立場
女神様によるお説教が、約100時間程続いたところで、
「あらいけない! 書類が凄く溜まっているの! いつまでも話をしていてはダメよ! ハル、早く片付けてきなさい!」
と、やっと開放してもらえました。
一応1週間は覚悟していたので、この程度で済んで良かったです。
「失礼致しますね」
「あぁ、待ちなさい。貴方、体に異変はないの?」
「はい?」
「気分が優れないとか、悩み事があるとか……」
「いえ、特にはありませんが?」
どうされたのでしょうか?
女神様が私の体調を気にされるだなんて?
「……そう、ならいいのよ。何かあったら言いなさいね?」
「お心遣い、痛み入ります」
女神様は私の強さも回復の早さも知っておられますし、ミオに回復してもらった事も分かっているはずです。
それなのに、何故こんな心配を……?
「どうしたの? 早く行きなさい」
「言い訳にしかなりませんが、今回の怪我は不測の事態によるもので、私の力の衰えではありませんよ?」
「分かっているわ。それでも、自身の力を過信することなく、気を付けなさい」
「はい」
いつもは自分の言いたい事だけ言って去っていく女神様が、こんな事を仰られるというのは意外ですが、それほどに心配を掛けてしまっていたのでしょう。
サクも泣いていましたし、ミオまでが様子を見に来たんです。
私が思っていた以上に大事になっていたんですね。
「あ、ハル様ー! やっとお説教終わったんですね!」
「サク、報告は行ってくれたんですよね?」
「はいっ! あと書類も分けておきましたよ!」
「ありがとうございます。手が空いたらでいいので、ミオとリリーに連絡しておいて下さい」
「先日のお礼ですね! 菓子折りを用意しておきますね。ミオ様にはゼリー、リリーさんにはチョコレートでいいですか?」
「リリーはチョコレートが好きなんですか?」
「よく食べておられるのを見かけます」
「では、お願いします」
サクはトテトテと走って行きました。
本当に優秀な部下で助かります。
「これは……」
自室に入り、書類の多さに思わず絶句してしまいました。
ここまで溜まっていたとは……
サクが分けてくれていて助かりましたが、それでもかなりの量ですね。
コンコンッ!
「失礼致します。ハル様に謁見をと……」
「誰です?」
「戦神様の遣いの方ですね」
「……急用でなければ後日にして下さい」
「伝えて参ります」
戦神の遣いという事は、また邪神討伐の褒賞の件でしょう。
この忙しい時に面倒な……
「ハル様ー! 高級ゼリーと高級チョコ! 用意出来ましたー! あと、リリーさんは3日後ならこちらに来られるそうなので、来てもらうことになりました」
「そんな、こちらが出向くべきなのに」
「私もそう言ったんですけど、女神様の領域に興味があるそうなので!」
「そうですか? それならいいですけど……」
「大丈夫ですよ! この高級チョコですよ! 美味しいですよね!」
「確かに美味しそうですが……」
「ハル様も食べますー?」
「いえ、必要ありません」
「そう仰らず〜、ほらほら〜」
サクが私のデスクにチョコレートを持ってきてくれていたところで、
「お忙しいとの事でしたが、随分と楽しそうですね? 高級チョコレートで一服中とは」
という、厭味ったらしい声が聞こえてきました。
私の部屋に入ってきたのは、戦神の遣いの人です。
「後日にとお願いしたはずですが?」
「急用でしたので」
「褒賞の件ですよね? それは急用ではありません」
「そうして忘れられては困るのです。それに、どう見ても遊んでおられるではないか。我々への褒賞は用意せず、自身の娯楽品ばかりを優先するなど」
「はぁ……」
馬鹿にしたように笑っていますね……
この人はサクのように私を畏れないのとは違い、最初から私を侮っているんです。
私は一応、非戦闘員ですから。
本当はこういう事を言いたくはないのですが、早々に解決させる為ですからね。
仕方ありません。
「これは、ミオとリリーへのお礼として用意したお菓子です。貴方達以上に優先して当然でしょう? それとも貴方達は、自分達がミオ以上に優先されるべきだと言うのですか?」
「ミオ様に……」
「分かりました。ではサク、ミオに連絡して……」
「いえいえ、その必要はありません。そうでしたか、ミオ様への献上品だったのですね。それならそうと早く仰られれば良いものを……」
ミオの威厳を借りてしまって申し訳ないのですが、戦神の領域の人達は、基本的に自分達より強い者にしか従いませんからね。
ミオの名を出させてもらうのが一番早い解決方法なんです。
「見ての通り、私は今忙しいのです。帰って戦神に伝えなさい。褒賞は後日こちらから送付すると」
「その後日とはいつなのですか? 既に半年が経過しておりますが?」
「たかが半年程度で何を言っているのですか?」
「ハル様にとっての半年と、我々にとっての半年は違うのですよ。いい加減ご理解頂きたい」
「貴方こそ理解しなさい。邪神とはいえ神様への厳罰なのですよ? そう簡単に決まる訳がないでしょう?」
「仕事の遅さを棚に上げて、よく仰るものですね」
本当に話の通じない人ですね。
これも最初から私を侮っている結果なのでしょうね。
加えて私がこの3ヶ月程度休んでいたという事が知れ渡っているので、余計に自分達への褒賞が遅れていると思っているのでしょう。
ですが、この問題は単純に討伐された邪神の処分が決まっていないから、褒賞も渡せないというだけです。
邪神の処分を決めるのは死神様の管轄ですし、私が休んでいた事とは関係ありません。
とはいえそれを話したところで、言い訳だなんだと言われるだけですからね。
お説教の次は厄介事だなんて、嫌になりますね……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




