1508年 初めての正条植え
ぼかし肥料の作り方を教えたり、竹林を切り開いて小さな畑を作ったり、その竹を使って竹炭を作ったりしていった。
あとは養蜂場を整備したり、椎茸の原木に菌床を入れる作業をしていった。
男達がハンドドリル片手に穴を必死に開ける姿はシュールであったが、菌床を入れた枕木は仮置きした後に木陰に枕木を組んで縦置きにしていった。
空気に触れる面積を増やすことで茸の栽培に適した状態にするためである。
着々と養蜂と椎茸栽培の準備が進む中、男達に手伝ってもらい、物置小屋を林の中に建てて貰い、井上の監視が無いようにしながら米作りの準備に入る。
「まず神通力を用いた米を作るには強い米を選別する必要があるのじゃ。用意するのは種籾に塩、そして水に、卵じゃ」
「卵ですか?」
「野鳥の卵でも良いがまず水に少量ずつ塩を入れていく。そして卵が浮かぶ様になったらこれが塩を入れる適量じゃ。入れすぎると塩害を招くから注意じゃが、これを行うことで……」
松寿丸様が種籾を桶の中に入れると沈む種籾と浮かぶ種籾に分かれる。
「浮かんだ種籾は中身が軽く、病気になりやすかったり、上手く成長しない種籾じゃから捨てる。沈んた種籾は中身がぎっしり詰まっておるから強く育ち、多く実る。そして沈んだ種籾はザルで濾して清水でもう一度洗うのじゃ」
これを何度か繰り返し、仕える男達の畑の分を選別していく。
そして水に浸けて浸水と言う作業をした後に苗床と呼ばれる薄く土を張った箱の中に種籾を撒いて、若芽が出るように育てる。
この時直射日光に当てると弱ってしまうことがあるので日の光が直接当たらない場所にしておく。
この準備が整ったら田んぼの土づくりを進める。
竹炭とぼかし肥料を混ぜ込んだ物を田んぼに撒いて、土をつくっていく。
そしてよく耕す。
馬とか牛が居れば家畜の力を使って深く耕す事が出来るが、馬や牛も有限……それでも馬鍬をホームセンターの道具を使いながら松寿丸様達が自作し、それを村人に配ってやった。
「すまんのぉ……本当は牛や馬を与えたいが……」
「いえ、この道具だけでも深く耕すことが出来ます。協力を惜しんだ我々に配慮していただきありがとうございます」
と、村長にも話をし、田植えが始まるのだった。
「うーむ、養蜂の巣箱は全滅か……蜜蜂が居着かなかったのぉ」
「まぁそういう時もあります。初っ端から成功するとは思ってませんからね」
「うむむ……」
養蜂場で松寿丸様達と私が話していたが、蜜蜂が巣を作ってくれなかった。
これでは養蜂事業は失敗してしまうが、こういう時こそ未来の力を使う。
ネット通販でセイヨウミツバチを4群ほど購入して養蜂場の巣箱に移住してもらった。
過去から未来に連れていけるのは1人が限界だが、未来から過去に持っていける、連れていけるのは蜜蜂数千匹が大丈夫だったので、ある程度いけるのだろう。
あまり外来種のセイヨウミツバチを持ち込みたくは無かったが、養蜂の為である。
ちなみにセイヨウミツバチの方が養蜂には向いており、巣が崩れてもなるべく修復しようとしたり、移住する時も近隣の巣箱を使う、他の巣箱と近くても共存できる、蜜蜂の量が多いと利点が多いが、スズメバチに対応できない等などの欠点もある。
あとセイヨウミツバチは近隣の蜜を集める傾向があるので、ニホンミツバチより活動範囲が短いため、多くのコロニーがあると餌が足りなくなることもある。
なので巣箱の上に砂糖水を入れた容器を置いておくと足りない餌の分を補填してくれたりもする。
あとは蜜源となる植物を周囲に植えておいた。
例えばミカンの苗木を30本とレモンバームと呼ばれるハッカの材料にもなるハーブ(シソの仲間)とクローバーの種を巣箱の周りに撒いた。
レモンバームは日陰を好み、クローバーは開けた日光の届く場所を好む。
ミカンは木なのでちゃんと根付けば日当たりを気をつけていれば良い。
1年目は砂糖水の補助が必要だが、レモンバームとクローバーが根付く来年からは水分補給の為の水飲み場のみの整備で十分だろう。
「未来の蜜蜂を持ってくるとは……」
「こっちのほうが蜜蜂は採れるけど病気に弱いのが気になるのよね……未来よりも涼しい戦国の世で生き抜けるのかしら……」
「そうなのか?」
「はい、あとは砂糖水を今年は巣箱の上に2日に1回置く作業もありますし」
「うむ、それは頑張るしか無いのぉ」
ちなみに私が持ち込んだセイヨウミツバチは4群で、それがたまたま嬢王蜂が増えていたので少しすると6つの巣箱に巣を作っていた。
巣箱は30個以上あるので、これが全て埋まり頃には凄いことになってそうではある。
ただセイヨウミツバチの購入、ミカンの苗木購入と出費が酷く、50万円近くを一瞬で消費してしまった……。
初期投資と分かっていても貯金が目減りしていくのは少々怖さがあるのだった。
「米の苗が育ったから水を張った田んぼに植えていくが、均等に植えていくのじゃ」
仕えている男達が許可の取れた田んぼで紐で目印を作りながら均等に田植えを行っていく。
他の村人達から奇妙な者を見る目で見られていたが、松寿丸様は気にするでないと鼓舞しながら、松寿丸様も田んぼに入って田植えをしていく。
ちなみに私も田植えに参加して居るが、屈むので腰が悲鳴を上げる。
これを毎年やるのは大変であるが豊作の為である。
3日かけて許可の取れた田んぼに田植えを終わらせる。
ちなみに他の農民は種籾を田んぼにばら撒いて終わりである。
簡単であるがこれでは育ちが悪いし、運要素が大変多い。
学のある村長に松寿丸様が自身が編集して持ち寄った農書を使い、戦国の世でも出来る米の育て方を1から説明していく。
ライトを持ち込んで2日説明すると田植えでなぜ均等に育てた方が良いのか、苗から育てる利点等を理解して、村長は松寿丸様に心酔し、松寿丸様から薩摩芋を渡され、これを空いている荒れ地で育ててみるように説明された。
葉、ツル、芋全て食べられる薩摩芋は餓えから解放してくれるだろうと……。
それから村長は村人に号令し、松寿丸様に仕える若者達に説明させながら薩摩芋を植えていくのだった。




