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配慮

「ハルさん、一旦人の姿に戻って下さい」

「え? どうかしたんですか?」

「足の容態を見ておきたくて。さっき飛び乗ってましたし……奥の部屋は、外から見えるかも知れないのでこっちで」


 圭君に抱えられたまま部屋の方へと戻って来たのですが、圭君は奥の部屋へとは行かず、洗面所の方で私を降ろしてくれました。

 外で警察に張り込まれている事も考慮して、外から光や影が見えない場所にしてくれたんですね。

 棚に飛び乗ったくらいで少々大袈裟な気もしますが、これだけ心配してくれているので、人に戻って何も問題ないのだという事を分かってもらおうと思います。


「悪化はしていないみたいですけど、もうあんな危ないことをしたらダメですよ。痛みは大丈夫なんですか?」

「全然大丈夫です。そんなにこの足を軸にしてないですし……」


 圭君は包帯をとって、足の状態を確認してくれました。

 触られるとやっぱりまだ少し痛みますが、もう歩けない程ではありません。

 それにさっき飛び乗った時だって、本当に全く軸足にはしていないんです。

 だから圭君には安心してほしかったのですが、


「ハルさん、嘘はダメなんですよね? 本当に痛くないんですか?」


なんていう聞き方をされてしまいました。

 "大丈夫か"と聞かれれば、大丈夫なので大丈夫だと答えますが、"痛くないか"と聞かれれば、痛いものは痛いんですよね……


「……多少、痛いです」

「なら、もう無茶はしないで下さいね」

「はい……」


 私に大丈夫だと言わせない為に、敢えてこういう聞き方をしてくれたのでしょう。

 底知れぬ優しさを感じますが、同時に心配性が過ぎるとも思います。


 本当に大丈夫であるのだと改めて言おうかと思ったのですが、圭君は私の足を優しく持ったまま、固まっていますね?

 随分と暗い顔をしているようにも見えますが……


「圭君? どうかしましたか? 大丈夫ですか?」

「あ、いえ……すみません。少し考え事をしていて……えっと、包帯巻き直しておきますね」

「ありがとうございます」


 声をかけると少し動揺した様子で包帯を巻き直してくれましたが、何を考えていたのでしょうか?

 私の怪我の治りの速さに驚いていたのでしょうか?

 自然治癒力が高いとは言いましたが、ここまでとは普通思いませんもんね。

 気味悪がられても仕方のない事です。

 ……ですが、そんな感じでもないんですよね?

 圭君に私を嫌悪している様子は見受けられませんし。


「そういえば、洗濯……じゃなくて浄化、ありがとうございました」

「いえいえ、これくらいの事しか出来ませんからね。他にも私にやれる事があったら、何でも言って下さいね」


 圭君は洗面所の方へと視線を移して、私がさっき浄化した洗濯物を気にしていました。

 そしてそのまま、除けてあったコンビニの制服を持って……


「あっ、それは……」

「何でこれだけたたんであるんですか?」

「えっ、そこですか? ん~、他の衣服の中に下着とかがあったら、私に触られるの嫌かな~って思ったので、他はたたみませんでした」

「それは……僕の配慮が足りず、申し訳ございませんでした」

「いえいえ、圭君が気にしないなら全然いいんです。明日からは全部たたんでおきましょうか?」

「さすがにちょっと恥ずかしいので、たたまなくて大丈夫です」


 浄化したとはいえ、元は血がついていた気味の悪い服です。

 捨てようと思っていたものをこうして浄化されてしまえば、使った方がいいように思わせてしまいますよね。

 圭君がじっとコンビニの制服を見ていたので、その事で悩ませてしまったのかと思い、浄化したからといって捨ててもらっても構わないと言おうしたのですが、圭君はそんな事は気にしていなかったみたいです。

 下着の事も今私に言われて初めて気にしたみたいですし、あまり自分がされて嫌な事を考えないのかもしれませんね。


「ハルさんはもうお風呂入りました?」

「いえ、私は自分を浄化しているのでお風呂も必要ありません」

「僕は帰って来たらお風呂に入って寝る生活をしているので、必要であれば先に入って下さいね?」

「えっ? 圭君は帰ってからご飯を食べないんですか?」

「あ、すみません……ご飯作りますね。いつもこの時間は作らないので忘れていました」

「いえ、私は特にお腹が空いているわけではないので大丈夫ですが、圭君はいつも1日2食生活なんですか? お仕事がお休みの時も?」

「そうですね。バイトの有無で習慣を変えるのもどうかと思いますし、寝る直前に食べるのは体に良くないと思うので、いつも食べないんですよ」

「それも体に良くない気がしますが……」


 お風呂も私を優先してくれようとしていますし、普段は作らない食事も作ろうとしています。

 面倒見が良いのは分かりますが、自分の家でいきなり現れた他人にここまで尽くすだなんて……


「ハルさんは僕に合わせなくていいので、お腹が空いたら好きに食べて下さいね。今、作っておきましょうか?」

「いえ、そもそも私は空腹になる事がないので、何日食べなくても基本的には大丈夫なんです」

「そうなんですか……」


 本当にずっと私の心配ばかりしてくれています。

 しっかりと食事をするようにというのを怒りたいところではありますが、私自身が食事を必要としない体質である以上、人の事が言えませんからね。

 もっと、自分の事を優先してくれたらいいのに……

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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