閑話 未来から見た有田中井手の戦い
〜毛利元就解説 第二回有田中井手の戦い〜
「こんにちはゆっくり彩乃です」
「ゆっくり元就なんだぜ」
「前回からだいぶ時間が飛んだわね」
「そうだぜ、まず元就の現状について教えなければならないぜ」
画面が切り替わり家系図が出てくる。
「今回メインとなる有田中井手の戦いから5年前、京に遠征していた元就の兄貴毛利興元は天下分け目の戦い船岡山合戦で敵方の有力武将を討ち取る戦果を挙げて大内義興からの信頼を勝ち取り安芸における勢力拡大を許されるんだぜ」
「この時高橋家と吉川家は無断の陣抜けを行っていたのよね。よく一緒に行動しなかったわね」
「元就の書記によると兄興元にも高橋から陣抜けを促す事を言われていたらしいが、興元はこれを断り、戦に勝つ方に賭けたらしいぜ。それが見事に当たったことだな」
「なるほど……その後はどうしたの?」
「合戦の戦後処理が終わると毛利興元は吉川、高橋家の討伐として帰国を許されるんだぜ」
「念願の安芸帰国だったのね」
「その後吉川、高橋両家を敵にするのは不味いと判断した興元は吉川家には婚姻を持ちかけて懐柔するんだぜ。吉川家は怜姫を元就の側室に差し出し、怜姫と元就の間に男児が産まれた場合、その子に吉川領を継承させる誓約をして吉川家は大内義興から一応許されるんだぜ」
「家を残すために苦労しているのね」
「一方で高橋家は明確に敵として見ていたことが確認できるが、この時宍戸家とも抗争が起こっており、興元は対応に苦心することになるぜ。ちなみにこの抗争で元就は初陣をしたと元就の日記に書かれているぜ」
「当然毛利が勝ったのよね?」
「いや、宍戸家も嫌がらせ程度で大きな軍事衝突は少なく、最終的に遺恨の原因となっていた領地を高橋侵攻が終われば返却することと、迷惑料として1000貫の大金を宍戸家に支払って決着したぜ」
「1000貫って言われてピンと来ないのだけど」
「この頃の毛利領は約3000貫の領地だったから年収の3分の1を支払ったことになるぜ」
「それは大きな決断ね……あれ? 毛利家の財源は大丈夫なの? そんなに支払ったら高橋家を侵攻するための資金がなくなっちゃうんじゃ」
「普通ならそうなるんだが、毛利彩乃の別名財神の異名通りの逸話がゴロゴロ出てくるぜ」
「財神?」
「普通大金を稼ぐのは日野富子(戦国時代でトップの悪女 応仁の乱の元凶)の様に金貸しが基本だった時代に特産品を大量に作ったことで有名だぜ」
「そんなに特産品をつくったの?」
「文献が残っているだけでも椎茸の栽培、養蜂により蜂蜜と蜜蝋の採取、米ぬかから米油と米蝋の抽出、芋を使った焼酎の製造、コンニャクの製造、納豆の製造、各蝋からろうそくの製造がこの時代には生産されていたのが確認出来るぜ。これらを商人に流す事で毛利家は国人としては莫大な資金を手に入れていたとされ、約3万から4万貫の収入があったとされるんだぜ」
「でもこれって多くの人の功績を掠め取った結果なんじゃないの?」
「それだと普通毛利興元か毛利元就、毛利家の当主となる毛利賢太郎の誰かの名前が使われるのだけど、各方面の書物に毛利彩乃からやり方を教わったと伝えられているぜ。これが彩乃未来人説だったり神の使い説を増長させる一因になっているぜ」
「とりあえず彩乃のおかげで毛利家の財政は安定していたのね」
「ああ、そして高橋家を侵攻するんだが、この時高橋家は当主と嫡男が別の戦で戦死しており、家中騒乱の真っ最中だったためにあっという間に高橋家は滅亡することになるんだぜ」
「あれ? でも高橋家って毛利家より大きな家だったんでしょ? そんな家が簡単に滅亡するの?」
