余熱
「おはようございます、圭君」
「おはようございますハルさん、今日は回鍋肉を作ってみました」
「おぉっ! 美味しそうですね!」
「初めて作ったので、ちょっと自信は無いですけど……」
今日もいつものように圭君家にお邪魔しています。
毎日美味しいお昼ご飯を頂いていますし、本当にお世話になりっぱなしです。
そして毎日、料理にはキャベツが入っています。
圭君のご実家から野菜がよく届くとのことでしたが、そんなにキャベツばかりが届きはしないでしょう。
つまり圭君は、私の為にキャベツを買っているという事です。
確かにキャベツは好きですが、無いものをわざわざ買ってまで用意しているなんて、流石に優し過ぎです。
それにいつも違う料理にキャベツを使ってくれています。
あまり料理に詳しくないので分かりませんが、そんなにキャベツを使った料理は多くないですよね?
今日のご飯もホイコーロー? とかいう、この国らしくない名前のものですし、圭君も初めて作ったのだと言っていました。
私に色んなキャベツ料理を出す為に調べてくれているのなら、本当に申し訳なく思います。
「圭君? 無理にキャベツを入れようとしなくてもいいんですよ?」
「えっ? 無理には入れてないですよ。あ、でもそんなにいらないですか?」
「いえいえ、キャベツは好きですから嬉しいのですが、いつも入っているので……その、私は野菜なら何でも好きですから! 圭君の無理のない範囲でお願いします」
「全然無理なんてしていませんよ。今日の回鍋肉だって、作ったことが無かったから作ってみたかっただけです。ハルさんが一緒に食べて下さるのは嬉しいですし、料理のレパートリーも増やせていますからね。本当に僕も楽しんでいますよ」
「それならいいのですが、変にキャベツ縛りとかしなくていいですからね?」
「分かりました」
一応圭君に聞いてみましたが、無理をしている訳ではなく、圭君自身も楽しんでいるのだと言ってくれました。
本当に優しいですね。
「ハルさんって、辛いのは大丈夫な方ですか?」
「滅茶苦茶激辛でなければ、大丈夫だと思います」
「じゃあ明日は麻婆豆腐に挑戦してみますね」
「はい、楽しみにしてますね」
明日はマーボードーフ? とかいう名前のを作ってくれるそうです。
その料理がキャベツ料理なのかは知りませんが、キャベツ無しでいいとお伝えしたばかりですからね。
多分キャベツは入らない料理なんでしょう。
キャベツが入っていないからといって、楽しみではない訳ではありません。
圭君は料理のレパートリーが増える事が嬉しいみたいですし、私も圭君の色んな料理を食べてみたいですから。
もちろんキャベツが入っている料理も、変わらず大歓迎ですけどね。
「じゃあ、今日はフィナンシェを作ってみましょうか」
「えっ? 昨日のですか?」
お昼ご飯を食べ終わったところで、圭君はそう言いました。
昨日の美味しかった焼菓子を作らせてくれるみたいです。
「昨日の程美味しいものは出来ませんよ。それにうちにはフィナンシェ型がないので、完璧なフィナンシェは作れません」
「型? ですか?」
「フィナンシェは"金持ち"とかの意味があって、フィナンシェ型って呼ばれる金塊の形の型で作るんですよ」
「あー、あれは金塊の形だったんですね」
なるほど、金塊の形ですか。
確かにあれが積んであったら、金塊の山みたいに見えますね。
でも形が違うだけですよね?
それで完璧が作れないとは、圭君は料理の形とかも気にするみたいですね。
「フィナンシェ型はありませんが、普通の焼菓子型で作っていきましょうか」
「はい。またクッキーの時みたいに、オーブンは先につけますよね?」
「そうですね。あと、今回は型にそのまま生地を流して作るので、先に型にバターを塗っておきます」
「はい」
圭君は一緒に型にバターを塗ってくれていますが……
これだと圭君は勉強、出来ませんよね?
「あの、圭君? 圭君の勉強の邪魔はしたくないので、いつもみたいにやり方さえ教えて頂ければ、あとは頑張りますよ!」
「いえ、フィナンシェはちょっと、説明しづらい工程があって……なので最初は僕も一緒にやりますよ。勉強もたまには息抜きをしたいですから」
「そうですか? それならよろしくお願いしますね」
クッキーの時は、作り方だけ教えてもらいましたが、フィナンシェは一緒に作ってくれるみたいです。
勉強の邪魔になると思ったのですが、息抜きをしたいと言われてしまいました。
確かに毎日ずっと勉強は疲れますよね……
「最初に、1番説明しづらい焦がしバターをつくっていきますね」
「焦がしバターですか?」
「はい。フィナンシェの1番の特徴ともいえるのは、この焦がしバターです。バターを敢えて焦がして茶色くするんですよ」
「あぁ、メイラード反応ですか」
「そうです。これがフィナンシェの芳ばしさの決め手になるので難しいですよ。少し色が付き始めたと思ったら、すぐに色が変わってくるので」
メイラード反応を実際に使った事はありませんが、知識としては知っています。
糖がタンパク質やアミノ酸と、熱したりすることで褐色物質を作る反応ですね。
芳ばしくするのに利用されているそうです。
「どれくらい焦がすんですか?」
「僕は結構濃いめに焦がしてある方が好きなので、今日は少し濃く焦がしますね。でも好みにもよるので、色々試してハルさんの好きなように作って下さいね」
圭君は濃く焦がしたものが好きと……
覚えておきましょう!
「焦がしているときは常に混ぜていて下さいね。火の通り方にムラができてしまうので」
「はい!」
「こんなもんですかね、っと」
圭君は結構焦がしたバターの入った鍋を、火を止めてコンロからはずすと、
ジュー
と、濡らしておいてあった布巾の上にのせました。
そして一度その布巾をとり、もう一度濡らしてまたその上に鍋をおいて、
ジュッ
と、しています。
「これくらい鍋のあら熱がとれていれば、置いている間に鍋の熱がバターを余計に焦がしてしまうのを防げます」
「なるほど~、今のは鍋を冷ましていたんですね」
「布巾をもう一度濡らす時は多少熱いので、気をつけて下さいね」
「はい」
確かにこれは、実際にやって見せてもらう方が分かりやすいですね。
それに圭君がこうして隣で料理をしてくれているのを見るのは……なんというか、とても……?
何でしょうね? この気持ちをどう表現したらいいのかが分かりません。
楽しい事は間違いないのですが……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




