1508年 椎茸栽培と養蜂準備
年が明けてから、私達は椎茸栽培と養蜂に向けた準備を始めていた。
その為に松寿丸様自らが近くの村に出向き、村長と人員を貸し出して欲しいと交渉していた。
「若様、我々も毛利家に従う一族でございますが井上一族の監視もあり大々的に動くことは難しく……」
「そこをどうか頼むのじゃ。支払いは使用する農具や工具を与える。なに、部屋住みになっている次男以下の男児で良い。難しいことはさせんし、ワシが城に戻れば直臣として取り立てても良いと思っておる」
「しかし……」
交渉を見ていた志道広良様が村長に話を振る。
「村長が井上衆による報復や追加徴税を恐れていることは分かるが、双方利のあることをしようとしているのだぞ。成功すれば村に金が入る……どうだ?」
「村の衆と一度話しまする故にまた後日……」
「分かった。また来る」
人手が欲しい松寿丸様と村を守りたい村長では利害の調整が難しい。
しかし……村長も毛利一族の若様を粗雑に扱えば、万が一城に戻り領主になった時に報復されるのではないかと思い、手を打っていた。
翌々日、松寿丸様が住むあばら屋に若い男性20人程が押しかけた。
「若様、私達多治比村の次男以下田畑を継げない者で若様に協力したいという者を集めました。毛利様には代々世話になっておりますので若様が多治比の正当な主であることは疑いようがありません。どうぞ手足の様にお使いください」
村長はあくまで若者達が自主的に協力したという体裁を取りたかった。
しかも代表で喋った男性は村長の息子である。
「美味い食事は保証するのじゃ。報酬は後払いになってしまうが良いな」
「構いません」
こうして人手を手に入れた松寿丸様は力のある者にはノコギリを渡し、椎茸栽培の原木になるクヌギ、コナラ、ミズナラの木を切り倒し、適度な大きさに切り分けて集めておく。
手先の器用な者には蜂の巣となる巣箱作りを手伝ってもらう。
「これと同じ物を作れるだけ作って欲しいのですよ」
まず私が今回作る蜜蜂の巣箱は重箱式と呼ばれる同じ重箱を重ね、採取する時に新しい巣箱を下に入れる事で継続的に蜂蜜が採れると言う巣箱である。
ホームセンターで木材を切って貰い、あとは材料を組み立てるだけにはしておいた。
「見本がこれです」
四角い巣箱には十字の棒が入っておりこれはなんだと村人達から聞かれた時には
「蜂の巣が重さで落下しないように支え棒になります」
と答えた。
巣箱を見本を見ながら釘を使って箱にするのと持ち手を作ってもらい、それを6段巣箱のうち4段を同じ仕組みにする為、1セット4個を80個程を作ってもらう。
箱を作ってもらっている間に私は杉殿と協力して大鍋で料理を作っていく。
米を炊いて蒸らしている間に豚汁を用意する。
豚肉は猪肉と言い張れば結構なんとかなると思うし、松寿丸様や志道様達も前に豚汁を食べた時に美味いと言って食べていたので大丈夫だろう。
というか私達も合わせると27人も居るので米を炊くのも3升(30合)近く炊かないといけないため、ホームセンターで買ってきた寸胴鍋で米を炊くという、料理を作る人以外経験をしない作りをし、横の竈で豚汁を煮込んでおく。
あとこの豚汁にはさつまいもを入れており、さつまいもに早めに慣れてもらおうという意図もあった。
さつまいも栽培ができれば、飢餓はほぼなんとかなる食材だからだ。
救民作物の王さつまいもである。
そして夕方、食事時になり、作業を終えた男達が帰ってきた。
今日だけで10本の木を切ったらしい。
それをバラして丸太にし、今はあばら屋裏に纏めて置いているとのこと。
人が集まる日はこれを繰り返し行う。
夕食として出された豚汁に村人や井上俊秀、俊久、世鬼政時らは美味さに仰天し、しかも出されたのが白米のご飯にこれを食べても大丈夫なのか聞かれるが、松寿丸様が
「働いた者に礼を支払うのは常識じゃ。普請(税の代わりに働かされること 戦国時代だとほぼタダ働き)として来てもらっている訳では無いからな」
と言うと、若者達は感動していた。
「なんですかこの米は! 噛めば噛むほど甘い!」
「この黄色い芋も甘くて美味いぞ!」
「猪の臭みが無い肉じゃ!」
「味噌ってこんなに美味かったか?」
