1516年 比叡尾の戦い
「全く、論功行賞は難しいのぉ……土地よりも銭の方が良いじゃろうて」
「それを思っているのは元就様だけですって」
元就は粟屋元忠と話しながら軍を進めていた。
軍を進める理由は武田家の侵攻を追い返して早々に備後の三吉家が佐々部城を攻めてきたからである。
「防衛戦故に土地を渡すことができなかった。いや、兄上が纏め開けでもらった吉田の土地の一部を配ることになったが……」
「多治比、吉田合計5000貫が元就様の自由に扱える土地になりますが」
「いや、足りんな。戦国大名になるためには全然足りぬ」
「戦国大名ですか?」
「当主に絶対的な権限を集中した大名だ。家臣達の顔色をうかがいながら評定を進める必要も無く当主の戦略を理解し意見し、実行し、国家を運営する……それが戦国大名だ。守護大名のように権限が分散してしまっていることは違う」
「元就様……」
「周辺国人衆を血縁を使い縁を育み、最終的に乗っ取る。東北ではこれをやっている伊達家という大名が居ると聞く……本当に信用できるは血縁と譜代じゃ。ワシの代で毛利を戦国大名とする基盤を作らねばな」
「私! 粟屋元忠! 元就様の手足となり精一杯頑張る次第です!」
「その為にはもっと勉強せねばならんぞ」
「は……はは!」
まだ軍拡ができていない元就は500名の兵を連れて軍を進めていた。
道中で弟の相合元綱の兵500、井上衆300、桂の200の兵とも合流する流れである。
「三吉軍をどうしますか」
「三吉の兵は城に張り付いているのだろ? 足の早いワシの部隊は先に向かう」
「は? 先に?」
「三吉の本拠地比叡尾山城を攻める」
「……本気で言ってます?」
「本気も本気じゃ。さすれば三吉の奴も佐々部城攻めなどできまい」
「いや、我々の部隊は城攻めの兵器は焙烙玉くらいしかありませんが」
「牽制だけすれば十分じゃ。元綱や他の諸将とも話すが三吉が撤退すれば激しく追撃し、三吉が近づけは伏兵を置いておき、他方から攻め立てる。城攻めよりもこれも敵をおびき寄せる釣りじゃ」
「元就様が言う釣り野伏という戦術ですか?」
「いや、これは啄木鳥戦法と呼ばれる物をワシなりに改善してみた。啄木鳥に追い立てられた虫が三吉じゃて」
「なるほど……彩乃殿からの知恵ですか?」
「まぁ彩乃から教えられた歴史書にあった合戦絵図を見てな」
「それを普通の戦に応用できる元就様も凄いですがね。いや、胆力もですが……」
「兵数と教育を受けた兵が増えればもっと色々な戦術が仕えるのじゃなが……」
そうこう話していると相合元綱が合流し、啄木鳥戦法について話し
「また兄上は危険な役回りを引き受ける」
「危険とは思っておらんぞ。というより周りにワシが鍛えた兵を置いておいた方が脱走兵が少なくて安心じゃ」
「もう……わかりました。兄上は城攻め気を付けてくださいよ」
「元綱も流れ矢にはくれぐれもな。今義経」
「その異名名前負けしてる感じがして嫌なのですが」
相合元綱は今義経と兵達から言われ始め、武田家戦で多くの首級をあげた為にそう言われていた。
渡辺といった武を担う家臣が信用できない以上、元綱の武略は毛利家を支える支柱になっていた。
元就軍は忍び衆を使い、獣道を通って三吉領内に侵攻し、元綱に佐々部城救援を任せるのであった。
「さて、じゃ、盛大に火矢を放て」
元就は比叡尾山城に到着すると、兵達に火矢を次々に放たせ、縄を使って焙烙玉を投げ込み、城内を爆破させていった。
三吉の兵の殆どが毛利領侵攻に駆り出されていたため、比叡尾山城の守兵は少なく、悲鳴や叫び声も断続的であまり効果が無いように思える。
「ふむ、ならば木を切り倒しよく燃やせ、煙を上げて城が落ちた様に見せるぞ」
元就はすぐさま城攻めを辞めて、兵達に木を切らせてキャンプファイヤー……篝火を次々に焚かせた。
そのまま500の兵を5つの小隊に分け、伏兵として罠を張っていると、本拠地が落とされたと勘違いした三吉軍がやって来たので、追撃している毛利軍と一緒に囲んでボッコボコにした。
「雑魚は構うな、価値の有りそうな首だけ狙うのじゃ」
「元就様強すぎますよ。太刀を振るうだけで敵兵が吹き飛んでますよ」
「日頃の成果じゃな」
「筋肉も背丈も凄いですからね」
現在の元就の身長は180センチの90キロ……戦国の世だと巨漢と呼ばれるサイズになっており、それにはち切れんばかりの筋肉が詰まっていた。
最近では成長応援飲料ではなくプロテインを飲むことを好んている有様であり、彩乃が試しに連れて行った市民体育館で色々測ったところ、握力が100キロを超えていたし、某世紀末救世主伝説に出てきそうな肉体をしていた。
……初期から鍛えられ、生き残っている最精鋭の兵50名も先ほどの某漫画の様な肉体……アメリカの軍人みたいな肉体になっており、支給された太刀や槍を振り回すだけで雑兵が吹き飛ぶ無双ゲーに世界観が変わっていた。
というか栄養状態ギリギリの雑兵達はそんなモリモリマッチョマン達のフルスイングを喰らえば良くて失禁、普通に真っ二つ、悪いと頭が陥没して原型を留めてないみたいなことが起こっていた。
「全く、元就様は鬼になられたのですかね……いや、鍛錬でここまで変わることが出来るのか」
粟屋元忠はそう呟きながらも刀を振るい、ひとしきり暴れると元就も撤退していった。
「兄上ご無事で」
「ああ返り血のみじゃ。傷は無い」
「三吉の所領を今ならば奪えますが」
「紛争をしていた1郡のみ奪い、あとは放置で良いじゃろうて。こっちは興元兄上が亡くなったゴタゴタが片ついておらぬ。今は所領整備と家臣の育成を注力せねばいけんのじゃ」
「それもそうですね」
軍を引いた毛利軍であったが、死者は50名に対して700もの首を討ち取ることに成功した。
合戦に参加していた三吉家、尼子家臣達は毛利の攻撃に大打撃を受けただけでなく強烈なトラウマを植え付けられる結果になり、以後三吉家が毛利家をちょっかい出すことも無くなるのだった。
「ほう……それほど毛利が強いか……うむ、内側から崩すか」
尼子経久は逃げてきた家臣達から報告を受けて毛利家に対する調略の方針を変更し、内側から崩すべく毛利家臣団の調略に動くのだった。
一方元就自身も武田家の動きから尼子経久の調略が毛利家に侵食していることを理解し、吉川家から来た尼子への鞍替えの申し出を断り大内家への忠節を守ると宣言。
そして新当主毛利賢太郎の前で毛利全家臣172名が忠義を誓う連署を書き、家内統制に動くのだった。




