1507年 あばら屋の改造
あばら屋生活が始まり数日後、畳を敷いたと言っていたが、それは未来のネット通販で買った物で、折り畳み式のプラスチックで出来た人工畳を10畳ほど購入しており、それをあばら屋の床に敷いたのだ。
一応木の板が床として置かれていたが、ところどころ穴が空いていたので、一旦床を全部剥がして、ホームセンターから買ってきた床材で補修し、その上に人工畳を敷いた。
これで床の上で転がっても大丈夫だし、布団を敷くことができる。
ちなみに床を敷くのは志道様や井上俊秀、俊久様の3人にも協力してもらいながら私が行った。
初めてのDIYが床の補修になるとは……。
続いて壁だ。
今の状態では隙間風が酷いので内側の板を追加し、ブルーシートを外側の板の隙間を無くすように覆い、外壁は土壁で覆うようにした。
荒土壁は志道様や井上俊久、俊秀様の様な武士階級の人達も城の補修としてやることがあるらしく補修してもらった……というより貧乏国人の毛利家は上級家臣の家や城も他家からしたら掘っ立て小屋なので、自分の力で修理する貧乏くさい習慣があったのであばら屋程度であれば直ぐに補修できるのだとか。
松寿丸様も手伝って壁の補修を終えると、屋根の修理に入る。
といっても雨漏れしないようにビニールシートを敷いて、外部からだと目立つのでブルーシートを覆うように木材で目隠ししただけであるが、それでも保温性が段違い。
そして台所の修繕である。
これは壁を男達4人がやっている間に世鬼政時君と杉殿に協力してもらい、ネット通販で購入したクッキングカマドを2基取り付けた。
あとは古井戸の整備である。
使われていなかった古井戸があり、水をバケツで汲んでみると汚れていて、とても飲水には使えない。
一応川があるにはあるが、歩いて15分もかかるので、井戸を復活させたほうが良いと判断し、ホームセンターパイプを買いに行き、手押しポンプ本体はネット通販で購入しておいた。
……手押しポンプがネット通販で普通に買える事が凄いなぁと思う。
古井戸に手押しポンプを取り付けて、汚れてはいるが、桶で汲んだ水を呼水にしてひたすらポンプのレバーを動かす。
世鬼政時君と杉殿が奇妙な物を見る目で見ていたが、ポンプから水が噴き出すと凄い驚いていた。
ただ最初に吹き出した水は泥で濁っており、世鬼政時君と交代しながらひたすら水を抜いていく。
ジョボンジョボンと空気が入る音がし始めたので井戸の水が抜けきったのだろう。
時間が経って水が再び溜まれば使えるようになると思う。
まぁ溜まるのにどれだけ時間がかかるか分からないが……。
あとは厠を整備する。
これはボットン便所であり、穴を掘って汲み取り曹に繋げてという作業を行った。
とりあえず住む住居はこれで完成である。
私は住居の完成を祝い、未来の食材をつかって鍋を作る。
モツ鍋である。
持ち込んだ長机の上にカセットコンロと土鍋を置き、クッキングカマドで米を炊いて、土鍋に食材を投入して煮込むこと十数分……。
あっつあつの白米をお茶碗に山盛りにして、鍋を開けると良い匂いが部屋に広がる。
「ううん……これよこれ」
「美味そうじゃな!」
「こ、これ僕も食べていいの!?」
各々反応しながら箸を配って食事を開始する。
「「「いただきます」」」
鍋から具材をよそう時に井上俊秀が
「これはなんじゃ?」
とモツを指差す。
「今回は牛モツ……牛の内臓を使いました。未来では絶品として食べられているもので、食あたりが起きないように加工されています」
「牛の内臓か……普通は食べてはならんが……あむ……むむ! なんじゃこれは! う、美味すぎる!」
「俊秀殿そんなに美味いのか?」
「美味いのなんの、俊久も食べてみろ。腰が抜けるぞ!」
