友人
「失礼します。ナツ姉様、扉が開きっぱなしなので、外まで全部聞こえていますよ」
「「カナ!」」
ナツからの長い栄養語りを聞いていると、カナが来てくれました。
今日は珍しい来客が多いですね。
ナツが直した扉は開いたままの状態になっていたので、今のナツの声はかなり響いていたみたいです。
「カナ、お前からも言ってやれ! ハルは栄養を全く大切にしていないんだ」
「ナツ姉様、それは人選ミスです。私も栄養を大切にしてはいませんので」
「ですよねー! 栄養なんて、結局は生命力で補えるんですから」
「いえ、ハル姉様。栄養を生命力で補えるからといって、食事をしないというのは間違っていると思いますよ。私達は人ではありませんが、人の子ではあります。ならば、人らしく生きるものでしょう?」
「それは……」
「もちろんこれは私の考え方であり、強要するつもりはありません。ですがハル姉様、貴方は人から外れた生活をし過ぎているようにも思います。そちら側として生きていかれるというのなら何も口出し致しませんが、これからもそうして人の世で暮らすおつもりなのでしたら、今一度価値観を改めてみては如何ですか? 」
「……はい」
カナは私のデスクに置いてあったクッキーを指しながら、剣のある声でそう言いました。
カナの言う事は最もだと思います。
いつも動物に化け、食事も必要とせず神様と談笑している私は、人とは呼べません。
ですが私は、人が暮らす建物に住み、人の日常に干渉し、人らしく料理をしているんです。
自分の世界では特別な力を一切使う事なく、人として生きるという事を徹底しているカナだからこそ、発言の重みを感じますね。
今の私のどっちつかずな過ごし方が良くないのは明白ですし……
「とはいえ、私もあまり人の事は言えませんが」
「そうだぞ、カナ! 栄養を蔑ろにするだなんて!」
「蔑ろにはしていませんよ。ただ、自分ではあまり意識していないというだけです」
「それならこれから意識しろ! バランスのいい食事を心掛けるんだ!」
「バランスのいい食事はしています。ありがたい事に私の周りには、食べろ食べろと口煩く言ってくれる者達がおりますので」
「それはいい事だ。その者達への感謝を忘れるな」
「もちろんです」
ナツもカナも、当たり前のように食事をしているんですよね。
私達は基本的に食事を必要とはしない存在で、成長に必要な栄養等は食事をしなくても生命力が補ってくれるというのに。
これが人と共に生きているかどうかの違い……なんでしょうか?
「ハル、ちゃんと分かったのか?」
「はい」
「絶対分かってないだろ。そんなんだから怪我もするんだ」
「栄養は怪我に関係ないじゃないですか」
「関係大有りだ! 栄養によって免疫力が……」
「分かりました! 分かりましたから! もう十分です!」
「十分な訳あるか!」
「ナツ姉様、落ち着いて下さい」
「うっ……まぁ、カナにも悪いし……」
カナが静止してくれたお陰で、ナツの長い栄養語りの第2部は中止になりました。
本当に良かったです。
「でもハル姉様? 本当に怪我には気を付けて下さいね? 倒れて動けないなんて事はもう起こらないように」
「大丈夫ですよ! ミオに"治癒の力"の使い方を教えてもらいましたから」
「ミオに? どのミオにだ?」
「死神様の秘書をしているミオですよ」
「あいつか。ミオはどいつも可愛いが、あいつは人形みたいで特に可愛いよな!」
「服のセンスの問題ですかね? 死神様からもらった服を着ているそうですから」
「あのゴスロリ服、死神様の趣味だったんですね……」
もう栄養の事も私の怪我の事も、完全に忘れてくれたみたいです。
ナツは可愛いものが大好きですからね。
ですが、そんな可愛いミオの話で盛り上がるナツとは対称的に、カナが少し暗い顔をしているのが気になります。
「カナはあのミオを可愛いと思わないのですか?」
「正直、あまり……見た目の話ではありませんが」
「内面って事か?」
「はい。メインのミオ以外は、どうにも機械に見えてしまうので……」
「読めてしまうからこそでしょうか?」
「そうだと思います。メインのミオは情報に一喜一憂していますが、他のミオは情報処理をしているだけですから」
カナは、自分の世界にいる時以外は基本的に"心を読む力"を使っていますからね。
ミオの心の中が見えてしまうんですよね。
そしてミオは沢山のミオと情報共有をしていますし、常に時間やら確率やらを計算しているはずです。
それが見えてしまうと、機械に思えてしまうのも無理もないですね。
「それだけミオが凄いという話ではありますが」
「そうですね」
結局そこに落ち着くんですよね。
私達は皆、本当にミオにお世話になっていますから。
「それはそれとして、ハル姉様。こちらの確認をお願いします」
「んー? またですか……」
「またです」
「何だ何だ?」
「またアキがやらかしたんですよ」
「あー」
「でもそれをカナが報せにくるなんて珍しいですね?」
「私は別件でハル姉様にお聞きしたい事がありまして、こちらに向かうついでにコレもと、メインのミオから預かりました」
「ではミオは既に対策を始めてくれているんですね」
「はい」
「なら良かったです。それで、別件というのは?」
「今度の大会の参加についてです。リリーからハル姉様が参加を希望されていると聞いたのですが?」
あぁ、そろそろ大会があるんでした。
カナは大会の実行委員の1人ですし、普段は大会に興味を持たない私が本当に参加するのかを、事前に聞きに来てくれたみたいです。
気を遣ってもらって申し訳ないですね。
「参加をすれば少しは私の評判も変わるかと思っていたのですが、やはり参加はやめておきます」
「いいんですか?」
「はい」
一度の大会で強さを示したところで、私の評判が大きく変わるとは思えません。
毎回参加していれば違うかもしれませんが、そこまでの時間の浪費はしたくありませんからね。
私も早く帰りたいですし……あれ? 何故私は早く帰りたいのでしょうか?
「ハル、どうした?」
「いえ……なんでも……」
「胸が痛いのか?」
「痛い訳では……少し違和感があるだけで……いえ、もう大丈夫です!」
「本当か? 体調が悪いのなら、直ぐに言うんだぞ?」
「本当に大丈夫ですよ」
何故かまた胸に違和感を覚えたので、思わず手を胸に当ててしまっていたのですが、ナツに心配されてしまいました。
カナは私の心も読んでいるので、私が痩せ我慢で大丈夫だと言っている訳ではない事をすぐに分かってくれたみたいです。
「今回は痩せ我慢じゃないにしろ、何かあったらすぐに相談して下さいね? 1人で悩んではいけませんよ?」
「そうだぞ! いつでも頼ってくれていいんだからな!」
「ありがとうございます」
私にはこんなにも頼れる味方がいるというのは、とても心強いです。
ですが、最近やたらと色んな方から心配をされている気がするのですが、気のせいでしょうか?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




