ありますが、予算があるので高くても大丈夫ですよ」
「ほほう! そうなのか! これとこれの違いはなんじゃ」
「弾力と保温性能が違うようです。こちらの方が質が高いんですよ」
「なるほど……品の下にある札は値札か? 数が読めんが……これはどういう意味じゃ?」
「西洋から数字が渡ってきて漢字の数字ではなく、 アラビア数字というのが世界で統一の数字になっているのですよ。まずは国語からになりますが、未来の文字が読めるようになったら数字も教えますので安心してください」
「ほぉ! それは楽しみなのじゃ!」
「寝具コーナーに来ていてあれですが、未来では寝具にはマットレス、敷き布団、毛布、掛け布団、枕が一般家庭が用いる寝具になります」
「まっとれす? とはなんだ?」
「簡単に言うと八重畳に当たる部分になり、掛け布団の下に敷く事で硬い床から体を守る役割があります。硬い床で寝ないので体への負荷が減り、気持ちよく眠ることができるのですよ」
「ほう、まっとれすは三つ折りにできるのじゃな」
「はい、その方が収納しやすいので」
「なるほどのぉ……まっとれすの次は敷き布団とやらか……これは分厚いのから薄いのまで色々あるのぉ。でも全て白色なのじゃな」
「基本布団は白色で、高価な物だと別の色もありますが一般家庭だと白のほうが安いのですよ」
「そうなのか……おお、ふかふかじゃな」
「床からの寒さを守るの敷き布団で、戦国時代には無い物になります。あるとしても大陸との貿易で木綿が手に入れられる大内氏くらいでしょう」
「木綿とやらを使えば布団が作れるのか?」
「はい、木綿は布の素材になり、中に綿を詰めれば布団として機能することにも繋がります」
「ほうほう……なるほどのぉ。木綿の種とかは未来でも手に入れられるのか?」
「はい、家庭でも育てられるようにした物が売られています」
「なるほどのぉ! 八重畳も良いが、布団があれば寒さを防げるとなれば領民も凍えることが減るじゃろうて」
「そうです! 流石松寿丸様! 領民の事を考えておられるのですね!」
「毛利家の家訓で領民あっての毛利家と代々言われておる! ワシがそれを破る事はせん!」
「流石です!」
「毛布とはこれか? おお、触り心地は良いし、暖かいのぉ」
「高級品では無いですけど重いほど保温性が高く、薄いほど重ねがけを意図します。薄い毛布は夏前や秋等の比較的暖かい時に掛ける物で、重い毛布は冬の寒さを防ぐのに使われます」
「ならこれを買おうかのぉ! 毛利家に縁のある緑色じゃて」
「では志道様は色違いのこちらにしますか?」
「そうじゃな。あと杉殿の分も一式買えるか?」
「はい、お金ありますので大丈夫ですよ」
「そうかそうか!」
「では掛け布団も選びましょうか」
「ほぉ……掛け布団とやらはふわふわしているのじゃな」
「中に羽毛……水鳥の羽が入っていますので」
「そうなのか!? 水鳥の羽を入れると軽い布団になるのじゃな……うーむ不思議じゃ」
「せっかく家具屋に来ましたし、他の物も見ていきますか?」
「そうじゃな!」
松寿丸様と歩きながら他のコーナーを見ていく。
「これは暗幕か?」
「はい、カーテンと言っても日光を遮るのに使われます」
「日光を遮ってしまうと暗いのではないか?」
「未来の家では光を放つ光源が幾つもあるので、遮らないと近所も眩しくて眠るのを阻害してしまうことがあるのですよ。他の家への配慮です」
「なるほどのぉ……」
続いてテーブルや椅子が置かれている場所に移動する。
「彩乃の家にもあったが、机と椅子じゃな。座椅子ではなく中腰で座る椅子が多く感じるが」
「外国の文化が流入した結果、机も大型化したのです。そして地面から離れて食べるのが一般的になり、椅子にも脚が付き、背丈の高い椅子と机が増えたのですよ。あと未来だとその姿勢で生活するのが普通になり、正座する機会も減りましたよ」
「ほう……そうなのか……ん? これはなんじゃ? 布団には小さいが」
「座布団やクッションと言われる尻の下に敷いて座っていると足が冷えたり、尻が痛くなったりするのを軽減する品になります。せっかくですし座椅子と一緒に座布団も買っていきますか?」
「そうじゃな。勉強する時に背もたれのある座椅子と長く座るから布団があったほうが助かるのじゃ」
「これは棚か? 隨分と立派じゃな……」
「そうですね。これに服を締まったり、大切な物や書類を入れたりするのですよ」
「ほほう……むむ、棚は棚でも隨分と簡素な物もあるのじゃな」
「これはカラーボックスですね。主に本を仕舞う場所で、本を入れておけば直ぐに取ることができるので」
「なるほどのぉ……確かに教科書は巻物ではなく中華の書物の様な作りをしておったからな」
「カラーボックスの良い点は書物の他にも色々な物が置けるのと他の棚よりも安いのが良い点になります。まぁ未来ではこれが重宝される理由はこの箱に収まる物が増えている点ですが」
「簞笥では無くこれが良い点がいまいち分からないのじゃが」
「いや、未来では簞笥よりもこちらの方が色々仕舞いやすい……縦置きの物が増えたのですが、戦国の世だと簞笥の方が良かったりしますが」
「ふむ……時代によって向き不向きがあるのじゃな」
「はい、巻物を仕舞うのならカラーボックスは収納に向きませんからね」
「なるほどのぉ……」
「ほおお!? 乳白色の食器がこ、こんなに沢山売られているのか?」
「はい、大量生産されるようになり、値段が凄く下がったのですよ。それこそ10文(約100円)で1皿買えるくらい値段が下がっていますよ」
「うむむ! これほど白く綺麗な皿であればワシの生きる世であれば家宝になるぞ!」
「実は松寿丸様が大きくなった頃に戦国の世では茶器の大流行が始まるのですよね。茶器1つで城と同じ恩賞になるくらい茶器の価値が跳ね上がります」
「ほう……田舎者のワシらには考えられん変化じゃな」
「大内氏も茶器を大陸から集めて、その茶器の一部が京に流れ……特上の物だと1万貫以上の値が付いたとか」
「な、なんと!? そんなにか! ……となると未来で良い皿を買って売れば……」
「それなりに金になるんじゃないでしょうか……商人との縁があればになりますが」
「うむむ……難しいのぉ」
「まぁ今買うと悪目立ちするかもしれませんよ」
「それもそうじゃな。今回は寝具だけにしておこう」
私は一度松寿丸様を戦国の世に戻して、松寿丸様が選んだ寝具を買っていく。
ちなみに枕もちゃんと選んである。
購入して松寿丸様の部屋に寝具が並べられると、早速一式敷いてみて布団の上にダイブする。
「ほわぁぁぁ!? 何という寝心地……何という肌触り……この世の物とは思えぬ格別の品じゃ」
「量があるので杉殿の部屋に今持っていきましょう。暗闇で普段よりは目立たないと思いますし」
「それもそうじゃな! よし運ぼう!」
杉殿の部屋に運び、杉殿に松寿丸様から贈り物で寝具を渡すと、杉殿も寝心地に感動。
極楽の品だと言い、特に枕が合わずに困っていたところを未来のふわっとした枕で寝ると肩こりが無くなったと喜んでいた。
数日後に志道様も松寿丸様の部屋で寝心地を体験したが、睡魔に抗えずに仮眠のはずが爆睡してしまい、松寿丸様と私はゲラゲラ笑うのであった。