等など、各々言いたいことを言い、食事を終えると松寿丸様に
「この米を働きの褒美として貰えませぬか。これを他の者に渡せば我らが働きに来るのも納得してくれると思いますが」
「いや、この米を育てて欲しいのじゃ。この米は実はこちらに居る彩乃が神通力で美味くしている米なのじゃが、この米を育てるには特殊な方法が必要でな……上手く育てば美味さは勿論、収穫量も倍に増えるのじゃが……」
「必ず説得してみせます!」
「おお、心強いが、米は量が出せぬが、汁に入っていた芋なら出せるぞ。薩摩芋と言って薩摩より流れてきた芋を彩乃が持ってきてくれたのじゃ。これは米よりも収穫できる芋で、荒れ地でもよく育つ。育て方を今度教えるし、農書も渡すから現物のこれを蒸し焼きにしたり、汁物に入れたりして説得の材料に使ってほしいのじゃ」
「分かりました! 必ず兄上や親父達を説得してみせます! ……でも働きに応じて米もください」
「わかったわかった。量が集まったら出すから引き続き作業を頼むぞ」
「「「は!」」」
夜、私と松寿丸様が未来の家で風呂に入りながら話をする。
「かっこよかったですよ松寿丸様。村人に命令を出す姿」
「そうかのぉ」
照れくさそうに頭をポリポリとかく。
「でも男手が増えたのは良い事ですね。どの様に彼らを使います? 椎茸栽培と養蜂の準備ではそのうち余りますよ」
「うむ、ぼかし肥料作りはする必要があるじゃろ……あとは竹炭もあった方が良いじゃろうな……米作りだけでもやる準備は山のようにあるぞ」
「あとはどうしますか……他にも出来そうな事は沢山ありますが……」
「うむあとは農具も色々揃えたいのぉ」
「農具ですか?」
「うむ、鉄製の農具が行き渡るだけで村の生産力は大きく上がる。将来的には家畜も欲しいのじゃがな」
「未来でも家畜は難しいですね。特に牛と豚は国が厳重に管理しているので、生きているのを購入するのは難しいでしょう」
「ん? 馬は買えるのか?」
「馬はサラブレッドと呼ばれる速さを追い求めた品種でなければ購入するのはできるでしょう。それは計画していますので私が成人する18歳まで待ってください」
「うむ、待つぞ……しかし、未来では成人が伸びたのじゃな……」
「そうですね。戦国の世だと12前後で元服ですが、未来だと少し前までは20まで未成年だったのですよ」
「未来は隨分と過保護じゃな……」
「法律が色々複雑なのでね」
「ふーむ……」
お風呂から上がり、私は髪を乾かし、松寿丸様もタオルで体を拭く。
「うむ、サッパリした背がのびーるを飲むのじゃ!」
「はいはい、準備しますから少し待ってくださいね」
私は冷蔵庫から牛乳を出し、背がのびーると言う成長応援飲料を作る。
「これじゃこれ! うむ! 美味い!」
「ぱぁ!」
「しかし時々未来が便利過ぎて住みたくなることもあるのぉ」
「松寿丸様……」
「彩乃も未来で住もうとは思わんのか?」
「私は1度未来で死んでしまったのでこの世の理から外れてしまったのです。戦国の世に組み込まれたので戦国の世で生きていくしか無いですし……松寿丸様を私はご先祖様であるのを除いても好意を抱いていますから」
「そうか! そうか! なら立派な武士にならんといかんのぉ!」
「はい! その為には力を蓄えましょうや。毛利の多くの問題は貧乏が原因ですから金持ちになれば色々な事が楽になりますよ」
「そうじゃな! ……なぁ彩乃の未来の金はどうしているのか? 使うばっかりじゃろうて」
「宝くじというくじが当たりまして……あとはその資産の半分を株と言う投資にあてていますので、一応配当金だけでも1年間で1400万円が入ってくるようになってますので……未来の金は気にしないで大丈夫ですよ」
「そうなのか? 詳しいことは分からんが……」
「お金に困るのはもっと未来の話になるのと、過去から未来に価値がある物って結構難しいんですよね……業物の刀とか松寿丸様の似顔絵とかは価値があるかもしれませんけど」
「ワシの似顔絵が価値が出るのか? まぁ出るように偉くならんといけんな!」
「もしかしたら過去の行いで未来が大きく変わるかもしれないので頑張りましょう!」
「おうなのじゃ!」




