1508年 井上元盛誅殺
ある日、商人が猿掛城に商品を持って運んでいた。
「止まれ、猿掛城になに用だ」
「井上様により猿掛城に食料と武器を運ぶように言われたのですが」
「中身を見せてもらうぞ」
商人の持ってきた荷車の武器だったり樽には不自然な点は全くない。
「よし通れ」
商人達は物資を城内に運び込むのであった。
「松寿丸様、猿掛城内部に侵入することに成功しました」
味噌樽は2重底になっており、中から松寿丸様が出てくる。
「ふう、狭かったのじゃ」
武器の束や他の樽からも人がどんどん出てくる。
荷物を運んでいた男達も黒装束に着替えて、武器束から武器を身に着ける。
「金屋(商人の商号)、猿掛城城内への手引き助かる。危険な役目をありがたい」
「いえ、松寿丸様のご武運を祈ります」
時は夕刻……日が暮れ始めており、もう少しで闇夜になる。
「皆の者、闇夜となり、二の丸の武器庫から出て本丸に夜襲をかける。本丸の絵図は頭に入っておるな」
おうっと小さく男達は頷く。
猿掛城の城内を松寿丸様は絵図に描き、仕えている男達に襲撃する計画を何度も話し合った。
そして井上俊秀、俊久の2人が井上元盛が今何処に住んでいるか等を調べ、計画実行に移った。
忍び装束を身に着けた男達はペンライトを使えるようにしており、間違うことは無い。
そして夜になり、襲撃結構の時間になり、武器庫から男達が静かに戸を開けて出発する。
猿掛城が小さな城の為、城兵も平時の夜には30も居ない事を松寿丸様は知っていたし、城門の守りと本丸の守りが殆どなので今居る食糧庫の中には人が寄り付かない事も分かっていた。
2の丸の食糧庫から出ると、本丸に続く道をそのまま通るのは危ないため、壁を登る。
男達の1人がクナイを使って傾斜面を登っていき、背中に背負っていた梯子を降ろす。
それを登って、他の男達も本丸に登っていき、屋敷の裏に隠れる。
「井上元盛はこの屋敷の中で寝ているはずじゃ……ここに居る兵も井上元盛の手先……出会ったら討ち取ってしまって構わぬ」
足音を消して中に侵入すると、一気に警備兵を殺していく。
そして寝室で寝ていた井上元盛にライトを当て、怯ませたところを世鬼政時に一太刀。
「だ……れじゃ!? 井上元盛と知っての狼藉か!」
「井上元盛! ワシの事は覚えているのぉ」
「松……寿丸……貴様……か!」
「民を虐げる悪臣を討ち取るは主君の務めじゃ! 死ね元盛!」
「う……恨むぞ……松寿丸!?」
松寿丸様は首を跳ねて誅殺に成功する。
「悪臣井上元盛討ち取ったり! 屋敷を固めよ! 朝には他の家臣にも知らせる!」
計画のメイン目標は達成した。
翌朝、城に登城してきた家臣達は本丸の屋敷で井上元盛の首を持って微笑んでいる松寿丸様を見てギョッとした。
「ま、松寿丸様!? そ、その首は……」
「ワシを城から追い出し、民を虐げ、私利私欲に動いた悪臣井上元盛を誅殺した」
「い、井上衆が黙っておらぬのでは!?」
「井上光兼殿よりこの誅殺は認められておる。それにおかしいとは思わぬか? ワシの器量が足りない故に城を預かっているのであれば井上元盛が隠していたこの銭束はどう説明する?」
松寿丸様は金屋に頼んで銭束を用意して貰い、これを井上元盛の証拠として集まった家臣に見せた。
「他の者は井上元盛に言われ渋々従っていたと見る。故にこの銭は農民より多く取り立てた税の返済に当てる。良いか、ワシは井上元盛から力無ければ城主であろうと押し込められると学んだ。故にワシは今ここで猿掛城に仕える者に連署をしてもらうぞ」
松寿丸様は家臣の目の前に誓約書を投げた。
その誓約書には
『猿掛城城主多治比松寿丸に今一度忠節を誓うのであれば井上元盛に従い、狼藉を働いた罪を許す』
『多治比松寿丸の命に従い以下の事を守る
壱、税は5公5民とする
弐、嫡子は松寿丸の小姓として側仕えをさせる
参、政務を励んだ者、功績があった者には銭と土地にて功に報いる
肆、揉め事は必ず城主松寿丸に裁量を聞き、私罰を禁じる
伍、能力ある者は身分問わず登用する』
こう書かれていた。
この時代だと全て肆以外は全て異色の項目であり、税は普通6公4民が普通であり、嫡子を小姓にするのも限られた者が基本、功績があった場合は銭ではなく土地で報いるのが普通、そして異質なのは能力があれば上に上げるという伍の項目である。
その場に居た家臣達は反抗すること無く誓約書に名前を書いていき、後日息子達を小姓に差し出してきた。
私や杉殿も城に戻ることに成功し、猿掛城は急速に松寿丸様の集権が進むのであった。
まず松寿丸様は私を連れて各村を訪ねて、井上元盛の狼藉を謝罪し、損失の穴埋めとして多めの銭を渡し、噂が広まっていた松寿丸様の農法が書かれた農書と農業指導要員を送る約束をしたのたった。
そして今回の誅殺劇で活躍した男達は世鬼政時の部下ということにし、世鬼政時は今まで松寿丸様や私達が住んでいた改造あばら屋が与えられるのだった。
世鬼政時は孤児を複数人雇って、椎茸栽培や養蜂場の管理を任されるのだった。
それから井上光兼が改めて宗家として井上元盛の狼藉を謝罪し、毛利家に改めて忠誠を誓わせたが、この時に井上衆が毛利の協力国衆ではなく毛利家の家臣であることを認めさせ、権力を強化することに成功させる。
年内はドタバタが続き、誅殺劇の後始末に奔走するのであった。
「ふう、彩乃、ワシの力で城主に舞い戻ったぞ。本来のワシとは違う歴史になったか?」
「ええ、本来ですと4年間あばら屋生活でしたのでだいぶ短縮しましたし、今回ので松寿丸様の武威も家臣達に広がり、更に猿掛城に限りますが、集権化が実現しました。井上衆を毛利家の家臣と明文化したのも大きいですよ」
「そうかそうか……あとは兄上が居ない間にどれだけ国力を上げられるかじゃな」
「そうなりますね。あとは銭で家臣を雇う下地ができたのも良いですよ。世鬼政時君と農民出身の男達は銭で雇ってますから将来恩賞不足で悩むのが減ると思いますよ」
「そうじゃな……あとは嫡子達の教育じゃな。これはワシがする必要があるのぉ」
「私も手伝いましょうか?」
「いや、彩乃には悪いが彩乃には権威が無い。ワシの嫁と発表するが、それでも話を聞く者は少ないじゃろう。手足となる者は必ず付けるから自由に振る舞ってほしいのじゃ。それに未来の道具は彩乃からしか仕入れられんからのぉ」
「次はどうしましょうか……茶道でも教えますか?」
「それも良いのぉ……背が伸びる粉を混ぜた飲料は飲ませたいのじゃ……抹茶味で誤魔化すかのぉ」
「とりあえず最初に行うのは教室を作りませんか。松寿丸様は学校を教科書とかで見たと思いますが」
「学び舎のことか……うむ、大きな黒板で年長者から色々教わるのは良いじゃろう。それをしよう!」
「他には地道に行きますか……食料の種類を増やしたり、裏作の作物を勧めたり……」
「そうじゃな。よし! より良い未来のために頑張るのじゃ!」
「おー!」




