特攻
圭君が彼等に連れ去られた事は明白です。
まずは圭君の行方を追わなければいけません。
キツネに化けて、圭君の匂いを覚えます。
この匂いを辿って……行けそうですね。
匂いが夜風に紛れてしまっているとはいえ、キツネの嗅覚を以てすれば追う事は可能です。
いつもなら嗅覚は調整して、動物本来の嗅覚を抑えているのですが、今はそんな事も言っていられませんからね。
本当に、ここまで腹立たしいのはいつ以来でしょうか?
まさか圭君を連れ去るだなんて……
段々と圭君の匂いが濃くなって来ましたね。
このあたりにいるのでしょう。
こんな、廃倉庫に……
なかなか圭君が見当たりません。
入って行けそうな通気口等の穴もありません。
猫に見られたと判断して圭君を攫う人達ですからね、小動物対策をしてきているのでしょう。
ただ、現状の私は聴力もキツネ本来のものですからね。
本来なら聞こえない声も聞こえてきます。
もちろん他の全ての音を拾ってしまうので、集中しないと特定の音だけを拾う事は出来ないのですが……
「逃げれない事、ご理解いただけました? 貴方は逃げられませんし、呼ぼうが呼ぶまいがあの女は来るしかないんですから。もう時間の無駄ですよね? あの女を呼んで下さい」
あぁ、声が聞こえてきました。
あの石黒さんの声ですね。
どうやら圭君に私を呼ぶようにと言っているみたいです。
ここに圭君がいる事は確定しましたし、とりあえず警察に連絡をします。
ただ厄介な事に、あの石黒さんは警察でもあるんですよね。
下手に説明すれば全て隠滅されてしまう可能性があります。
だからこそ、ここは端的に連絡させてもらいます。
♪♪♪♪♪
「はい、110番です。事件ですか、事故ですか?」
「◇◇の第4倉庫。大至急向かって下さい」
プツッ……
さて、行きますか。
警察が来る前に終わらせましょう。
聞こえて来る声からして、あまり良くない状況みたいですし……
「貴方があの女を呼ばないなら、この熊さんが死ぬことになります。もう待つのも飽きたものですからね」
「なっ!? そ、そんなの……」
「まぁ、兄ちゃん。気にすんな。俺は兄ちゃんが本当に連絡できないって分かってからな。ここで死んだとしても兄ちゃんを恨んだりしねぇよ。ただなー、娘の花嫁姿が見たかったなー」
「それは残念でしたね」
「全くだな」
「石黒さんっ! やめて下さいっ!」
「ではどうします? 連絡しますか? 無関係な熊さんを見殺しにしますか?」
圭君と一緒に捕まっている刑事さんのピンチのようですね。
急いだ方が良さそうです。
「うわっ!」
「うわぁぁぁー!」
倉庫の入り口で見張りをしていた方の頭上に飛び乗り、そのまま体をねじって尻尾を当てて、気絶させていきます。
微弱ではありますが、雷も生み出しておいたので、当分起きる事はないはずです。
最近このキツネの姿で戦う機会はありませんでしたが、だからといって動きが鈍ったという事はありません。
鍛練は常々怠っていないつもりですから。
「おい、なんだ?」
「なんか変なのが入ってきて……」
「き、キツネです! 急にキツネが入ってきて暴れてます!」
「キツネ? なるほどな! すぐに殺せ。そのキツネに何かついてればそこから調べられる」
「分かりました!」
「まさか動物だけ送り込んで来るとは思いませんでしたが、これではっきりしましたね。あの女は近くで見聞きしているのでしょう。とりあえずキツネを殺してから話し合うとしましょうか」
銃を持って来ましたね。
猫の時に撃たれましたし、動物も躊躇うことなく殺しているのでしょう。
とはいえ、ここまで開けた場所であれば、銃弾なんて容易に避けられますが。
ドンッ バンッ ドドンッ
「やめてくださいっ! キツネが死んじゃうじゃないですか!」
「貴方を助ける為に動物を差し向けたんですね。もう貴方とあの女の繋がりは明白です。どうですか? あの女への連絡先さえ教えて下されば、あのキツネも殺しませんよ」
「僕は本当に知らないんです!」
ドンッ ドンドンッ
「そうですか。キツネは死んでもいいということですか」
「そうじゃないです!」
圭君が必死に叫んでいる声が聞こえますね。
私のせいでこんな事に巻き込まれ、怖い思いをしているというのに、それでもまだ自分よりも私の心配をしてくれているみたいです。
本当に、優し過ぎますね……
「うっ!」
「ぐぇっ!」
「あっ、待てっ!」
適当に倒しながら奥の部屋に行くと、捕まっている圭君を発見しました。
刑事さんも一緒に捕まっていて、その2人の前に石黒さんがいますね。
「す、すみません兄貴! そのキツネ、滅茶苦茶すばしっこくて……」
「ったく、そんぐらいさっさと殺せ」
ドンッ ドンッ
やっぱり兄貴とか呼ばれるだけはありますね。
これまでの他の人達と違って、弾筋が確実に私を狙っています。
だからこそ、避けやすいというのもありますが。
「確かにすばしっこいな! よく教育されてるじゃないですか」
ドンッ ドンッ
「くそっ! おいっ! どうせどっかで聞いてるんだろ? 人質を殺されたくなかったら、このキツネを止めて、お前が直接出てこいっ!」
動物を操っている人がいると思っているのでしょう。
流石に相手が動物に化けれるような存在だとは思いませんからね。
「おいっ! もう人質、殺すぞっ!」
ドガッ
「うっ」
石黒さんの気絶を確認。
まだまだ問題は山積みですが、とりあえず圭君が無事で良かったです。




