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8 祭壇の間

 広間は聞いていた通りの広い空間だった。

 形はほぼ正方形。石造りで、奥には一段高くなった一角があり、壁に祭壇らしきごてごてした装飾と神像が見える。

 内部にはゴブリンがいたが、思ったより数が少ない。


「火球!」


 予定通り、階段の下段からダークが魔法を投げ込み、広間を炎で洗った。巻き込まれたゴブリン達はなすすべもなく燃え尽きていく。

 肉の焼ける悪臭に、ダークはローブの袖で鼻と口を塞ぎ、涙目になっていた。

 魔法の炎が収まったのち、一行は広間へと足を踏み入れる。ルークが盾の光で周囲を順に照らした。


「奥に扉がありますね」


 祭壇に近づこうとしたヴィンセントが、振り返って報告する。


「こっちに穴が空いてるぜ」


 ほとんど同時に、ザッシュが右手を示した。

 扉は祭壇に向かって左側の壁だ。金属で補強した木製の扉がある。聞いていた小部屋に続いているのだろう。

 穴は遺跡の壁を破壊したものだ。手前側に石材が飛び散っていることから、向こう側から開けたことが分かる。ゴブリンの仕業に違いない。

 どうするのかと、一行の視線がルークに集まる。


「キルリーフ、敵の気配は?」


 問われた森エルフは、目を閉じて感覚に集中した。尖った耳が、ぴくりと動く。


「……穴の方だ」

「まあそうだろうな」


 神殿騎士は頷く。


「残りは地下域に逃げたのかもね。放っておく?」


 まだ涙目のまま、ダークが兄に言った。「いや」と、ルークは首を振る。


「それならば、追っていかなくては。このままでは穴を塞いでも、また同じ事になるだろう」

「そういうと思ってたけど」


 ダークはため息をついた。

 ヴィンセントは祭壇の傍で神像を見上げている。

 良く見ると神像は三体あり、中央に大きな女神が、その両脇に小さな像が並んでいた。彼はその次に、左手の扉を見遣る。


「早速行くかー?」


 と、ザッシュが穴の傍の焦げた死体を足で退かしながら尋ねてきた。


「小部屋の方も、一応確認してみませんか?」


 ヴィンセントが提案し、ルークは少し迷ってから頷いた。


「そうしよう。敵を取り残して、万が一退路をふさがれても困る。ザッシュはそこで、奴らが戻ってこないか見張っていてくれ」

「わかった」


 ルークの言葉に赤毛の青年は頷き、穴の傍で待機した。光る盾を構え、ルークがヴィンセントに近づく。ダークとキルリーフが続いた。



 扉には鍵が掛かっていなかった。

 ルークが先に立ち、念のために慎重に開いていく。


「……もぬけの空だ」


 盾の光で内部を照らしてみたが、収納が並び、床に汚らしい毛布が敷かれているだけだ。動くものの気配はない。

 一行は部屋へと入り込んだ。

 先の部屋の四分の一程度の広さで、やはり正方形をしている。壁には棚や箪笥が置かれていたので、皆はそれぞれ思うところを開いてみた。

 祭りに使っていたとおぼしき蝋燭や燭台、細々とした祭具などが見つかったが、その他にもゴブリンが持ち込んだであろうがらくたが数多く詰め込まれていた。つるつるとしたただの丸い石や、錆の浮いたコイン、何かの骨の欠片、といったようなものだ。


「あ。血晶石」


 その中で、キルリーフが引き出しから取り出した物を、ダークがめざとく指摘する。

 森エルフの掌には、正八面体をした黒い石があった。これは魔力を含有した鉱石で、太古の昔に死した魔法生物が、地中で化石化したものだ。

 限られた場所からしか産出せず、宝石と同じくらい価値がある。大きい物ほど魔力含有量も大きく、価格が指数関数的に跳ね上がるところも同じだ。キルリーフの見つけた物は、かなり大きい。

 キルリーフは血晶石と相手を交互に見たあと、ダークの傍に近寄る。そして彼の空いた手を取り、血晶石を握らせた。


「くれるの?」


 ダークが瞬いて尋ね、キルリーフは黙って頷く。


「ありがとう」


 ダークは思わず、驚きの混じった笑顔を向けた。キルリーフは銀の瞳を逸らし、離れていく。再び彼は、黙々と捜索を始めた。

 ダークは戸惑う。キルリーフの感情は、相変わらずよくわからない。

 ともあれダークは、ベルトポーチに血晶石を仕舞った。



「特にめぼしい物はなかったな」


 手に持っていた剣の柄らしき物を引き出しに戻し、ルークが眉根を寄せて部屋の中央に戻ってくる。

 ヴィンセントは何かの小瓶を目線に翳していた。蓋を外し、匂いを嗅いですぐに閉める。


「ヒーリング・ポーション? それとも聖水か何か?」

「いえ、おそらく酸ですね。一応、貰っておきますか」


 ダークの問いかけに、ヴィンセントはニヤリと笑って答え、肩掛け鞄にそれをしまった。


「じゃあ、ゴブリン達を追いかけるか」


 ルークが弟とヴィンセントを促し、扉へと向かう。


「キルくーん?」


 キルリーフがついてこないことに気づいたヴィンセントが、振り返って声を掛ける。

 森エルフは床に視線を注いでいた。

 ダークとヴィンセントは視線を交わす。

 ヴィンセントは踵を返してキルリーフに近づいた。


「キルくん――、おっ?」


 そして彼の見ているものを、ヴィンセントも目にする。

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