1521年 尼子侵攻戦3 武田攻めに向けて
「何? 尼子が撤退……元就殿は?」
「は、尼子に激しい追撃を与え、5000とも6000とも首を討ち取ったと報告が上がっております」
安芸方面の軍略を担当することになった陶興房は毛利軍単独による尼子軍の撃退を喜ぶ気持ちと危険視する気持ちで揺れていた。
(元就殿の軍略は一国人衆にしては突出している。ただ大内家としては義興様よりこの度の勘合貿易成功には元就殿が大きく関わっていると聞く……財務方面は私には分からないが、ここで毛利家に対しての出方によって、他の国人衆の出方も変わってこようか)
「私は直ぐに元就殿と今後の軍略について話し合う為に吉田郡山城に向かう。他の者は蔵田房信殿の救援に向かえ」
「は!」
陶興房に連れられてきた大内先遣隊の1万は元就が尼子に大勝したことで、予定を武田家攻略に切り替えた。
武田家はどんなに頑張っても3000の兵を集める事しか出来ない程弱体化しており、尼子との補給線として機能していた吉川も当主と前当主が亡くなった事で大混乱、更に大本の尼子が大敗したことで尼子からの救援の道筋も絶たれたのであった。
安芸国支配の為にここで武田家には滅亡してもらうが大内家の中では決定事項であった。
「ふぅ、何とか尼子の力を削ることができたかのぉ……どう思う彩乃」
吉田郡山城に戻ってきた元就は戦後処理をしながらも、疲れたため彩乃の未来の家で一時休んでいた。
「そうですね。未来もこれで大きく変わりましたね。未来が書き換わってますよ」
彩乃がノートパソコンを元就に向けると、尼子経久の安芸侵攻及び撃退について書かれていた。
「未来情報は鵜呑みには出来んが、まだ未来は毛利による幕府ではなく徳川幕府のままじゃな」
「戦国後期についても織田信長の配下秀吉による侵攻で押されて本能寺を境に和議して……って流れは変わってないね」
「尼子をだいぶ痛めつけたが、ノートパソコン? によるとまた勢力を取り戻すと書かれているのぉ」
彩乃は抹茶ラテを作り、元就に渡す。
「まぁ未来は行動次第で変わることがわかっているけどどう動く? 技術知識以外はもう未来の情報は当てに出来ないよ」
「ここから先の未来は自身の行動で切り開くしか無いのぉ……うむ、抹茶ラテは甘くて美味いのぉ」
「風呂に入ってさっぱりしたところで軽く整理しましょうか」
彩乃は中国地方の地図を広げる。
「安芸のパワーバランスは崩れて残すところ武田家のみ、陶興房様も安芸に入ったって情報が入っているから恐らく毛利の軍と共同で武田を倒すでしょう」
彩乃は地図の上に置いた駒を倒す。
「吉川も首実検で当主吉川元経に前当主吉川国経の両名戦死が確認取れたのじゃ。吉川はこれで再起不能じゃろうな。嫡男が居ったが毛利の傀儡か毛利に吸収せねば安全上問題じゃろうて」
吉川の駒を倒し、毛利の駒を置く。
「宍戸の方に軍を向けていた尼子側の国人衆の動揺も激しいらしい。調略するにはもってこいじゃな」
毛利の駒を三吉や江田の領土に毛利の駒を近くに置く。
「あとはこの尼子が安芸に大軍で向かった隙に備中守護代の庄家が反抗作戦を開始し、尼子に下っておった三村家を味方に付けて猛然と備中から尼子勢力を追い出していると聞く」
備中に尼子とは別の色の駒を置く。
「あとは山名が尼子と手を切れば詰みってかな?」
「そう簡単に尼子経久がくたばるとは思えんからなぁ……大内も安芸と石見で尼子勢力を追放したら将軍からの介入があるんじゃなかろうか?」
「いや、この年は確か……」
彩乃はパソコンを操作して京の情報を調べると元就に話し始める。
「元就様……京では再び反幕府運動が活性化し、今幕府軍が敗れて坂本に政権を担っていた細川高国が逃げ出していますし、数ヶ月後に細川高国が反幕府軍を破って内応した将軍の足利義植を来年追放して赤松家に居る反幕府軍の旗印になっていた子供を担ぎ上げて新将軍にしますので……幕府からの介入は無いかと」
「となると勢いそのままに月山富田城に攻め入る恐れもあるのじゃな。月山富田城は年単位の兵糧攻めでないと落ちん城じゃ……復元した模型で色々探ったが噴進弾を数万発撃ち込んで何とかなるかも知れん程度しかワシでも考えつかぬ堅城」
「それとなく備後方面攻めに切り替えさすのは?」
「聞かぬじゃろうて……尼子を潰す絶好の機会ぞ」
「う~む、難しいですね」
「難しいのじゃ……あ、いや? あー、あまり良い手ではないがこうするか」
「何か思いつきましたか?」
「尼子に勝ったがこちらも被害が甚大だったことにする。武田攻めで限界を演出する」
「なるほど……面白いかもしれませんね」
「ワシ自身流れ矢で負傷したことにする。未来では化粧が色々あるのじゃろ。彩乃教えてほしいのじゃ」
「特殊メイクはできませんが……まぁ黒く滲んだ包帯などは用意しておきましょう」
彩乃と話し合った数日後に陶興房が吉田郡山城に到着。
兵達の殆どは焼かれた城下町の復旧に駆り出されていた。
「陶殿、わざわざこんな山城にお越しいただきすまぬのじゃ」
「いえ、元就殿も元気そうで何よりです。今後の事でお話が」
「武田のことか?」
「賢明な元就殿ならわかっていると思っていました。我が主である義興様も武田滅亡を戦の区切りとしたいと言っておりまして、その後は石見方面の動き次第ですが出雲に侵攻したいと考えております」
「尼子を追撃したのじゃが毛利も疲弊が凄い。武田家攻めには参加するが兵1000を出すのが限界じゃぞ。それに吉川をどうするか聞いておきたい」
「まだ義興様の決定では無いですが、吉川の縁のある毛利に処分は一任するかと」
「名前も分からぬが吉川の息子を廃嫡してワシの息子を送り込んで家を乗っ取っても文句は無かろうな」
「ええ、しかし毛利が吸収するかと思いましたが」
「吉川を吸収したら武田家を滅ぼした時に蔵田房信殿から約束されている所領を含めると毛利が巨大になり過ぎるのじゃ。大内義興様からも警戒されると思い、吉川の家は残し、傀儡程度に留めたいと思うのじゃが……」
「そこまで気にしないと思いますがね……わかりました。吉川は元就殿に任せます。武田攻めも大内家が大半は担いますし、毛利家は尼子を撃退したことで十分に活躍されましたので武田家の所領の多くは渡されると思いますよ」
「助かるのじゃ!」
こうして武田家攻めの準備が進められるのであった。




