1516年 2人は超人(いっぱいになります)
「ほぉ……これが異国の武器……火縄銃ですか」
戦国時代に戻った私と元就様は早速猿掛城時代から付いてきてくれていた職人たちに火縄銃の複製を依頼した。
「設計図はここに、火薬の配分、使用方法はそれぞれ書物に書いてあるわ」
「この兵器が戦場に投入されれば毛利に大きな勝利を齎すことになるのじゃ。最初に複製に成功した職人には100貫の金額を出すとしよう。勿論協力して作った場合は300貫まで増やすのじゃ」
その話を元就様が言うと、職人達から歓声が上がった。
職人達は私がコピーした書類を受け取ると全員が居る中で2丁のうち1丁の火縄銃を分解して部品を見ていく。
開発予算も毛利家から出されるし、火薬にも焙烙玉の黒色火薬が使用され、試射実験も行われたのだった。
職人達が火縄銃の複製に挑んでいる間にマヤ姫が産気づき、3人目の出産が行われた。
産まれてきたのは女の子であり、毛利家家臣達は胸を撫で下ろした。
家督相続が決まったのに、男児が改めて産まれれば、絶対にお家騒動が勃発するのが目に見えていたからである。
しかし、女の子が産まれた事で家中騒乱の火種の1つを心配しなくて済んだのである。
「正直ここまで女児が産まれてくることを望んだのは初ですよ」
「すまんなマヤ殿、じゃが毛利家の事を考えると男児が産まれるわけには行かなかったのじゃ」
元就は最悪男児だった場合暗殺することも考えており、マヤ姫もその事を薄々感づいていた。
マヤ姫は若いので父親の杉殿から再婚することも考えるが……とも言われていたが、子供を置いて復縁するのは子供に悪いし、杉家も姉妹や兄弟が居るのでマヤ姫以外にも血縁を広げることは出来るでしょうと父親を説得して吉田郡山城に残る選択をするのだった。
「マヤ姫……いや、マヤ殿。娘達を毛利家の繁栄の為に使わせてもらうが構わんか」
「それが興元様の残した血脈が残るのであれば……」
出産から数日後、産後の体力を回復したマヤ姫と元就様は今後の毛利家に関する話をするのだった。
この時マヤ姫の娘は長女鶴姫を私の長男、賢太郎と婚約するのが決まっており、次女の亀姫と生まれたばかりの松姫の嫁ぎ先をどうするかという話になったが、亀姫を将来的に竹原小早川家に嫁がせたいという考えを伝えた。
「竹原小早川家ですか?」
「ああ、安芸国国人衆は多くいるのじゃが、確固たる水軍力と安芸国南部で勢いがあるのは竹原小早川家じゃ。今後毛利家は竹原小早川家との関係を重視していくことになるじゃろうて」
「……どれくらい後の話になるでしょうか」
「亀姫が10歳を超えるまでは毛利家に置いておく、それに竹原小早川家は今男児が居ない状態じゃて……男児が誕生してからになる。男児が生まれなければこの話は無しじゃ」
「松姫はどうなされますか?」
「松姫は安芸国鏡山城城主である蔵田房信殿と関係を深めていきたい」
この時安芸国は守護が大内家が務めていたが、依然として武田家が守護代の権利を握っていた。
そこで大内義興は安芸国の大内派を取りまとめるために鏡山城に蔵田一族を送り込み、東西条(鏡山城周囲の土地の地名)の分郡守護に命じ、武田家の家格を引き落とす工作を進めていた。
安芸武田家の家格が下がれば分郡守護をしている蔵田房信を守護代に命じて安芸国統治を行おうとしていたのである。
そのため蔵田房信の息子と松姫を婚約することができれば毛利家は分郡守護の外戚(実質守護代の親戚)になることができ、大内の後ろ盾がある状態で動くことが出来るのである。
ただそれをすると大内に全ベットすることになるのだが、今後の尼子の安芸国侵攻までのタイムスケジュールを未来知識と過去改変による影響を考えながらも大内に賭けたほうが毛利家を大きくできると判断した。