「では……おぉ! プリンと柔らかく、噛み応えがあり、汁と絡み合って絶品ですな! これは凄く良い! 惜しむのは私にこの美味さを上手く説明できる語彙が無いことです」
世鬼政時君はあまりの美味しさに涙を流しているし、未来の米を経験していなかった世鬼政時、井上俊久、俊秀の3人はお米の美味さにも感動していた。
「噛めば噛むほど甘みが出てくる……こんな米を食べてしまったら普通の米には戻れませんぞ」
「しかり、しかり……美味すぎる」
皆ガツガツと食べすすめて完食。
「ふぅ……満腹で幸せだ」
「こんな飯が毎日食べられると思うと感動します。彩乃殿、是非とも松寿丸様に嫁いでくだされ……末永く毛利に頼みます」
「勿論そのつもりですよ……さて食べたら今日は疲れたと思いますので寝ましょう。薄いですけど皆さんの布団も用意しましたので」
「おお、かたじけない」
「布団という寝具を試してみたかったからありがたい」
井上俊秀、俊久2人は薄着になり布団に入ると直ぐに爆睡。
世鬼政時君も疲れていたのか布団に入ると静かに眠ってしまった。
「全く、主君が目の前に居るのに爆睡とは……一応2人は警護兼見張りなのだぞ」
「志道様、俊秀様も俊久様も疲れているのですから……今夜はどうします? これから私は松寿丸様と少し勉強しますが」
「どんな勉強をするのだ?」
「家庭科という料理の勉強についてです。知れば病気を防ぐこともできますよ」
「面白そうだ。我も受けようぞ」
「杉殿はどうされますか?」
「私も受けようかしら」
こうして夜の勉強をするのだった。
この日は松寿丸様と農業用の本を買いに本屋に来ていた。
「ほほう……凄いのぉ! 凄いのぉ! 本がこんなにも沢山! まさに知の宝庫じゃ!」
「予算が限りあるので今回は農業に関する本を買いますよ」
「でも彩乃、ネット? とやらで農業学校なるところの教科書を購入したと聞いたが」
「それも使いますが、複数の本から情報を集めることも大切ですよ……例えばこれ」
「ふむ?」
「山で1人暮らしをしようという題名の本ですが、ここには山で1人暮らしをするための技術が書かれていたり……あとはこっちですね」
私は江戸時代の農業書と書かれた本を手に取る。
「戦国の世が終わると室町は終わり、江戸時代という250年の太平の世が訪れますが、その時代に農法はどんどん進化していきました。そこで使われた農法について纏められた本になります」
ちなみに派生で明治農業改革期と言う本も置かれていたので購入する。
「現代の米を作るには、現代の農法に近い農法で作物を育てないと上手く育たない、作物もデリケートになっています。ただ戦国の世に比べて現代では米の収穫量も跳ね上がります。問題です! 戦国の世で1反(田んぼ1枚の面積 約10アール)では150キロ……5俵の米が取れました。同じ面積で現代の農法だとどれくらいの米が収穫できるでしょう」
「ふむ……250キロくらいかのぉ?」
「正解は550キロです」
「550キロじゃと……えっと1石が150キロじゃから……約3.7石か?」
「はい! ただしこの収穫量は肥料等を適切に投入しなければなりません。肥料を作るには色々な労力が居るのでそれを農民にどうやっておこなってもらうかも考えないといけません」
「ふむ……まずはワシ達の話を聞いてくれる撒き餌が必要じゃな」
「はい! 志道様の様な領地持ちの方の農民に手伝ってもらうか近所の農民を動かすか……人を統率する勉強になりますね!」
「うむ……考えねばならんな……」
「さてと農業の本だけでもこれだけ集まりましたよ!」
と私はカゴいっぱいの本を見せる。
「うむ……これを頭に叩き込まねばならんな」
「要点を写本していくことで覚えられると思うので、紙は用意しますからこれからはガンガン写本の時間ですよ! 頑張りましょう」
「うむ!」




