限定
圭君と一緒にフィナンシェ作りをしています。
初めは勉強の邪魔をしてしまったようで申し訳ないように思っていましたが、圭君は楽しそうに教えてくれていますし、圭君と一緒に作るこの時間は、表現し難い感覚があります。
楽しさ以外にも何か思っている感じがするのですが、この感じに合う上手い言葉が出てきませんね。
「このバターの出番はまだなので、こっちに置いておきます。次は生地の方ですが、こっちもちょっと難しくて」
「頑張りますっ!」
「ハルさんがやる気満々みたいで良かったです。とりあえず先に、薄力粉とアーモンドプードルを混ぜて、一緒にふるいましょうか」
「何故別々にふるわないんですか?」
「粉を均一にするためと、後のグルテンの形成を抑制するためですね。あ、グルテンは」
「粘りけですね?」
「そうです」
グルテンもちゃんと知識としては分かってますよ。
パンとかには大切な要素だという事は知っていますが、フィナンシェにはグルテンは必要ないようです。
「では、次は卵白ですが、これはあんまり泡立てないように混ぜてください。空気を含んでしまうと、焼いたときに変な風に膨らんでしまいますから」
「泡立てないように、ですね! 了解です!」
「卵白がほぐれたら、砂糖を入れて下さいね。今日は砂糖ですけど、よりしっとりとさせたかったら、ハチミツとか使っても美味しいですよ。その辺もハルさんの好きなようにアレンジしてくださいね」
「おぉ~、いいですね。ハチミツ」
焦がしバターに、ハチミツにと、フィナンシェもまたクッキーみたいにアレンジが色々と出来そうですね!
少し胸の辺りに違和感は感じますが、この違和感は不快感ではありませんし、あまり気にしないでおきましょう。
そんな事よりも、どんなフィナンシェにするかを考えないといけませんからね。
「砂糖が混ざったら、さっきふるった粉を入れて下さい」
「これは混ぜすぎない方がいいんですよね?」
「そうですね。完全に混ざりきってなくても大丈夫ですよ」
「混ぜすぎると、グルテンができちゃいます?」
「そうですね」
こうして質問をした時に、圭君はふっと優しく笑ってくれます。
これは何かこう……もっと質問したくなりますね。
迷惑をかけたい訳じゃないんですけどね?
「粉っぽさがなくなったら、さっきの焦がしバターを入れて混ぜます。バターの温度は熱すぎるのはよくないんですが、冷ましすぎも固まってしまうので、50℃くらいを目安にしてもらえれば大丈夫ですよ」
「なかなか難しいですね……」
"温度調節の力"を使えば一発なのですが、圭君がこうして教えてくれているんですからね。
特別な力は出来る限り使わないで、圭君が教えてくれる通りに作りたいと思います。
「混ざったらすぐに型に流していきます」
「クッキーの時みたいに、生地を休ませたりしないんですか?」
「フィナンシェの場合は、生地を休ませてしまうと乳化が壊れて分離してしまうので、休ませませんよ」
「同じ焼菓子でも色んな違いがあるんですね」
焼いたら簡単にお菓子が出来ると思っていた訳ではありませんが、こうも違いがあるというのは驚きです。
そして、そういった違いをしっかりと覚えている圭君が、本当に凄いと思います。
「あとは焼き上がるのを待つだけですね」
「じゃあ私は片付けをしておくので、圭君は勉強頑張って下さいね」
「はい、ありがとうございます。お願いします」
焼き上がりを待つ間に、いつも通り片付けをさせてもらいます。
『浄化』、『浄化』、『浄化』っと……
これでキッチンはもちろん、脱衣所や洗濯物、玄関も全部綺麗になりました!
これくらいしか圭君の役に立てませんし、私に出来る限りの事はやらせてもらいたいと思います!
ピーッ! ピーッ!
フィナンシェ、焼けたみたいですね。
美味しそうないい香りです。
「圭君、できましたよ!」
「えっ……」
型から外して圭君が勉強をしている方へと持って行くと、圭君は少し驚いていました。
集中して勉強をしていたところで驚かせてしまったのかと思いましたが、圭君の勉強はあまり進んでいないように見えます。
何か考え事でもしていたのでしょうか?
以前のようにネガティブな悩みでもあるのかと思って、聞こうとしたのですが、
「あ、折角なんで出来立てのフィナンシェ、食べてみて下さい」
と、圭君にフィナンシェを食べるように促されてしまいました。
「この出来立てをですか?」
「はい、是非すぐに」
「じゃあ、いただきます……ん! これはあのフィナンシェとは全然違いますね! 外はカリッとしているのに、中はふわっとしています!」
「そうなんですよ。焼き菓子の中でもフィナンシェは、特に出来立てと、出来てから時間が経ったものとの差が大きいんですよ」
圭君は何故かすぐにフィナンシェを食べてほしそうだったので、1つ食べてみたのですが、あの外はサクッと、中はしっとりとしているものとは完全な別物でした。
これはこれで美味しいですね!
「時間が経つと、サクッとしっとりのフィナンシェになるんですか?」
「そうですね。どっちが好きですか?」
「ん~、どっちも好きです! 圭君はどっちが好きなんですか?」
「僕は時間がたって、しっとりとした方が好きですかね。でも出来立ては作った時しか食べられないので、今しか食べれないという限定感があって、食べたくなりますよ」
限定感で食べたくなる……なるほど!
「はい、どうぞ」
「えっ?」
「ほらほら、口を開けて下さい。限定感がなくなっちゃいますよ」
「えっと……自分で食べれますよ?」
「いえいえ、もう口を開けるだけですよ」
「じゃ、じゃあ……いただきます」
すぐに食べて欲しかったので、圭君の口元にフィナンシェを持っていきました。
圭君は勉強中でしたし、食べる為に手を洗いに行くのも面倒だと思いますし。
食べさせてもらうのが子供っぽいからか、圭君は少し動揺しているみたいでしたが、口をあけてくれたので、食べさせる事に成功しました。
人に食べさせるという経験は初めてでしたが、なんか……可愛いですね!
「どうですか?」
「美味しいです。ありがとうございます」
「じゃあ、明日はフィナンシェを色々とアレンジしてみますね!」
「そうですね。紅茶とかも合いますよ」
「紅茶! いいですね。紅茶好きの友人にあげたいです」
アキは紅茶が大好きですからね。
紅茶のフィナンシェを作って、アキにプレゼントするとしましょう!
そして、先日の反省をさせるんです!
「合いそうな物、色々用意しておきますね」
「ありがとうございます」
圭君に甘え過ぎで本当に申し訳ないとは思いますが、とてもありがたいです。
さっき圭君は、しっとり感を増すのならハチミツをとも言っていましたし、きっと他にも自分好みのフィナンシェを作る方法があるんでしょう。
色んな種類のフィナンシェが楽しみです。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




