1511年 元就の元服
年が明けて、またお腹が膨らみ始めた今日このごろ……松寿丸様は元服をして毛利元就と馴染みのある名前へと変わった。
「元就様おめでとうございます」
「うむ……まぁ本来子供が産まれる前に元服するのが普通なのじゃが……兄上との連絡が遅れて今になってしまったのじゃ……ワシの元就と言う名はなかなか良いであろう」
「はい! ちなみに名前の由来とかあるのですか?」
「そうじゃな……まず元の字は毛利家嫡流の男児に使われる名になっている。ただ興元兄上や父上の弘元の様に後継者は名の後ろに元を付けるのが決まりじゃ」
「となると元就の元の字は家名から来ていて、後継者ではないから前に置いたと?」
「そうじゃ。そして元就の就の字は偏諱(誰かから名前を与えられる行為 興元の場合は大内義興の興の字が使われており、前に置いた文字の方が格上となる なので元の字が後ろの興元は大内の偏諱の方が上なので、大内に臣従しますと言う現れでもある)ではなく、猿掛城城下の和尚な考えてくださった字になるのじゃ」
「どんな意味が?」
「和尚曰く就には大きな地と言う京と優れていると言う意味を持つ尤が合わさり、就には人々を集めると言う意味から優れた力により大領を有し、多くの人々を付き従わせると言う意味になるそうじゃ。ワシ的には就の別の意味で付き従うと言う意味がある故に兄上の良き従者足り得ると言う意味の方で考えたいのじゃがな」
「なるほど……壮大な名前ですね」
「あぁ壮大じゃ……兄上が元気に戻って来るのが一番なのじゃがな」
「家臣の方々からは何と?」
「兄上が京で酒に溺れていると聞く……陣中で他に娯楽が無く、酒に酔うことでしか活力を得れないのだとか……」
「史実ですと興元様も酒毒で亡くなりますから止めないと……」
「いや手後れじゃろ。酒毒は一度蝕まれれば癒すことは難しい。毛利家の為に延命する必要はあるのじゃが……」
「酒を解毒してくれる食べ物を贈るのはどうでしょうか。豆腐や枝豆、しじみ等が良いとされていますが」
「うむ、領内に戻れば酒を飲む際につまみとして食べてもらおう。鶏肉も確か良いのじゃったな」
「ええ、なので未来では酒と一緒に焼き鳥を食べる文化があります」
「ふむ……どうか兄上元気な姿で帰ってきてくれ……」
菜種や小麦、玉菜ことキャベツの収穫が無事に終わった。
菜種や小麦はともかく、キャベツは村人達から奇妙な物扱いされていたが、菜種の油に小麦粉、キャベツ、長芋に卵を使い、鉄板で焼き上げ、タレをたっぷり塗ってお好み焼きを振る舞うと小鳥が餌をついばむ様にパクパクと皆食べていく。
「美味い!」
「玉菜を使ってこんな料理が……」
「他にはどんな料理があるのですか!」
村人達や料理人から玉菜を使った料理を聞かれるが、キャベツを使った料理は山のようにある。
鶏肉とキャベツの炒め物、鍋、蒸し焼き、味噌汁の具……使い道は色々である。
キャベツの良い点は塩分過多になりやすい日ノ本の食事から塩分を体外に排出するのを助けるカリウムが多く入っている事で、塩分過多になりやすい……例えば酒の摘みで塩や梅干しを食べる人なんかには是非とも食べさせたい食材である。
他にも骨を作るカルシウムや健康維持に必要な各種ビタミン類も豊富に入っているため、偏りがちな戦国時代の食事に彩りを加えてくれる食材である。
ちなみに元就様はキャベツと豆乳、鶏肉で作った鍋が気に入り、美味しい美味しいと私が未来で作るとよく食べてくれた。
あとキャベツは比較的保存食を作りやすいのも利点であり、ドイツ伝統のザワークラウトと言う料理は長期保存できるし、船乗りの天敵である敗血症予防にもなる料理がある。
陣中食として食べるのもアリなので、キャベツは栄養不足になりがちな食を補ってくれる存在だと私は認識していた。
決して私が戦国の世でもキャベツが食べたいからでは無い!
まぁ徐々に戦国の世でも育てられる作物があれば増やしていこうと思うのであった。
「あー! あー!」
「はいはい、乳飲みの時間ですよー」
「キャッキャ!」
「しっかし賢太郎は隨分と飲むのぉ。大きく育つのじゃよ」
「そうですね……そしてここに2人目を孕ませたスケベなお父さんが1人」
「良いじゃろ。ただでさえ男児が少ないのじゃ! 子沢山で悪いか?」
「いえ、少しからかいたくなっただけです。して? 今日はずいぶんと悩んでおりましたが?」
「うむ……農法を他の家臣も教えて欲しいと頼んできてな。ワシの一存で決めて良いか悩んでおったのじゃよ」
「広めてはいけないのですか?」
「いや、広めるは広めるのじゃが……家臣の利益に直結するため兄上の許可が必要なのじゃ。ただ……兄上からまだ連絡が来ないのじゃ」
「手紙を出したのは何時なので?」
「先月じゃな。じゃからそろそろ手紙が返って来ても良い頃なのじゃが……」
「京がドタバタし始めているのかもしれませんね」
「そうなのか?」
「はい、京では足利義澄(11代将軍)が各地で挙兵し、京の防備が危うくなるのが来月に起こりますからそれ関連かと」
「うむ……兄上が持ち堪えてくれれば良いのじゃが……」




