1510年 相合四郎1
認識阻害が効いている為か、私が産婦人科に行っても周りも何とも思われなかった。
12歳の妊婦なんか異様に思われても普通おかしくは無いのだが……バスに乗って、産婦人科に定期的に通っているが、看護師さんも先生も特に何も言わないし、母さん父さんにも何も言われない。
「そろそろ臨月になりますので安定してくると思いますが、若年出産なので帝王切開になるかもしれません。ですが現状特に問題もなさそうなので自然分娩で進めようと思いますが大丈夫ですか?」
「はい……その場合入院はどれぐらいに……」
「そうですね約6日間の入院になりますよ」
「そうですか……ありがとうございます」
とりあえず現在未来に滞在できる時間は約3年間蓄積していたので2ヶ月程度は未来に常駐することができる。
私が未来に行っている間は戦国の時間がほぼ止まっているので、未来で安全に分娩してきて戻ってきたほうが安心である。
荷物持ちとして松寿丸様に手伝ってもらってベビー用品を買っていく。
「未来では子供を産むとお金がもらえるのか?」
「未来だと子供不足で子供を産んでもらうために国が補償をあれこれするんですよね……まあ私の場合は産んだ子供は戦国の世で育てる必要がありますが……」
「ちなみに幾ら貰えるのじゃ?」
「出産1回につき42万円、子供が3歳になるまで毎月1万5000円、15歳になるまで1万円貰えるらしいです……神様がまた手紙を置いていましたが、認識がネジ曲がって15歳までの手当と子供の国籍や保険にちゃんと加入していることになるらしいので子供達も未来の治療を受けれますよ」
「そうかそうか……それはよかったのじゃ……今日買う物は出産後に必要になる物か?」
「そうですね。母乳が量出るか不安なので粉ミルク、哺乳瓶、赤ちゃんの下着のオムツ、オムツが蒸れるので赤ちゃんパウダー……あとはベビーベッドと赤ちゃん用のお風呂も用意しないといけませんね」
「ふむ……結構多いな」
「まあ初仔なので買う物も多くなりますがね。ベビーベッドなんかは戦国の世の大工に作らせてもいいですし」
「うむ、そうじゃな」
荷物を持った私と松寿丸様は戦国の世に戻り、赤ん坊を迎え入れる準備を進めるのであった。
「しかし、奥様の身分を厳島の流れ巫女にするとは……」
志道広良と松寿丸の2人は彩乃の身分をどうするかについて話していた。
彩乃の神通力……特殊な力は猿掛城だけでなく毛利領内でも噂になっており、出身不明であるのはいささか問題であった。
そこで志道広良が彩乃の母親と幼かった彩乃を助け、匿っており、母親は幼い彩乃を残して病没、ある程度の大きさになり、杉殿の侍女として仕え、松寿丸があばら屋に幽閉された時に献身的に支え、結果お手つきとなった……という分かりやすい物語を流布しておいた。
松寿丸の立場だと他の国人と婚姻を結ぶことで結束を深める駒足りうる存在であったが、彩乃のもたらす未来の道具や知識は国人と繋がるよりも利益になると彩乃を知る人物達が裏工作を進め、なんとか正室にねじ込んだ経緯がある。
しかもご丁寧に彩乃が毛利を名乗るので数代遡って毛利を廃嫡されて寺に入っていた分家を引っ張り出して家系を捏造して家格足りうる存在と捻じ曲げた。
「ふう、とりあえず皆に納得のいく身分にはできたのじゃな」
「ええ、彩乃殿の子供が男児で確定しているのなら若様の嫡男として育てる必要がありますからな……ただでさえ嫡流の毛利家は断絶寸前ですし」
現在健康な毛利家の男が兄の興元、松寿丸、腹違いの弟の相合四郎の3人しかおらず、北三郎は下半身不随で寺に預けられている為数に入れることができなかった。
ちなみに父毛利弘元には弟がいたのだが、家督継承で揉めるわけにはいかないと寺に預けられて、現在は吉川家家臣兼重家の養子となっており、兼重元鎮を名乗っていたが、別家に出ていってしまっているので毛利家継承権はほぼ喪失している状態である。
なので家臣達からは何としてでも毛利家嫡流に男児が欲しいという願いがあり、彩乃が男児を身籠った、神通力で確定していると家臣達は大喜び……普段は派閥争いで揉めている者も安堵の表情を浮かべていた。
これで次世代の毛利が繋がるので、もし興元が京で戦死しても繋がる事が確定したことになるのだ。
「彩乃は神とも繋がる人物……正室以外あり得んのじゃ」
「未来をより良くするためには子供が多く居なければならないらしいので、ちゃんと産んでくれる彩乃殿は適任でしょうし、未来の技術で死産がほぼ無いというのもありがたい」
「肥立ちが悪くて亡くなる女性も多いからのぉ……ワシの母上も肥立ちが悪くて亡くなっているからな」
産まれてくる子供の話も程々に、家内統制の話に移る。
「大内の上洛により毛利家の派閥も良く見えてきましたなぁ」
「……井上衆は大内か?」
「ええ、当主の井上光兼と嫡男で実権を握る井上元兼は大内家臣と繋がっている証拠が出てきました。商人を抑える事で井上衆の金の流れも見えてきましたな」
「金がこれほど力があるとは昔のワシじゃ思いもせんかったが……彩乃に感謝じゃな……(志道)広良もそう思うじゃろ?」
「ええ、我もそう思いまする」
「井上衆はとりあえず置いておいて良い。大内との繋がりは徐々に引き継いでいけば良いだけじゃ。問題は弟の相合四郎を担ごうと暗躍している者達じゃな」
「筆頭は譜代家臣の渡辺、準一門の桂も賛同しているとのこと……また母親の瀬の方もその計画に賛同しているらしく、興元様が京で何か起こった場合動く可能性があるかと」
「渡辺も桂も当主が興元兄上と一緒に遠征中なのに良く暗躍しているなぁ……2家を唆している存在は広良、分かったか?」
「調べていますが……彩乃殿が言うように尼子経久の手が回っている可能性が高いですな」
「大内義興殿が京に居る間に自身は部下を使って徐々に影響力を浸透させる……流石未来で謀聖と呼ばれる手腕じゃな」
「相合四郎様は良き若者だけに惜しいですな」
「正史では助けられなかったが、ワシは四郎を助けたい。……言ってしまえば興元兄上よりも四郎との方が仲が良いからな……興元兄上は……悪い意味で父上に似ているからのぉ」
「悪い意味ですか?」
「真面目すぎるのじゃよ。じゃから家臣の意見をよく聞こうとして潰れる。ストレスとやらから逃げるために酒に逃げて溺れる……恐らく京で酒の味を知っている頃じゃろう。それよりは頭が切れ、活発な四郎の方がワシは好きじゃし、毛利家と言う家中の統制を考えると負担は分担せねばならん」
「そうですなぁ……四郎様は船山城におりますが、一度向かいますか?」
「そうじゃな。腹を割って話そうぞ」