「私(マヤ姫)は守護代の娘故に蔵田房信様のご子息との家格とも釣り合うと思われますが……受けるでしょうか?」
「そのためには毛利家の影響を確固たる物にする必要があるが……そのための布石は既に打っているのじゃ」
「怖いお方」
「褒め言葉と受け取っておくのじゃ」
私は6人目を出産することになり、6人目も男の子であった。
私はどうやら男の子しか産めないのかもしれない。
まぁ元就様は喜んでいるから良いけど……。
名前は干支だと子……鼠なのだが、鼠を名前に付ければつまらない者と縁起の良い名前でないと元就様が却下し、それを捕食する猫を連想できる三毛から三毛丸という名前が与えられた。
元就様もこのまま〇〇郎というのが続くのが嫌だったのかもしれない。
ちなみに怜ちゃんは性行為自体はしていたが、なかなか子供ができなかった。
出来やすい日にやっているのだが……。
一方で長男賢太郎は6歳(数え年で7歳)になり武芸を国司元勝に教わっていたが、凄まじい勢いで吸収しており、既に真剣で竹を切断することや、私が剣の稽古として紙が斬れるようにと洗濯バサミで紙の両端を止めて、空中に吊るすというのをやらせたが、僅か2ヶ月で紙が斬れるようになっていた。
ちなみに紙を斬るのは真剣の取り扱いに長けた猛者でなければ普通できないのである。
他にも一文銭の穴へ穂先に取り付けた針を通すという鍛錬も教育係の国司元勝と相談してやらせていたが、数ヶ月で出来るようになってしまった。
「この子は天才です! 毛利家の龍となりうるお方が産まれた!」
と国司元勝は喜んでいたが、私は小次郎にもできそうだなと竹刀で鍛錬している兵の中に放り込んでもんでもらうと、数カ月後には
バンバンバン
「他愛なし」
小さな体ながら大人を圧倒する剣術をするようになるのであった。
大人の者達も賢太郎と小次郎に敵わなくなり、2人は毎日の様に竹刀や槍で模擬戦をするようになり、吉田郡山城に居る兵達は異常な成長をしている2人と私が神通力が扱えることで神の子と言い始めるようになるのだった。
「兄上、尼子は攻めてきますかね! 私ワクワクします!」
「小次郎は血が滾り過ぎた。もう少し視野を広げねば危ういぞ」
「視野ですか? 兄上も見えているのでしょ。天からの視点が」
「あぁ、見えては居るが普通であろうが」
「どうやら普通の者には見えないらしいですよ。天からの見下ろす事は」
「ほう、そうなのか……」
賢太郎と小次郎は国司元勝の目を盗んで馬に乗って森を進んでいた。
すると目の前に2メートルほどの大きな熊が現れ、2人に気が付き、威嚇をするが、賢太郎と小次郎は馬から飛び降りると、木の枝を次々に飛び移り、脇差を一瞬抜く。
すると熊の四肢が一瞬で切り裂かれ、1テンポ遅れてやって来た小次郎が空中に居る熊の首を刎ねる。
「小次郎なかなかやるではないか」
「兄上には敵いませんよ。一瞬で4回も斬撃をするなど、非才の私にはとてもとても……これ(熊の残骸)はどうします?」
「焼いて食べるか……父上のライターなる未来道具をくすねて来た」
「悪ですなぁ兄上」
熊を焼いて食べていると子守の国司元勝が疲れ果てながらやって来て
「はぁはぁ……え? 熊?」
「よぉ遅かったな元勝」
「兄上と熊を食べておった。元勝も食べるか?」
「お二人がこれを退治したのですか?」
「所詮獣だ。どうとでもなる」
「熊の肉は煮込んだ方が良いですな兄上、焼いても硬いです……」
国司元勝は笑うしか無かったが、元就様にどう報告するべきか頭を悩ませるのだった。




