きえたいちねんせい
学校が終わってからも私は帰って来ませんでした。
家から学校に問い合わせが入り、担任は全員帰したとのこと。
通学路に居ないか当時残ってらした先生方が捜索、連れ去りを疑っていざという時の為に身代金の用意を会社にお願いして飛んで帰って来た父。
近くの山林やため池へ迷い込んだなども考えられた。
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で、当の私は、本当に消えていました。自身の意思ではないのですが見えない存在となっていたようです。
作文を書きあげてから提出して帰る予定でした。
教室には知らない子がいました。
「どうしたの、居残り?」
「うん、これ書いたら帰る。君は?」
「居たいからここにいる」
「帰らないの?」
「帰れない」
「うーん、用もないのに残ってたら怒られるよ。帰りなよ。」
「じゃあ、君が帰る時に帰ろうかな」
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書き終えて、ランドセルを取りに行って、あ、さっきの子帰ったのか。いいや、帰ろ帰ろ。
戸を開けたら廊下が暗い、振り返ると教室が真っ暗、電気を点けると時計があり得ない時刻を指してる。
電気を消し、戸を閉め、出口へ向かう。閉まってて開けられない。上履き入れをよじ登り窓を開けて脱出した。
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遅くなったけど、帰って来れた。何してたの? とか訊かれたけど、ずっと教室で作文書いていたとしか言いようがない。
当時の街灯は暗かったけど、自動車のヘッドライトで照らされた道路で迷うことはなかった。