1509年 周囲の脅威
ある日、久しぶりに歴史の教科書を見ると毛利元就の内容が変わっていた事に気がついた。
史実の毛利元就……いや、元就の直系は毛利隆元、毛利輝元と続くが、名前が変わっていた。
というより未来が変わった影響か、内容が大きく変わっていた。
私は直ぐにネットの百科事典で調べてみると、私……毛利彩乃の名前がしっかりと歴史に組み込まれていた。
神通力を使う巫女と書かれており、出生は不明であるが、毛利元就の子供を数え年で13で産むと書かれていた。
つまり私は無事に出産するらしい。
ただその子の名前が毛利隆元と書かれていたり、毛利義元と書かれていたり、毛利晴元と書かれていたり、ページを更新する毎に名前が変わる……。
「未来が確定していないってことか?」
私はそう判断するが、ページを更に進んでも結局毛利家は豊臣秀吉に追い詰められて、本能寺の変で休戦、それから関ヶ原で敗北し領土を縮小して江戸時代という流れは変わっていない。
「毛利家勝利の未来を作らないと……」
まだ妊娠していないが、そのうち出来る子供の為に頑張ろうと思うのであった。
松寿丸様と布団で子作りをしたあと、ピロトークをしながら後世から見た松寿丸様が警戒すべき者とその評価について聞かれた。
一番の敵は安芸国守護の武田家である。
「現在松寿丸様の兄上の(毛利)興元様と一緒に京に居る武田元繁が最初の大きな敵となるでしょう」
「武田元繁は現在大内義興様(大内家当主 現在京では天下人と呼ばれている人)の配下となっていますが、独立欲求が大きく、安芸国の実権を奪取出来る機会を虎視眈々と狙っています」
「それが安芸国人衆が京での戦の負荷に耐えかね大合戦の前に敵前逃亡。安芸国人衆は大合戦が大内の敗北で推移すると思っていたところ、大内大勝で大合戦は終了します」
「うむ、その未来は兄上に随伴した家臣達に成る長く京に滞在するように言ってあるのじゃ。これで未来は変わるかのぉ?」
「兄上様のお心次第かと……私達は敵前逃亡をした最悪のシナリオで動かねばなりません」
「ふむ……史実では安芸国国人衆の集団での敵前逃亡なのであろ?」
「はい、史実ではこの後に国人一揆として逃亡した国人衆で一揆の契を結ぶことでなんとかお家の存続に成功することになり、その一揆鎮圧に武田元繁が京から帰還。そのまま大内を裏切り、厳島周辺の領土に侵攻し、大内は安芸国一揆衆に武田討伐の下知を下し……という流れですね」
「ふむ……未来を知るというのは恐ろしい甘味と同じようであり、知ることで未来が変わる……か」
「未来の情報なので大まかにしかわかりませんからね。この時代の情報が少ないので……」
「準備をどうするかじゃな……」
「未来が変わったのはまず金の流れです。現状の毛利家は史実よりも財政状態が幾分か良いです」
「ふむ……次に警戒すべきは相手は誰じゃ?」
「そうなると……尼子経久かと」
「尼子経久殿か? 京極家の家臣で出雲守護代であると知っているが」
「京極家が近々断絶し、京極家の代わりに尼子経久が出雲守護となります」
「そんな馬鹿な……家格が足らんじゃろうて……そんな事をすれば周囲の国人だけでなく幕府から追討令が出されるのじゃぞ」
「松寿丸様はお忘れですか? 尼子経久は幕府から追討令を受けて復権した人物なのですよ」
尼子経久の異質さは戦国時代でも際立っており、今から数年にかけて勢力が一気に広がることになる。
まず尼子経久は一度幕府から追討令を受け、出雲守護代から没落したのだが、通説では新たに守護代になった者を僅かな手勢で騙し討ちし、守護代の地位に返り咲いたとされていたが、近年の学説では京極家そのものが幕府と対立し、守護職を剥奪されており、連鎖的に尼子経久の守護代の職も解任され、京極争乱と呼ばれるお家騒動を勝ち抜いた者が幕府と親しかったこと、その者を尼子経久が支援していた事で京極家が再び出雲守護になった時に尼子経久も再び守護代に任命されたのだろうというのが現在の学説であり、私も気になって情報通である志道様に尼子経久について聞くと、現代の新説の方が正しいと立証することができたが、そこからが少し違っていた。
京極争乱後、新当主になった京極家の者は数年後に病没してしまい、現在は幼い京極家の守護を母親と尼子経久の2人が支える体制を取っていたが、その子供が体が弱かった為に成人を迎えることは難しいと判断した尼子経久は謀略を開始。
今回の大内上洛に呼応することで10代足利将軍の復権に成功させて幕府に恩を売り込み、尼子家が京極家と近しい家柄であるということを幕府に認めさせている。
そして出雲国人で大きな影響力を持つ塩冶一族を取り込むために尼子経久の3男を塩冶一族の当主に擁立させ、尼子経久の次男は軍略の天才と若いながら名声があるので尼子の軍事面の支えとなる精鋭……新宮党を結成。
そして嫡男には英才教育を施し、華も実もある武将(文武両道で武力も政務も長ける尼子経久自身も自らを超える大将)と言っているできた息子がおり、婚姻と軍事力をもって存在感を拡大させていた。
他家から見ると尼子家は先進的な家であると見られていた。
「将来的に尼子の触手が安芸国の毛利にも及ぶと?」
「既に侵食している可能性もあるかと……尼子は独自の忍び衆を持っているとされて情報収集能力は他の家よりあるかと」
「ふむ……となるとワシの手の届く範囲で忍び衆を整備する必要があるのぉ……」
「忍び働きが期待できる者もそうですが、まずは情報を集められる者を増やしましょう。例えば商人なら米や武具の相場情報で戦があるかどうかを判断できますし、巫女を使えば内部の情報も女を武器に探ることが出来るでしょう。盲目の者でも琵琶法師として盲目故に油断して情報を仕入れることが出来るでしょうし……」
「なるほどのぉ……それら全て金があれば出来るな……よし、やるのじゃ!」
「その意気です。あと警戒すべきは大内義興かと」
「大内殿か……どんなに頑張ろうと抵抗することは難しいのぉ」
「はい、大内が本気になればどんな勢力であろうと滅ぼせる圧倒的な力を持っています。故に大内をいかに怒らせないかが毛利の生存戦略となり、大内義興存命時には大内に一切の隙がありません。天下を目指す場合安芸国掌握から始まりますが、毛利血縁で各国衆の当主を固めるが吉かと」
「そうは言うが……ワシの腹違いの妹達含めて血縁として送り込める残弾が無いぞ。弟達も1人は自力で歩く事が出来ぬし……」
「私がその分産みます! 東北の伊達家は血縁関係だけで東北地方を平定寸前まで持っていきましたし、関東の北条家は兄弟仲が良い状態で血縁関係を広げ、関東250万石の大領を手中に収めました。毛利に必要なのは毛利を支えられる忠実な分家ですよ!」
「ワシもその分家なのじゃが?」
「松寿丸様が手を汚さなくても天命として毛利家を継ぐことになるのです! その時に困らないように独自の軍事力、忠実な家臣、基盤となる財源、周囲に張り巡らした情報網……これが大切なのですよ!」
「そ、そうじゃな! よし彩乃もう1回戦するぞ! 早く子を孕んでくれ!」
「はい!」
私ってこんなに積極的だったっけと思うが、イケメンな松寿丸様に抱かれて幸せいっぱいで快楽で共に猿の様になるのだった。




