1522年 1523年 カレー 愛姫と一郎誕生
まぁ引きこもっていちゃいちゃしていたお陰で彩乃も怜も無事に懐妊。
彩乃は1522年中の出産、怜はその翌年の出産になりそうである。
「これで9人目〜」
彩乃はまだ25歳なのでまだまだ産む気満々である。
怜も23歳……次こそは男児をと願っていた。
ちなみにこの年には相合元綱の長男も誕生し、順調に毛利家の血族が増えているのであった。
お腹をぽっこり膨らませながら彩乃は仕事をする。
普通奥方は政務には関わる事は無いのであるが、毛利家では彩乃が元就の次に決済の権限が強くなっていたし、それに不満が出る家臣達も居ないほど彩乃の能力は突出していた。
特に兵の給料計算は徹底しており、彩乃1人で現在の3000人の常備兵の給料を管理していた。
「(渡辺)通、ここ間違ってるよ。ここの数字がズレてる」
「すみません」
毛利房元や毛利盛就に忠誠を誓い、渡辺家を1から再興しようと頑張っている渡辺通も彩乃の政務を手伝う……というより彩乃から修行を受けていた。
「武力も確かに大切だけど知略や政務も鍛えないと新しい毛利家についていけないぞ〜」
彩乃は見どころの有りそうな幼い人材を見つけてきては直接教育したりしていた。
こうして育った子が将来自分の息子達の教育係を務めたりするので将来への投資である。
そんな子供達はカレーが大好きなのであるが、この時代でもカレーが作れないか試行錯誤を行っていた。
多数のスパイスが必要となるカレーであるが、基礎として必要となるスパイスは3つ。
コリアンダー、クミン、ターメリックの3種である。
コリアンダーはこの時代の日ノ本でも薬草として育てられており、生育環境は適している。
クミンは暑さに弱い作物であるが、小氷河のこの時代であれば春先に植えればちょうど夏の一番暑い時期を避けて収穫することが出来る。
ターメリック(ウコン)もクミン同様に今の日ノ本には無い作物である。
ターメリックの伝来は1609年の島津の琉球侵攻の時に琉球から流れ、広まったとされるが、日ノ本でも育つ事が確認されている作物である。
これを彩乃は籠城していて暇だったので空きスペースを個人の畑としてコツコツ育てており、2年かけてある程度量を用意できたので未来のカレールーを使うのでは無く、3種のスパイスを使ったカレーを作るようにしていた。
「うっめぇ! 彩乃様の勉強会に出ればカレーが食べられるから良いよな」
「鶏肉や野菜がゴロゴロ入ったカレーはうめぇ~」
「彩乃様おかわり!」
「母様おかわりです!」
ちなみに彩乃は修行を勉強会と呼んでいたが、雉四郎や戌五郎の様に大きくなった子供達も勉強会に参加させていた。
家臣達と一緒に学び、同じ食事を食べることで絆を深めようという意味があるからだ。
ちなみに元就はこのカレーを広める為にスパイス3種を育てる専属の農家と契約し、カレーを毛利軍に取り入れようと頑張っていた。
事前に調合しておいて、米とソーセージ、スパイスを調合して煮込むだけで立派なカレーになるし、カレーは食欲増進効果や炎症の抑制、消化器官の改善が行われることが未来では分かっているので、味噌味ばかりになりがちな戦場食を改善する料理として注目していたのである。
しかもこれに粉乳とニンニクを加えることでミルクカレーにも変化するので食事のレパートリーが増えるし、大量調理が出来るので戦場食に適していた。
伊達に世界の冠たるイギリス海軍や日本海軍が採用した料理じゃないってことである。
色や粘り気を見て忌避感を感じる人は居るかもしれないが、カレーの味を知れば問題は無くなる。
健康に良いとなればなおさらだろう。
事実元就はカレーを広める為に城下町にカレー屋を作ろうとしているし……。
食事からの軍の改革も元就にとっては課題であった。
彩乃が出産し、9人目で始めての女の子が産まれた。
皆に愛されるようにと愛と名付けられ、初めての妹に兄達はメロメロで、特に雉四郎は愛を溺愛し、家臣達から軟弱に見られるから止めてくださいと注意されても愛のおしめ(パンツ)を取り替えたり、桶にお湯を張って体を洗ってやったりと彩乃以上に面倒見が良かった。
元就から雉四郎は優しすぎるのが欠点と指摘されているように凄く優しいのであるが、普通に武芸に長けており、特に火縄銃は射撃が難しいのに馬上でも的に必ず当てる精度を誇っていた。
他の兄達が山口に行っていたり、吉川に養子となったため、必然的に長男的な役回りをしなければならなくなったが、弟達にも優しい為に皆から好かれる少年であった。
彩乃は仁徳に優れる調停者向きの人材と評価していた。
「本当に四郎は優しいねぇ」
「母様、僕はやりたいことをやっているだけですよ?」
「それでも優しさがにじみ出てるんだよ。戦国の世じゃなければ仁君として評価されると思うんだけどねぇ……四郎は初陣で死にそうで私は怖いなぁ」
「兄様達は勝手に戦場に飛び出しましたからね。三郎兄様……今は興経兄様も戦場で鬼神の如く活躍していましたけど僕には無理だろうなぁ」
「まぁ四郎は政務も卒無くこなせるから元就様から小さな領土を与えられて分家を作るくらいがちょうど良いかもね」
「えー、それだと愛の近くに居られないじゃないですか! 愛が大きくなるまでは僕吉田郡山城に居たいですよ」
「全く、欲が無いねぇ……まぁそのおかげで下の子達は四郎に懐くんだろうけど」
「一緒に遊んでるだけなんですけどね……あ、愛が泣いてる……多分乳が欲しいって言ってるよ母様、乳与えてあげて」
「母親の私よりも分かるようになってるじゃない。本当に大丈夫かな……四郎は」
年が明けて直ぐに今度は怜が出産となった。
母子ともに健康で、待望の男の子が産まれたのだが……
「この子を吉川に継がせる事は出来ないんですよね……」
既に吉川興経が毛利家から養子入りして新当主になっているし、政務において強権を振るいながらも着実に成果を出すので民や家臣達からの評価も良く、そして武の方では鬼神の如くと評価されているので産まれたばかりの男の子が成長しても血縁以外の理由で吉川を継承出来る見込みが無かった。
「おーよしよし」
「すみません彩乃姉様、今回も乳を分けてもらって」
「出が悪いのは仕方がないからね。この子の名前はどうするの?」
「元就様から一郎にすると言われました」
「一郎君か、いい名前だと思うよ」
「ありがとうございます」
「大きく育つんだよ一郎君」
ちなみにこの子が本来毛利家当主となるはずであった毛利隆元であり、どの様に成長するか、立場も違うため分からないのであった。




