寛容
「アキ、いますかー?」
「あら珍しいわね。ハルがこっちに来るだなんて」
先日圭君のお家で作らせてもらった紅茶のフィナンシェを持って、アキに会いに来ました。
丁度結界の確認を終えたところみたいですね。
「私に何か用だった?」
「アキにコレを渡したくて」
「ん? 何かしら? 焼き菓子?」
「私の世界ではフィナンシェと呼ばれているもので、私が作ったんですよ!」
「ハルが? ふーん……いただくわ」
アキはフィナンシェを訝しげに見てから、食べてくれました。
明らかに私が作ったという事実に、フィナンシェを不審に思っている態度で……ナツに続いて私に失礼です!
それでも食べてくれるのですからありがたいとは思いますけどね。
「まぁ! 美味しいわ! 本当にハルが作ったの?」
「私が嘘をつくはずないじゃないですか」
「それはそうね!」
物凄く喜んでくれています。
これは私も自分で自信作だと思っている出来ですからね。
元々喜んでくれるだろうとは思っていましたが、やっぱり嬉しいものですね。
「紅茶が使われているのね。私の世界ではダージリと呼ばれている紅茶に味が似ているわ。香りもいいし、質のいい紅茶を使ってくれたのね」
「紅茶はこのフィナンシェの作り方を教えてくれた人に用意してもらったものなので、詳しくは分かりませんが、紅茶にうるさいアキがそう言うんですからね。またお礼を言っておきます」
「うるさいとは失礼ね。でもそうね、私の分もお礼を言っておいて頂戴ね」
アキと話していると、
「アキーっ!」
バサッ!
と、空から大きな鳥が飛んできて、アキに飛び付きました。
結構な速さだったので鳥に見えましたが、実際には鳥ではなく、背中に大きな翼をもった男性なんですけどね。
「カイ、そっちは片付いたの?」
「うん! だからアキの手伝いに来たんだけど、終わってたみたいだね」
「今終わったところよ……って、抱えなくてもいいわよ」
「お疲れ様」
「そんなに疲れてはいないわ。だから降ろして」
「俺はアキを抱えていたいから!」
「もう、仕方ないわね……」
この現れるや否やアキに抱きつき、更にはアキをお姫様抱っこしたカイという男性は、アキの旦那さんです。
仲がいいのも、公衆の面前でイチャついているのも、この2人にとっては平常運転なんですよね。
「ところでアキ、それは?」
「今ハルにもらったの。とっても美味しいのよ。ほら、カイも食べて?」
「んー! 凄く美味しい! 外側はサクッとしているのに、中はしっとりしていて……ハルさん、ありがとうございます! どうやって作るんですか?」
「ふふっ、カイが作ってくれるの?」
「作るよ! アキが好きなものは全部、俺が作れるようになるからね」
「それは楽しみだわ」
本当にこの夫婦は、羞恥心というものがないんですかね?
こんな当たり前みたいに食べさせてあげて……あれ? そういえば私も前に圭君に食べさせてあげてしまいましたね?
もしかして私、かなり恥ずかしい事をしてました!?
だからあの時の圭君は、あんなにも動揺して……?
「ハルー? 聞いてるのー?」
「ハルさーん?」
「え、え? なんですか?」
「だから、これの作り方よ」
「俺も作れるようになりたいので、作り方を教えて下さい」
「あぁ、作り方ですね……」
やっぱりこうなりましたね。
アキは紅茶に目がないですし、カイは常にアキを喜ばせる事ばかりを考えています。
そしてカイは、アキが自分の作ったもの以外を褒めたりすると、すぐに対抗心を燃やすんですよね。
だからこそ作り方を聞いてくると思っていました。
「作り方を教えてほしかったら、態度を改めて下さい!」
「え?」
「アキが反省しない限りは教えないという事です!」
「反省しましたー! ハル様ー、どうか私めにフィナンシェの作り方を教えて下さいませー」
「なんですかそれ……」
アキは明らかにふざけています。
そんなアキを優しい目で見つめているカイも、全くアキに反省をさせる気はなさそうで……
「あの、ハルさんはアキに何を反省してほしいんですか?」
「この間の件ですよ! いえ、この間だけじゃありません! いつになったら自重するんですかっ!」
「じちょー? してるしてるー」
「してませんっ! アキがやらかす度にミオが証拠集めをして、私が資料を纏めているんですよっ!」
「えぇ、いつもありがとう!」
「可愛い……」
「カイっ! 惚気ている場合ですかっ! 貴方がちゃんと怒らないのも悪いんですよっ!」
「あ、すみません……」
アキは満面の笑みでお礼を言ってくれましたが、私はお礼を言ってほしいのではありません。
反省して、自重してほしいんです。
アキが"自由"を司る存在だというのは分かっていますが、それにしても自由が過ぎます。
「反省したから、フィナンシェの作り方を教えて?」
「もう問題を起こしませんか?」
「それは約束出来ないけどー」
「じゃあ教えません!」
「ハルさん、お願いします。俺も出来る限りはアキを止めますので……」
「出来る限りとは、どれくらいですか? カイはアキに甘すぎるじゃないですか」
「うっ……でも、アキも本当に反省してるんですよ? この間もハルさんやミオさんに迷惑をかけてしまった事を気にしていて……」
「カイ、その話はしなくていいわ」
2人のこの様子からして、アキは本当に反省しているみたいですね。
素直にそう言うタイプではないのでふざけていたみたいですが……
まぁでも私も、嘘嫌いを直せと言われてもそう簡単には出来ませんからね。
アキの自由過ぎる行動は、今回も目を瞑ってあげるとしましょうか。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