「この戦には毛利家が新兵器として焙烙玉を使ったと記載があり、火薬を使った爆弾を知らなかった高橋家は軍の士気を維持することができなかったと伝わっているけど、高橋家の主力を野戦で壊滅させたのが大きいぜ」
「野戦の詳細な資料は残ってないの?」
「一応当人達が書いた志道広良書記と元就の日記に少数の軍勢を先行させ、偽装の敗走をさせて高橋軍を細い道に誘い出し、そこを伏兵と迂回させていた志道広良の軍勢で叩き、その最中に毛利興元率いる本軍が横合いから殴りつけた事で大勝したと書かれているぜ。志道広良も元就も多少盛る事はあっても嘘は書かない人物だが、当人が書いた資料なので盲信するのは危険だぜ」
「なるほど……元就もこの戦には参加していたのよね?」
「勿論、この戦の全体図を指揮したのが元就で、本人も首を3つ討ち取ったと記載しているぜ」
「おお、武功を得たのね」
「高橋領を吸収した毛利家は大内家から離反した安芸武田家の牽制を命じられて、吉川と共に有田城を攻め落としたり、宍戸家と完全に和解したり、急速に膨張する尼子家の小規模侵攻に晒されながら時が過ぎていくぜ」
「1515年に毛利家は大事件が起こるのよね?」
「ああ、毛利興元の急死だぜ。原因は酒毒とされているが、とにかく急死でこの時興元には娘が2人居るだけで嫡男が居なかったので、家臣達の緊急評定で、元就の長男賢太郎と興元の長女鶴姫を婚姻させ、賢太郎に宗家を継承させることで毛利家の家督相続問題を決着させるぜ」
「賢太郎ってこの時まだ5歳でしょ? 元就が家督継承をするのじゃ駄目だったの?」
「それには興元の夫人マヤ姫の家格が高すぎた事が挙げられるぜ」
「マヤ姫は誰の娘だったの?」
「大内義興側近筑前守護代の杉興長の娘で、本来なら逆立ちしても国人衆の毛利家に嫁いでくるのはあり得ない人物だったぜ。それだけ船岡山合戦の武功を大内義興に興元は評価されていたってことだぜ」
「確かに守護代の娘なら話は別になるわね……」
「これでマヤ姫の娘を主流から外す方が家が割れると判断した元就と弟の相合元綱は後見人となることで家中のバランスを取りながら家督継承をすることに成功したぜ」
「これで毛利家は安泰よね?」
「いや、この毛利家の混乱を好機と見た安芸武田家の武田元繁は大軍を率いて有田城に侵攻するぜ。有田城や吉川領を攻撃された吉川家は至急毛利家に援軍を頼み、ここに有田中井手の戦いが勃発するぜ」
「どんな流れだったの?」
「まず武田元繁は有田城を包囲するのだけど、元就は志道広良に精鋭の騎馬弓隊を指揮させて一撃離脱で包囲する武田軍を攻撃し、それを対処しようと武田元繁は自身の右腕の熊谷元直に兵600から700を与えて迎撃、追撃の途中毛利本隊が江の川を渡河する最中であることに気がついた熊谷元直軍は毛利本隊に攻撃を仕掛けるが、伏兵として忍ばせていた弟の相合元綱隊、毛利軍と連携するために動いていた吉川別働隊がちょうど熊谷軍を包囲する形になり、乱戦の最中、矢に当たった熊谷元直は戦死するぜ」
「武田は大打撃ね」
「あぁ、焦った武田元繁は毛利軍との決戦を挑み、毛利軍は数の劣勢で冠川まで押し込まれるが、元就自身が囮になる奇策で、武田元繁を釣り出し、そこを井上俊秀率いる弓隊が射掛けて、武田元繁を射抜き、落馬してそのまま川に流されてしまったんだぜ。大将を失った武田軍は崩壊し、撤退するが、毛利軍と吉川軍の追撃で1500以上の者が討たれて、毛利、吉川連合軍の勝利で幕を降ろすんだぜ」
「これが有田中井手の戦いなのね」
「ああ、この戦いにより武田家は急速に弱体化の道を辿り、吉川家は更に毛利家への依存を強め、毛利家は安芸国で確固たる影響力を得るようになるぜ」
「そろそろ時間ね」
「そうだぜ……ではまた次回」
「「ゆっくりしていってね!」」




