1519年 粉乳に向けて
戦後処理を終えて領内に帰国した元就は嫁達とイチャイチャしながら政務を行っていた。
「これで竹原小早川家との繋がりも深まったのじゃ。あとは婚約祝いとして製塩技術を送り込んで塩を大量に作ってもらおうかのぉ」
「そうですね。あ! お餅焼けましたよ」
「おお、そうじゃな……これでいよいよ醤油の量産も出来るようになるのじゃな」
「そうですね!」
焼き餅を彩乃と怜と食べながら再び話を続ける。
「賢太郎と小次郎……今は房元と盛就じゃが上手くやっているかのぉ」
「大丈夫じゃないですか? あ、でも大内の学力水準についていくのは難しいかも……武芸は問題ないと思いますけど」
「そうじゃな……仲良くやっていると良いのじゃが……」
「元就様、私そろそろ男の子が欲しいです! 吉川を継がせる約束は難しいかもしれませんが……」
「ふむ……吉川が尼子に付いた事で約束は反故となったからな。吉川も待望の嫡男が産まれたとも聞く……男児が産まれたら分家の当主とさせる故に安心するのじゃ怜よ」
「はい!」
現在コタツでぬくぬく暖を取りながら喋っていたが、コタツの上に積まれたミカンを手に取る。
「前に植えていたミカンもだいぶ数を採れる様になったらしいな」
「はい、順調に数を増やしていると報告があります」
「ウムウム、お、甘いな」
「蜜蜂達が受粉させますので大量のミカンが実っているようですよ」
「産物として売りたいものじゃな」
「それにはもう少し数がいりそうですね。あと5年はかけないと」
「そうか……」
「でも将来的に吉田郡はミカンの産地として広まると思いますよ」
「そうかのぉ……そうなるといいのじゃ!」
怜もミカンを手にとって皮を剥き、口に入れて甘~いと喜んでいる。
「阿曽沼と野間を滅ぼしましたが、次はどうするので?」
「地道に吉川と武田の家臣の切り崩しじゃな。両家が落ちれば安芸国で尼子派は一掃となるが……今は石見から吉川領を通り武田家に尼子から支援が届いている状況。何とかここを断ち切らねば武田は潰せんじゃろうな」
「私の実家がすみません」
「怜が悪いわけじゃないから落ち込むでないぞ……ふう、この抹茶ラテは美味いのぉ」
「粉ミルクを使ってみましたがどうです?」
「良いのじゃ」
「私もこの味は好きです」
「それはよかった」
「のぉ、粉ミルクは作れないのか? 作れれば軍の飯が更に良くなるのじゃが」
「うーん、研究してみましょうか。でも乳牛から買ってくる事になりませんか? 和牛だと乳が全然出ませんよ」
「それもそうじゃな……ホルスタイン牛ってどれくらいの値段なんじゃ?」
「詳しくは調べてませんが30万くらいなんじゃないですかね? というか育てる牧場のスペースはあるんですか?」
「米が作りづらい宍戸家が馬産で味を占めてな、養豚も成功させて貴重な収入源になっているらしい。宍戸家なら信用も出来るし牛を譲ってもいいじゃろう」
「元就様が言うなら良いですが……わかりました。研究してみますね」
「頼むのじゃ!」
こうして私は粉ミルクならぬ粉乳を製造する機械の研究を始めるのだった。
図書館やネットで粉乳にする製造方法について勉強するが、ネックなのは牛乳を粉にするには霧状にして熱風を当てて瞬間的に乾燥させる必要があることである。
煮込んで水分を飛ばしても粉乳にはならないので注意が必要である。
これを戦国時代の道具で再現するとなると色々工夫が必要だ。
ホームセンターから機材を買ってきて、戦国時代で資料を見ながら作っていく。
試作1号はドライヤーや電動散布機を使った物であったが、一応粉乳を作ることはできた。
これを電気が無くても出来るようにしなければならない。
「何か代用できそうな物は……」
町を歩いていると、製鉄をしている鍛冶屋に目が止まった。
鍛冶屋ではフイゴを使い、火に風を送り続けている。
「フイゴかぁ……うーん、あ、発電機のファンを回す仕組みを連動させて風を送れば良いんじゃないか?」
彩乃の考えたそれは初期の蒸気機関の考えと同じで熱によるエネルギーで運動エネルギーを得ようとする考えのそれと同じであった。
小型の筒を用意し、燃焼させた熱が筒にも伝わるようにして、更に熱エネルギーでファンを回してみるとちゃんと風を送ることができた。
熱効率は悪いが、風が送り込めれば十分なのでこれで全然良い。
それとは別に粉末にした粉を誘導するための送風機も取り付け、散布機の要領で、レバーを引くと細かい水が散布されれる様にし、試作を繰り返して10号目でようやく納得できる粉乳機を作ることに成功した。
なおこの機械、使い方次第では塩を大量に生み出すことも出来るのであるが、彩乃は気がついていなかったのである。
彩乃は子牛の競りの会場に来ていた。
電光掲示板に競りの値段が表示されていたが彩乃が予想していたよりも子牛の値段がはるかに安い。
「1頭5万円……オスだと更に安いやん」
一応今回は試しということで100万円で3頭買えれば良いかなと思っていたが、22頭も購入することができた。
戦国時代へワープを繰り返して子牛を運び、その子牛を宍戸家の牧場に渡していく。
「毛利の奥方は神通力が使えると聞いていましたが……本当にいきなりまだらの牛と共に現れるとは……」
「信用している宍戸家の家臣の方だから見せたのですよ」
「へい、わかっております!」
子牛は次々に放牧地に放たれて、始めての広い放牧地に大興奮である。
「右耳に黄色い札が付いているのがオス、左がメスね」
「オスは2頭だけですか」
「これからどんどん連れてくるから頼むね」
「わかりやした! でも労働力じゃなくて本当に良いので?」
「オスはどんどん売っちゃってもいいけどメスは牛乳が採れるからキープしておきたい。牛乳は色々な食材に使えるからね」
「獣の乳が本当に美味いので?」
「一応現物持ってきてるけど飲んでみる?」
そう宍戸の家臣の方に言うと牛乳を器に入れて渡した。
「本当に乳だ……いざ! ……!? う、美味い!」
「里尾殿本当に美味いので?」
「磯野殿も飲んでみよ」
「どれ? ……う、美味い!」
そんなやり取りを繰り返し、牛乳を使えばもっと美味い物も作れると教えると家臣達はやる気を出した。
「給金は1ヶ月500文。毛利から出すで良い?」
「利益は宍戸家と折半……軌道に乗れば利益から支払うで……多分毛利が赤字になると思うが良いのか?」
「牛の個体数が増えることにも意味があるのでね。オスの牛は農耕牛として農民に売るで良いね」
「大丈夫です。分かってます! 500文も貰えればほぼ足軽の俺達も家族を持てますんで頑張ります!」
500文……つまり1ヶ月で1石の米を買える給金を貰えるので、1年で12石分になる。
家族を養うには十分な金額である。
「あとは巨大な粉乳機を作ったり、チーズやバターを作る場所も作らないとな……」
彩乃のやることはまだまだあるのだった。




