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桜色のネコのおまけ 〜ハル視点〜  作者: 猫人鳥


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言葉

 圭君のお家に親御さんから野菜が届きました。

 そして改めて考えると、私はずっともらってばかりで、何のお返しも出来ていません。

 これは由々しき事態です。


「私、いつも頂いてしまってるのに、何のお礼もできてないですね」

「そんなの、気にしなくていいんですよ」

「本当はちゃんとお礼を言いに行くべきなんでしょうが……」


 私は本来、不用意に人と関わりすぎてはいけない存在ですからね。

 圭君のご実家に"いつも野菜頂いてます、ありがとうございます"なんて、言いに行けないです。

 そんなことしたら、誰? ってなってしまいますからね。

 自分の事を誰なのかも説明出来ない私が、お礼を言いに行くわけには行きません。


 かといって圭君に"毎日食べに来る友人がありがとうって言ってたよ"とか言ってもらったら、それもそれで誰? ってなりますよね。

 圭君に嘘をついてもらうわけにもいきません。

 そもそも毎日ご飯を食べに来る友人がいるなんて、親御さんからしたら心配ですよね。


「ハルさん? 本当に気にしなくていいんですからね」


 圭君はそう言ってくれてますが、そういうわけにもいきません。

 というか、今までも散々頂いておいて、今さらだと思いますが……

 どうにかして、お礼を伝える方法はありませんかね?


 昔話の笠地蔵のように、急に家に訪ねて返礼品を置いて帰る……というのは怖いですよね。

 鶴の恩返しのように知らない人が訪ねてきて、泊めてほしいと頼むのも、現代で考えたらおかしな話です。

 そもそも、あれはおとぎ話だから成立する事であって、実際にそんな現象が起こる訳がないという事は誰もが知っています。

 どれだけ誤魔化したとしても違和感は残り、世界への悪影響を及ぼす事に繋がってしまうかもしれません。


「私が直接お礼を言えないので、圭君に沢山お礼を言います。だから圭君からご実家の皆様に、私の分までお礼をお伝えして下さい」


 どれだけ考えても、私には圭君のご家族に感謝を伝える事は不可能です。

 だからせめて圭君にたくさん伝えられればと思って言ったのですが、


「いえ、本当に大丈夫ですから。僕もいつも何も言ってないですし」


と、圭君は衝撃発言をしてきました。


「えっ? 圭君、ご実家にお礼の連絡とかしてないんですか?」

「しないですよ」

「……それは良くないですね」

「いや、でも、僕の実家の農家、結構忙しくて……電話とか忙しい時にしたら、邪魔になってしまいますし……」

「それでも良くないです! ちゃんとお礼を言いましょう!」 


 まさか圭君が感謝を伝えていないとは!

 これは看過できません!


「圭君はいつも野菜を送ってもらって、助かってるんですよね? ありがたいって思ってるんですよね?」

「それはもちろんです。いつも本当に助かってるし、ありがとうって思ってますよ。実家の皆も、僕が助かってるって分かってて送ってくれてるんですし……その、わざわざ電話して伝えなくても大丈夫ですよ」


 感謝をしているのは当然であり、相手も感謝している事を知っているのであれば、感謝を伝える必要はない……それが圭君の理論ですか。

 確かに親御さんは圭君が感謝していると知っているのでしょう。

 でも、だからといって圭君がどう思っているのかを知っている訳じゃありません。


 多すぎる野菜もきっと、そういう事です。

 圭君が誰と過ごし、何に喜び、どのように感謝しているのかが分からないからこそ、野菜の種類と量を多くして送ってくれているのでしょう。


「圭君。思ってるだけじゃ伝わりませんよ。ちゃんと言葉にしないとダメです」

「えっ」

「確かに近しい方なら、わざわざ伝えなくても分かってくれる事もあると思います。でもそれに甘えちゃダメですよ」

「甘え……ですか?」

「相手が分かってくれているから、言葉にしなくていいっていうのは、相手に対しての甘えです。たとえ、相手が分かってくれるのだとしても、やっぱり言葉にして思いを伝えるっていうのは、とても大切な事ですよ」


 私はこれまでにも、言葉足らずによって道を違えてしまった存在を数多く見てきました。

 分かり合っていたはずなのに、ほんの少しのすれ違いによって溝は修復できない程に深いものへと変わってしまうんです。

 圭君にそんな悲しい思いはしてほしくありません。


「分かってる事でも、言ってもらえるのと、何も連絡がないのとでは全然違いますよ。言葉の力というのは偉大ですからね」

「言葉の力ですか?」

「はい、誰でも簡単に使える力です。目には見えないけれど、とても強い力なんですよ」

「えっ、えっと……」

「ごめんなさい……ちょっと話がそれましたね。要はいつも野菜をありがとうって思ってるのなら、ちゃんと言葉で伝える事が大切って事です」

「で、でも……」


 圭君は珍しく、かなり動揺しているように見えます。

 急に伝えるように言われても、これまでずっとしていなかったのなら緊張してしまいますよね。


「電話で伝えるのが難しいなら、お手紙を書きましょう」

「手紙……ですか?」

「はい、そういう時のために文字があるんですから」


 自分の思いを言葉にする方法は、肉声だけではありません。

 恥ずかしくて声を発する事が難しいのなら、文字にすればいいんです!

 手紙であれば、忙しい相手の事も気遣って、相手の好きな時間に読んでもらう事もできますから。


「そうですね。手紙、書いてみようと思います」

「善は急げです! 今すぐ書きましょう!」


 圭君の心が変わらないうちにと異空間から便箋を取り出して、圭君の机の上に置きました。

 時間が経てば経つほどに羞恥心も増してしまうでしょうし、やっぱりやめようとは思ってほしくありません。

 出来る限り早く書いてもらわないと!


「えっと……でも、何て書けば?」

「思った事をそのまま書けば大丈夫ですよ! 圭君の本心を、偽りなく、ちゃんとお伝えしましょう。必ず伝わりますから。さっきも言いましたが、言葉の力は偉大ですよ!」

「ありがとうございます。書いてみますね」

「はいっ! 是非そうしてください。私がいたら書きにくいと思うので、キッチンの方でフィナンシェ作ってますね」

「あ、お気遣いありがとうございます」


 圭君は優しく笑って便箋に向き合ってくれました。

 結局私が感謝を伝えるという事は出来ていませんが、これまで正しく伝わっていなかった圭君の感謝が、親御さんにしっかりと伝わるのだという事を嬉しく思います。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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