1533年 矢の教え
北九州の反乱を鎮圧した1533年の11月、皆が吉田郡山城に集まって会食をしていた。
「母上、私が九州に行っている間に子供を3人も産んだんですか……」
「えへへこれで16人目〜」
「産み過ぎですよ……よく体壊しませんね」
「神様から加護をもらっているからね! 問題なしなし!」
「でももう37歳(数え年)なのですから程々に」
「はいはーい」
房元が彩乃と話しているが、横ではゲッソリしている盛就を他の兄弟達が大丈夫かと心配していた。
「盛就兄貴大丈夫か? すっげぇやつれてるなぁ」
「鳥光がやっていた仕事までやることになって毎日12時間以上働いていたからな……疲れが抜けん」
「帰るときに吉川の温泉郷に浸かってけよ。多少は楽になると思うぞ」
「あぁそうする」
「すみません盛就兄様、僕が抜けてしまって」
「いや、まぁ仕方がなかった事だ。大内義隆様に小早川の当主交代を伝えるためや小早川の当主として家臣団を統率するために武勇を見せる必要があったからな。鳥光はよくやった」
「そうだぞ鳥光、歴史は違えどこれで吉川と小早川の毛利両川体制が確立だぞ!」
「そうなると史実の父様が言った矢本数が凄いことになりそうですね」
「あれは創作だぞ! でも親父、ネタになるからやってみてくれよ」
吉川興経が元就に話題を振る。
鍋を突っついていた元就が呼ばれ、いきなり矢を渡される。
「えっとなに三本の矢の演目をやればよいのか?」
ぞろぞろと他の子達も元就のところに集まる。
「じゃあやるのじゃ。コホン。まずお主達子供達を矢とする」
「1本じゃと簡単に折れてしまうが、2本、3本と纏まるとなかなか折れない。これが30、40本と集まればどうなるか……絶対に折れない……ほれ一郎持ってみよ」
一郎と呼ばれた怜の長男(10歳)は元就から矢の束を渡されると重さで潰れてしまった。
「この様に重さで敵を押し潰すこも出来る。つまり兄弟姉妹の力を団結すれば、強大な敵の攻撃を耐える……いや潰す事が繋がるのじゃ」
一郎からヒョイッと矢束をどけて元就は一郎を助け
「こんなんでどうじゃ?」
「いやそこは1本も折れるが3本、5本も容易に折れる。元就に勝つことなぞ子供のおぬしらにはできんわ! くらい言ってほしかったな〜」
「ワシは話し手でも何でも無いのじゃぞ。そう言う龍丸は何かあるのじゃろ?」
と茶々を入れてきた龍丸に元就はぶん投げる。
「えーでは1本の矢では簡単に……ふーふー! 折れねーぞこれ! 父上、何でこんな矢を簡単に折ってやがる……バケモノか!」
ゲラゲラと皆笑い始める。
「非力な私では折れませんでしたが、父上は折れるので皆何かあれば父上や折れる人に頼りましょう。じゃあ折れなかった人はどうするか」
龍丸は矢束から矢を取り出していきそれを組み立てて即席の椅子にしてしまう。
「よっこいしょっと。非力で足の悪い私でも出来ることはある。皆それぞれの個性を生かして毛利家を盛り立てましょう」
そう言うと拍手が巻き起こった。
「ワシを出汁に使おって……」
「良いじゃないですか盛り上がったんですから」
そのまま龍丸が語り手になり即興の面白い話を始めたので元就はまた鍋の方に戻った。
「興元兄上にも見せたかったですねこの光景を」
横に座っていた相合元綱が元就に声をかける。
相合元綱の子供達も龍丸の話を聞いてやいのやいのと騒いでいた。
「兄上には悪いが、兄上ではここまで毛利を拡大させることは難しかったじゃろうなぁ……」
「まぁ兄上は分家になるはずでしたからね。それが今じゃ毛利家の主柱ですし」
「よく言うわ、ワシも支柱じゃよ。今は房元が纏め役を十分にやれておる」
「まぁそうですね……あぁ良いなぁ兄上は30半ばで引退できて……家の子が立派になるまであと10年はかかりますよ」
「良いじゃろうて引退出来るんじゃから……史実のワシは死ぬまで働かされていたんじゃからな」
「彩乃義姉さんが言う史実ですか……昔と未来行き来してますがどれほど未来は変わりましたか」
「ふむ……ちょっと待っておれ」
元就は書庫に移動して本を数冊持ってきて元綱の前に並べた。
「これは?」
「5年毎に彩乃が購入している同じシリーズの未来の歴史書じゃよ。どれも戦国時代までは一緒……そこから未来がどんどん変わっておる」
ペラペラと元綱が呼んでいるが最終的に織田幕府か徳川幕府に繋がっていた。
一番最初……本当の史実では大内義隆は大寧寺の変で亡くなり西日本を毛利が纏めるが、中央に侵出する頃には織田家とぶつかってしまいジリジリ押し負けて、本能寺の変で信長亡き後は秀吉に従い、関ヶ原で敗北し、長門、周防2カ国で落ち着くのが正史である。
「これが変わった未来じゃ」
そこには大内義隆による上洛と三好政権との全面戦争が書かれていた。
「畿内最大勢力の三好家と西日本最大の勢力大内との全面戦争じゃよ……これの動き次第で天下は大きく揺れ動く。ワシとしては大内義隆様が勝ってもらった方が利が大きいが……」
「全面戦争により疲弊した西国の大名達は東から急成長した織田家に潰される……ですか」
「まぁ未来は幾らでも変わるし、この歴史書だと毛利家は安芸を没収され伊予、土佐2国に所領が変わっておる。逆にこっちの歴史書だと」
元就は別の時間軸の歴史書を元綱に投げた。
「これは……」
「日ノ本が天下統一出来ずに主権を喪失し、海外の植民地となった世界じゃ。この歴史だと明治維新が独立戦争に変わっているんじゃがな」
「毛利はどの様に動けばよいのですか?」
「その時に最良……いや、後を含めても最善と思われる動きをするしか無かろう。現状一番可能性が高い未来は大内と三好の全面戦争じゃ。毛利も駆り出されるのじゃが……中央は魔境じゃ。西国の覇者であった大内義興様でも制御が最後まで不可能だった……そんな場所じゃ」
「幕府と完全に敵対しているのが痛いですね」
「仕方がなかろうて、幕府はもう機能不全を起こしている。力無ければ滅ぼされる末法の世じゃ。それ故に頼れるのは血縁と譜代の家臣になる」
「兄上は譜代を蔑ろにしていると口々に言われてますが?」
「いらん物は削るが、必要な者は選別しておる。重臣の決起文を書いてもらった人物達は今後毛利に重要な働きをしてもらう者ばかりじゃ。広がった領土の城代をしてもらわねばならぬし、外交的にも色々ある」
「まぁガス抜きを頼みますよ。家臣統制の失敗で毛利崩壊は見たくないですからね」
「分かっておる。ただ大内配下である以上分国法ができないのじゃ。家内法度くらいに抑えないと独立と思われれば大変な事になる。大内が倒れたら毛利も倒れてしまい、喜ぶのは尼子だけじゃからな」
「房元の器量次第ですか」
「まぁ房元なら大丈夫じゃろう。今は国内を整えるのが先決じゃて」




