1526年 小谷銀山
1526年となり、彩乃は11人目となる女の子を出産。
名前を柚とし、怜も男の子を出産。
勝春と名付けられ元気に育つことになる。
また房元の奥さんになった梓も出産し、新太郎(将来の名前は文元)と名付けられ、元気な男の子……いや、エロガキとして成長していく事になる。
この年は大きな戦は起こらずに毛利家は平穏な日常を過ごす事が出来たが……
「彩乃様! この本の続刊を買ってください! 私に新しい知識を!」
「煩いのじゃ(角隈)石宗! 彩乃はワシと将棋をやっておる! それにお主には四部合戦状の諸本を買い揃えたばかりじゃろうて!」
四部合戦状とは平家物語、保元物語、平治物語、承久記の4つの物語を書き記した物で、それと平安末期から承久の乱までの歴史書を買い与え、元就の命令で分析をさせていた。
「それならもう終わりましたよ。あれだけ資料があれば直ぐに終わります」
「ほほぅ、言うでは無いか!」
「あの程度この石宗にかかれば、どうって事ありません!」
事実角隈石宗は直ぐに現代語に慣れ、様々な書物と寺社等に保管されている源平合戦の書物を編纂し、だいぶ精度の高い歴史書が完成していた。
これを1年という短期間でやってのけたのは素直に賞賛に値する。
「彩乃悪いのぉ自称軍師擬きの若者が」
「ちゃんと軍師やってるので良いではありませんか!」
「ワシの作戦を見破ってからにせよ……そうじゃお主が将棋を指すのじゃ。この毛利元就の偉大さを分からせてやるのじゃ」
「望むところです! 主君といえども容赦しませんぞ!」
角隈石宗はすっかり元就の信頼を勝ち取り、普段は彩乃が持って来る大量の書物を書き写したり整理する司書の仕事をし、空いた時間は学び舎で軍記物の勉強を子供達に教え、夕方から夜にかけて元就と将棋を指したり、彩乃に本をせびったりして過ごしていた。
「まーたやってるよ石宗と父上……好きだねぇ本当に」
「好きではない!」
「ええ! 本当に!」
「房元どうした? 梓とイチャつき過ぎて布団駄目にした?」
「そ、そんな事無いですよ母上、なにニヤニヤしてるんだそこの親父達! 石宗お前も俺とほぼ年齢変わらないだろうが!」
「はいはい、で、要件は?」
「ずっと父上と母上が探していた毛利領内での銀山が遂に見つかった」
「おお! 真か」
「本当本当、地頭所城……毛利家最北の城から南の小谷の村から銀鉱脈が発見された。火薬を用いた爆発による採掘で生産量を上げようと思う」
「なら爆薬を使うと良いのじゃ。ダイナマイトと言う爆薬を今実験しておる。それが実用化したらダイナマイトを使う方が採掘量は上がるし、鉱山採掘は様々な技術の集大成足りうる。生産性を上げる実験に予算を割くのじゃ」
「わかりました父上、石宗鉱山に関する書籍を集めてくれ」
「わかりました」
「それと大内義興様が更に巨大銀山である大森銀山を発見したという報告も入っています。本当に年間60トン以上の銀が産出されるのですか?」
「するよ〜、世界の3分の1が日本の銀だった事があるけど、日本で採掘される銀が約100トン、そのうちの60トンが大森銀山で採掘される……まぁ未来だと過去の事になっているけどね」
彩乃の言葉に房元は頷きつつ
「明との貿易でも銀は大きな商品になりますし、博多では銀の取引も盛ん……大森銀山の10分の1でも小谷の銀山から採掘できれば万々歳でしょう」
と言い切る。
元就は更に踏み込んで
「銀決算が出来るのは大きいのじゃ。聞くところによると明も日ノ本に銭の流出が多くなっていることが問題視されているらしい……日ノ本独自の通貨を発行しなければいけない日も近づいているかもしれんのぉ」
と言っていた。
事実現在明が発行している明銭より昔の宋銭の方が価値が高くなる現象が発生しており、明側と貿易する時にトラブルが過去には発生していた。
というのも宋銭は青銅製に対して明銭は真鍮製が使われ、青銅の宋銭の方が価値が高いと京や堺等では宋銭での取引が求められていた。
また明の銭の生産能力よりも周辺諸国が銭を求め過ぎて深刻なデフレが発生しており、より銭を作るために銀や銅を求めて各国との貿易取引を活性化させていた。
まぁこのデフレは明崩壊まで続く事になり、明経済に致命傷足りうる毒であったが、巨大な帝国である明を周辺諸国程度の銅や銀の採掘量でカバー出来るはずも無く……という感じである。
中華帝国が紀元前から活動していた為に鉱山の枯渇というのも出ていたが……。(これを解決するには満州地域で採掘するしか無いが、その満州地域は満州民族が生活しており、明と度々敵対していた)
まぁ銭を生産するには朝廷から強い後押しを受けるか、天下統一をするしか無い。
史実でも銭を生産再開させたのは豊臣秀吉で、銭を民衆に行き渡らせたのが徳川幕府である。
しかも大内義隆が大寧寺の変で殺されてからは勘合貿易は停止なので銭が全然日ノ本に入って来なくなり、私造の銭が大量に出回る事に繋がり、銭の信用が低下して米本位制……石高と呼ばれる米が銭の代わりに活用されるようになるのである。
大内家がこのまま成長するなら良し、大内家がコケても毛利家領内で経済を回すことができなければはならなかった。
「なかなか経済は難しい」
「完璧に理解できる人なんか居ないよ。神の手とも言われているし……でも銀がある程度確保できれば銀手形の発行が出来るんじゃないの」
銀手形……紙幣の代わりの物で、額面分の銀と交換出来ますよという物。
信用取引の初歩的な役割になるが、これは担保となる銀が必要なので今までは出来ていなかった。
「まぁ頑張るのじゃ房元、当主はお主じゃ」
「父上は若いんだから私をもっと支えてくださいよ」
「泣き言を言ってないで仕事じゃ仕事」
「クソ親父め……」
そう言って房元は立ち去っていった。
石宗も書類を纏めるのでと立ち去り、結局元就と彩乃2人だけになる。
「もう少し房元に優しくしたら?」
「これでも優しくしている方じゃ。ワシが出るよりも房元に権力を集中せんとな」
「ふふ、じゃあまた未来に行きます? スーパー銭湯でも行きますか?」
「良いのぉ……気軽に風呂に入れる場所を作りたいのぉ」
「もう少し領内を安定化させないと難しいですよね」
「そうじゃのぉ……はぁ、やれやれ、ワシも動かんと駄目じゃなこりゃ」
「ご褒美あるので頑張りましょう」




